シグナスグリファスをボアアップ|124cc→208cc仕様の激速チューニング試乗レポート|ヤマハ

2021年に発売されたばかりのヤマハ・シグナスグリファスだが、早速カムイ八王子がやってくれた! 待望の水冷エンジンにTTMRC製シリンダーとビッグヘッドを組み込み208ccまでボア&ストロークアップを実現したのだ。これは一体どのような乗り味なのか、とても気になるところ。オーナーの快諾を得て試乗できたので、その実力をご紹介しよう。


REPORT●増田 満(MASUDA Mitsuru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
208ccまで排気量アップしたシグナスグリファスに試乗したぞ!

発売されたばかりのヤマハ・シグナスグリファスは従来までのシグナスXが空冷エンジンだったことに対し、新開発の水冷エンジンを採用したことで大きなニュースになった。いまだカスタム&チューンの人気が高いシグナスXだが、水冷エンジンのグリファスは空冷時代のチューニングパーツが使えないこともありカスタムシーンではまだまだ微妙な扱い。そんななかでカムイ八王子が、チャレンジしたのは、シグナスグリファスのボア&ストロークアップによる208cc化だ。

高く長くされた車体がタダモノではない雰囲気だ。

この車両のオーナー栗原さんはヤマハNMAXに乗っていたものの、カスタムパーツの少なさゆえにイマイチ満足できていなかった。そこにカムイ八王子がシグナスグリファスのカスタムを進めるという話に乗り、乗り換えを決意。納車日にaRacerのフルコンを組み込み、1週間後には63mmまでボアを拡大して軽2輪登録まで済ませている。どれだけグリファスに入れ込んでいるかと物語るところだ。

もちろんそこで満足するわけもなく、さらにカスタム&チューンは進む。63mmボアアップしたエンジンはさらにボアを65mmまで広げて、ビッグバルブヘッドを組み合わせている。これらエンジンパーツはすべてTTMRC製を使っていて、バルブ径はIN23/EX20mmの大径仕様。カムシャフトもTTMRC製R250を使い、クランクはTTMRC製4mmロング仕様とされている。これらにより208ccの排気量と弾けるようなレスポンスを手に入れているのだ。

外装はライトなカスタムにとどめているが、管長を長くとったマフラーの存在感は大きい。
ロングホイールベース化により、タイヤとリヤフェンダーが接触。これを解消するためフェンダーをカットしている。

排気量を208ccまで拡大したエンジンの吸気系にはシンヤ製ダウンドラフトマニホールドを使い、TRHC製ツインインジェクター用スロットルボディに換装。排気系には黒田屋でワンオフされたサブチャンバー付きステンレスマフラーを合わせる。これにより優れた吸排気効率を実現したが、ここまでの内容にすると発熱量が格段に大きくなるためNMAX用を2つ使うツインラジエター化で対処しつつ、KOSO大容量オイルポンプと台湾仕様向けオイルクーラーを追加。燃調に関してはもちろんフルコンはaRacerを使いセッティングしてある。

フロントフォークとブレーキを強化。
重ねるようにレイアウトしたラジエターに、ファンも同時装着。増大した熱量に対応させた。
ロンホイ化したうえでリヤブレーキもブレンボキャリパーに変更。
シリンダーに鋳込まれたTTMRCの文字が誇らしげだ。
駆動系はWF製をメインに使いベルト以外を総変更。リヤショックはレーシングブロス製バズーカ。スプリングの代わりに空気の圧縮を利用しており、非常に軽量。
数多くの追加メーターを装備した賑やかなハンドルまわり。
バッテリーを追加。その理由は……

aRacerで特徴的なのがMGU Eブーストが使用可能になること。これは発進時のスロットル開度により10秒間だけ電動アシストが働いて加速力を強化してくれるもの。シグナルダッシュで効果を発揮するが、使い過ぎると電圧が降下してチェックランプが点灯してしまう。そこでバッテリーを追加してスイッチにより任意にアシストを切り替えられるようにしてあるのだ。

車体側も当然強化されていて、フロントフォークはGJMS製FF2に変更しつつNCY製267mmディスクローターとブレンボ製4ポットキャリパーでブレーキを強化。330mm長のレーシングブロス製バズーカショックを使ったリヤ側ではLIGHT MASTERエンジンハンガーとSHARK FACTORY強化ブッシュを用いてホイールベースを50mm延長している。もちろんリヤブレーキもブレンボキャリパーで制動力アップを図ってあり、エンジンパワーを十分に受け止めらる車体になっている。ここまでの内容を見れば誰しも強烈そうなスクーターに仕上がっていることと想像できるだろう。では、実際に乗ってみた感想をお伝えしよう。

怒涛の加速性能だった!

黒田屋製マフラーはエンジンを始動した段階から、いかにも元気がありそうなパルス感溢れるサウンド。スロットルをわずかに開けただけで、エンジンのレスポンスはすこぶる良好な印象で重さを感じさせないまま高回転まで突入する勢いを感じる。迂闊にスロットルを開けるとのけぞりそうな印象だったので、最初は恐る恐る走り始める。ちなみにオーナーは体重が90kgオーバーだそうで、小柄な筆者は58kgしかない。何が言いたいかと言えば脚が硬めのセットなのだ。だから乗車しただけでは沈み込みが得られないし、多少スロットルを開けてもサスペンションはまるで動かない。また、駆動系の変速タイミングも、軽量な私が乗るとオーナーの狙ったエンジン回転数よりも高い回転で変速しているような気はするものの、それでも、208ccの排気量が生み出す加速力は、ノーマルとはケタ違いのレベル。
フルコンaRacer機能の一つであるEブーストも試してみる。信号での一時停止から青信号とともにスロットルを全開に。Eまるで背中を押されているように、加速感がさらに増す。アッという間に法定速度を超えてしまう。これは楽しい! 調子に乗って何度も試してみたら、案の定チェックランプが点灯してしまった…。どれだけ楽しいか、伝わるだろうか。たとえEブーストがなくても信号ダッシュ敵なしな印象で、Eブーストを使えばビッグバイクにも引けを取らない加速力。さらにEブーストが切れた後には怒涛の高回転。正直なところ、病みつきになりそうだ。

攻めるほどしっくりくる足回り。

加速を楽しんでいたら始めは硬く感じたサスペンションがしっかり仕事をしていることにも気がついた。全開時にしっかり前傾姿勢を保てば、車体は岩のように安定してくれる。もちろんフロントを浮かそうと思えば簡単だろうが、しっかり伏せて加速を楽しむことが楽しいし速い。では直線路だけでなくコーナーはどうだろう。比較的速度が乗るコーナーで試してみると、ここでもヘルメットの中でニヤリとしてしまった。ブレーキングに関係なく思った通りに車体が倒れ込んでくれるから、思い描いた通りのラインでコーナーをクリアできる。ロンホイ化されたことで鈍さを感じるかと思ったが、これは全くの杞憂。それよりコーナリング中の安定感として効果が確かに感じられる。多少路面が荒れていてもビクともしないまま出口に向かってスロットルを開けていけるのだ。またブレーキも秀逸で比較的ガツンと効くタイプだが、そこまでのコントロール性が良好なのでジンワリと制動力を得ることもガツンと効かせることも思いのまま。このグリファスに乗ってしまうとノーマルのスクーターに乗る気がしなくなるほどだった。

とはいえ、ここまでチューニングを進めると予算的に結構な金額になる。おそらく新車がもう1台買えるくらいになるだろうから、できれば徐々にカスタムを進めて段階を楽しむといいのではないだろうか。注意点としては始めにここまで完成した車両に乗ってはいけないということ。これを知ってしまうと段階を楽しむことなど無視して一気にカスタムを進めたくなること間違いないからだ!

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著者プロフィール

増田満 近影

増田満

小学生時代にスーパーカーブームが巻き起こり後楽園球場へ足を運んだ世代。大学卒業後は自動車雑誌編集部…