カワサキZ900RS SEに500km乗って、他のカワサキ並列4気筒車とは異なる唯一無二の個性を実感した話|1000kmガチ試乗2/3

基本的な素性は、全世界での販売を行うグローバルモデル。とはいえ、Z900RS SEで約1000kmを走った筆者は、他のカワサキ並列4気筒車とは一線を画する、日本の道路事情と日本人の趣向に対するカワサキの配慮に、心を動かされることとなった。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

カワサキZ900RS SE……1,650,000円

かつてのカワサキが日本で販売したネオクラシック系ビッグネイキッドの装備重量が、ゼファー1100:265kg、ZRX1200ダエグ:246kg(いずれも最終型の数字)だったのに対して、Z900RSはダントツに軽い215kg。

カワサキの作り分けの上手さ

 Z900RS SEで撮影を兼ねた約500kmのツーリングをしている最中、僕は改めて、近年のカワサキの作り分けの上手さ、各車各様の存在意義の明確さに思いを巡らせることとなった。今現在の同社は日本市場に、大別すると8機種、派生機種を含めると19機種もの大排気量並列4気筒車を導入しているのだけれど、このバイクを走らせていると、他機種には及ばない面がいろいろあっても、やっぱりコレはコレで、唯一無二の存在なのだなあ……と思えてくる。

 例えば、高速道路では抜群の防風効果を誇るH2 SXやニンジャ1000SXが恋しくなったし、悪路では極上の乗り心地を実現したヴェルシス1000SE、峠道ではシャープな運動性が満喫できるZX-10RやZ H2、Z1000、Z900が頭に浮かんだ。とはいえ、堂々としたライポジでビッグバイクを操っている感や、低中速域の楽しさ、乗車中に眼前に広がる視界が往年のZ1/2を思わせることは、SEを含めたZ900RSシリーズならではの魅力で、こういったわかりやすい特徴の作り方を、僕は上手いと感じたのである。

回さなくても楽しいエンジン

 中でも僕が感心したのは、低中速域の楽しさに貢献するエンジン特性。ちなみに、他機種のエンジンを転用して生まれた近年のスポーツネイキッドは、低中速域重視の変更を行うことが一般的なのだが、実際にそれらに乗ってみると、“単に高回転域のパワーを抑えただけ?”と感じることが少なくない。ところがZ900RSシリーズは、Z900をベースにしつつも、主要部品の多くを専用設計することで、本当に低中速域が楽しいエンジン特性を実現しているのだ。

 具体的な話をするなら、このエンジンは3000rpm付近から濃厚なトルクを発揮してくれるし、そこからトルクピークの6500rpmに向かって吹け上がる感触が、マフラーから純正らしからぬ重厚な音が聞こえてくることもあって、実に気持ちがいい。そのうえ、市街地やタイトな峠道での粘り強さも相当なものだから、ギアの選択で迷う場面もほとんどない。だから、並列4気筒の本領発揮と言うべき高回転域が使えなくても、ストレスが溜まらないのである。

 もちろん、サーキットのように見通しのいい快走路をメインで走るなら、高回転域の楽しさという点で、前述した他のカワサキ製並列4気筒車に軍配を上げる人は少なくないだろう。事実、速度レンジが高い欧州では、Z900RSよりも、他機種のほうが好セールスを記録しているらしい。逆に言うならZ900RSシリーズのエンジンは、ゴー&ストップとチマチマした道が多い日本を念頭に置いて開発したんじゃないか、と言いたくなる資質を備えているのだ。

 一方の車体に関して興味深いのは、低速域と高速域でハンドリングの印象が異なること。と言っても、低速域がヒラヒラ軽快で、高速域で十分な安定性が感じられることは、開発ベースのZ900だって同様なのだが、ワイドなアップハンドルや長めの軸間距離(Z900:1440mm、Z900RS:1470mm)などの効果なのだろうか、Z900RSシリーズのほうが軽快と安定の差異、メリハリは大きい。そしてその差異は、場合によってはライディングの楽しさを阻害する要素になるのだが、Z900RSシリーズにそういった気配はなく、むしろメリとハリのサジ加減が絶妙と思えた。

シートとトンツキは何とかしたい

 さて、ここまでは美点ばかりを述べて来たものの、やっぱりバイクの本質はある程度以上の距離を走ってみないとわからないもので、ツーリングの終盤では気になる点が出て来た。まず僕がこのバイクのオーナーになったら、絶対に変更したいのはシート。日本仕様のノーマルとなるローシートは、ウレタンが薄く、フラットな面が少ないので、300kmを超えたあたりから尻が痛くなってくるのである。

 でもまあ、足つき性重視の日本人の趣向を考えれば、ローシートを日本仕様の標準としたカワサキの姿勢は正解なのだろう。しかも僕のような不満を抱くライダーのために、同社は純正アクセサリーパーツとして、欧米仕様の標準となるハイシート(メイン部の厚さはロー+35mmで、広報写真ではフラットな面が広そう)を設定しているのだから、この件に文句を言うのは野暮なのかもしれない。

 ただし、全閉からスロットルを開けた際の反応の唐突さ、ドンツキまでは行かないトンツキに関しては、何とかしたいところ。この件については、SEでは前後ショックのグレードアップで多少は緩和されているけれど、砂や枯れ葉が多い悪路やウェット路面では、ノーマルと同様に右手の操作にかなりの気を遣う。もっともカワサキとしては、エンジンの元気のよさを強調するため、あえて現状の設定にしたのかもしれないが、最新のZ900のように、エンジン特性が選択できるライディングモードを導入すれば、このモデルの守備範囲は確実に広がるんじゃないだろうか。

日本市場への配慮を感じる

 今だから言うわけじゃないけれど、2017年秋にZ900RSを初めて見たとき、“最近のカワサキもう、日本市場はあんまり重視していないんだな”と僕は思った。何と言ってもカワサキ自身のゼファーやZRXを含めて、既存の日本向けネイキッドは、ダブルクレードルフレーム/正立フォーク/リアのツインショックが定番だったのに、Z900RSはダイヤモンドフレーム/倒立フォーク/リンク式モノショックを採用していたのである。だから外観がZ1/2風でも、乗り味は開発ベースのZ900と同様に、ヨーロッパ指向のスポーツネイキッドだろうと僕は感じていたのだが……。

 ここまでに記した通り、今回のガチ1000km試乗で僕は改めて、Z900RSシリーズが日本市場をかなり意識してるたことを認識した。近年の2輪の世界ではグローバル化が進んで、かつてのような日本専用車はごくわずかになったけれど、このモデルからは日本に対する配慮が伝わって来る。往年のZ1/2の雰囲気を再現しただけではなく、そういう資質を備えているからこそ、Z900RSシリーズは日本の大型車市場で圧倒的な人気を獲得しているのだろう。

1470mmの軸間距離は、現行カワサキビッグバイクの中では長い部類。ただし、近年になって登場した日本製ネオクラシックモデルはさらに長く、ホンダ・ホーク11は1510mm、ヤマハXSR900は1495mm。ちなみにスズキ・カタナは1460mm。

主要諸元

車名:Z900RS SE
型式:8BL-ZR900N
全長×全幅×全高:2100mm×865mm×1150mm
軸間距離:1470mm
最低地上高:130mm
シート高:810mm
キャスター/トレール:25°/98mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列4気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:948cc
内径×行程:73.4mm×56.0mm
圧縮比:10.8
最高出力:82kW(111PS)/8500rpm
最大トルク:98N・m(10kgf・m)/6500rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2,916
 2速:2.058
 3速:1.650
 4速:1.409
 5速:1.222
 6速:0.966
1・2次減速比:1.672・2.800
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:180/55ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:215kg
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
燃料タンク容量:17L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:28.5km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:20km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…