Z900RS SEを乗り込んでわかった結論|ノーマル+22万円のSE、これはどう考えてもお買い得と感じた。|カワサキZ900RS SE1000kmガチ試乗1/3

前後ショックやブレーキの改善で、バイクのフィーリングは激変する。Z900RSの上級仕様として2022年から発売が始まったSEは、その事実をわかりやすく体感させてくれるモデルだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

カワサキZ900RS SE……1.650.000円

SE専用の車体色はメタリックディアブロブラック。欧州仕様の1973年型Z1が採用した“イエローボール”を再現している。

時間の経過で変化したノーマルの評価

 2017年末の発売以来、日本の大型車市場で圧倒的な人気を獲得しているZ900RS。ただしこのバイクに対する僕の評価は、時間が経過するに従って微妙に下降しているのだった。と言っても、初めて乗ったときは常用域の楽しさに感心したのである。単純に往年のZ1/2の雰囲気を再現しただけではなく、よくぞ、現代の技術で日本の道路事情にマッチした並列4気筒車作ってくれた、という感じで。

灯火類はすべてLED。6室構造の現代的なヘッドライトには異論を唱える人が多いかと思ったが、意外にそうでもなかった。

 ではどうして以後の評価が下がったのかと言うと、原因は多種多様なカスタム車だ。具体的には、ヨシムラ、ビトーR&D、アクティブ、ナイトロン、ラボ・カロッツェリア(オーリンズ)などが製作した秀逸なデモ車を体験したことで、ノーマルに感じていたマイナス要素が、明確になってしまったのである。

水冷並列4気筒エンジンはRSが付かないZ900用がベースで、主要部品の多くを専用設計。最高出力は111PS/8500rpm。

 だから今回の試乗はあまりノリ気ではなかったのだが、編集部とよくよく話をしてみたところ、“ノーマルではなく、上級仕様のSEで”とのことだったので、僕の心境はガラリと変化。オーリンズ製リアショックとブレンボのフロントブレーキキャリパーを装備し、その2つに合わせてフロントフォークのセッティングと構成を最適化したSEなら、前述したアフターマーケットメーカーのデモ車と同様の好感触が得られるかもしれない。そんな期待と若干の不安を胸に抱きつつ、SEで1000kmを走ってみることにした。

我が意を得たりだった「SE」

 うーむ。こういう状況を“我が意を得たり”と言うのだろうか。僕がノーマルのZ900RSに感じた主なマイナス要素は、リアショックの硬さ(作動性の悪さと表現するべきかもしれない)、フロントブレーキのコントロール性の悪さ(原因はブレーキだけではなく、フロントフォークの設定にもありそう)、全閉からスロットルを開けた際の反応の唐突さで(ドンツキはちょっと言い過ぎで、トンツキくらいのレベルがだ)、SEはそれらを程よく解消していたのだ。

 ノーマルと比較するなら、リアショックの動きはあらゆる速度域で上質になっているし、フロントフォークのノーズダイブがナチュラルなおかげで制動力を引き出しやすい。スロットルのトンツキに関しては、インジェクション関連部品が見直されたわけではないけれど、前後ショックのグレードアップの効果で、アクセルが開けやすく感じる。ノーマル+22万円という価格をどう捉えるかは人それぞれだが、これはどう考えても、お買い得と言うべきだろう。

 もっとも、オーリンズやブレンボを筆頭とするアフターマーケットパーツの話になると、“自分の技量では美点がわからない”、“そんなに飛ばさないし”などと、世の中には否定的な意見を述べる人がいる。とはいえ、ポンづけではなく、きちんとセットアップしたアフターマーケットパーツなら、技量や速度域に関係なく、メリットが実感できるはずだ。例えばノーマルのZ900RSオーナーがSEに乗ったら、あまりの違いに驚くんじゃないだろうか。

 ただし、実際にSEを街乗りとプチツーリングに使ってみたところ、スポーツ指向が強めの前後ショックの標準設定は、僕の好みにドンピシャではなかった。そこで快適性を意識して、まずはリアショックのプリロードを大幅に弱め、続いて、リアのダンパーとフロントフォークのプリロード&ダンパーも弱める方向で調整。最終的にオーナーズマニュアルに記載された“柔らかめの設定”から、やや標準寄りのセッティングで好感触が得られることとなった。

 なお前後ショックを調整した際に、乗り味の変化がノーマルよりわかりやすいことも、SEの特徴である。何だか褒めすぎのような気がしてきたが、このバイクにはショックいじりを学べる素材としての資質も備わっているのだ。

やっぱりいいところを突いている

 さて、SEの美点の話を長く続けてしまったけれど、久しぶりにZ900RSを走らせた僕は、自分のこれまで評価はさておき、やっぱりいいところを突いているなあ……と思った。このバイクの何がいいって、まずは車格感だ。Z900RSの車格は近年の1000cc前後のネイキッドでは平均的なのだが、大アップハンドルや幅広いガソリンタンクなどの効果なのだろうか、ビッグバイクを堂々と操っている感が得やすい。この点は基本設計の多くを共有するZ900とは対照的で、カワサキの作り分けの上手さを感じる部分である。

 それに続いて述べたいZ900RSの魅力は、エンジンフィーリング。基本的に僕は近年の並列4気筒に対して、回してナンボという印象を抱いているのだけれど、このバイクはレッドゾーンのはるか手前となる5000rpm以下を使っていても、十分な力強さと抑揚を感じさせてくれる。改めて考えると、そういった資質はかつてのZ1/2系に通じる要素で、現代の思想と技術で製作されたエンジンでありながら、Z900RSは伝統のフィーリングを備えているのだ。

 そんなわけで、SEの魅力に膝を打ち、Z900RSの資質に改めて感心した僕だが、これまでのガチ1000kmを振り返ると、どんなバイクもロングランに使えば多少のアラを感じるもの。近日中に掲載予定の2回目では、試乗のシメとして行った500kmツーリングの模様を紹介したい。

前後タイヤはダンロップのベーシックラジアルと言うべきGPR-300。ちなみに兄弟車のZ900は、同じダンロップでも運動性重視で設計が新しいロードスポーツ2を選択。

主要諸元

車名:Z900RS SE
型式:8BL-ZR900N
全長×全幅×全高:2100mm×865mm×1150mm
軸間距離:1470mm
最低地上高:130mm
シート高:810mm
キャスター/トレール:25°/98mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列4気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:948cc
内径×行程:73.4mm×56.0mm
圧縮比:10.8
最高出力:82kW(111PS)/8500rpm
最大トルク:98N・m(10kgf・m)/6500rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2,916
 2速:2.058
 3速:1.650
 4速:1.409
 5速:1.222
 6速:0.966
1・2次減速比:1.672・2.800
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:180/55ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:215kg
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
燃料タンク容量:17L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:28.5km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:20km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…