【04】パリダカを走り抜いた先達に訊く|パリダカ経験インタビュー第二弾/柏 秀樹さん(後編)

こんにちは!田中愛生です。かつてパリダカを走った先輩ライダーに、その魅力や苦労などをインタビューする本企画。前回に続いて柏 秀樹さんをゲストにお招きして、パリダカを走り抜くために必要な心得などについて伺いました。早速どうぞ!

大事なのは「速さ」ではなく、ゴールまで「走りきる」こと

苦しみ抜いた後だからこそ最高の感動がある。条件さえ整えば今でもダカールラリーに出場したいと柏氏。

田中:初めてのパリダカでは主催側のミスで涙を飲むことになった訳ですが、翌年は見事に完走。それも総合35位という好結果でした。1998年は残念ながらエンジントラブルでリタイアしてしまいますが、その8年後に久しぶりに挑んだ2006年のパリダカでは、日本人ライダー初の50代での完走を成し遂げています。

柏:2006年はポルトガルの首都、リスボンからスタートだった。マシンはヤマハから提供されたWR450なんだけど、ほぼノーマルだからちょっと飛ばすとすぐにサスペンションがフルボトムしてしまう。だから上手く抑制しながら走らないと完走できないのよ。前編でお話したファラオラリーでは、そこの認識不足でリタイアしてしまった訳だけど、この頃には随分と老獪になっていて大きなトラブルなしで走り切ることができた。サバイバル的な要素の強い競技では無理は禁物なんだよ。もちろん1位に2位を争うような超一流のスーパープロの世界は例外だけど。

田中:柏さんにラリーレイドを走りきるためのテクニックを教えていただき、目からウロコが落ちました。一分一秒を縮めるためではなく、なるべく疲労を抑えて確実にゴールするための技術というのは、それまで自分にはなかったものだったので。先日、草エンデューロで8時間のエンデューロを1人で走ったのですが、すごく役立ちました。

柏:もちろんトッププロの世界では限界ギリギリのパフォーマンスを発揮し続けるんだけど、我々プライベーターは自分の能力に応じた走り方をする必要がある。大事なのは瞬間的な速度ではなく、適度なペースを守ってトラブルを回避し、安全にゴールまで走行すること。全体のアベレージを上げるための走り方だよね。そのためには自分の能力をクールに分析できなければならない。パリダカに出るときは、いつも何位ぐらいでゴールできるか、そのためには何をしなければならないかを綿密にシュミレーションしていたよ。

田中:ラリーレイド競技でも基礎技術は重要だと思うのですが、走る環境が日本とはまったく違いますよね。とくに都市部に住んでいると思いっきり走れる練習場所も少ないですし。どんな練習をすると有効なんでしょうか?

柏:ロードで日常的にできる簡単な方法があるよ。まずは法律で許される安全な速度域で、スロットルをしっかり回して加速し、なるべく急ブレーキングをして止まるようにする。つまり強烈な加減速に体を慣らし、メリハリをつけて走れるようにする。競技の世界でも、結局はストレートでどれだけ速度を乗せてしっかり減速できるかがキモだからさ。しっかりブレーキングができれば普通に旋回するだけである程度のペースで走行できるようになるから。それができた上で旋回速度を高める練習に移行すると良いよ。

どんな逆境でも自分をコントロールできるように

20周年記念大会として開催された98年のパリダカはホンダXR600で出場した柏氏。ゴールまであと4日というところでキャブレター内のパーツが破損してエンジンに吸い込まれ、無念のリタイアを喫した。
ヤマハWR450Fで出場し、二輪部門63位で完走した2006年のパリダカ。出場選手の半数以上がリタイアする過酷な大会だったが、日本人ライダー最年長となる51歳で見事完走を果たす。
栃木県鹿沼市のオフロード施設「鹿沼木霊の森」のアドバイザーとしても活動する柏さん。

田中:パリダカみたいな過酷な競技では、技術に加えて逆境に打ち勝つハートが必要だと思いますが、その辺りは何か鍛錬をされていたのでしょうか?

柏:最初にマシントラブルでリタイアした96年のパリダカでは体調も最悪だった。体重が10kg以上も減ったからね。普通ならドクターストップがかかっていたと思う。だけど、過去に出場した4回のパリダカではとくに専用のトレーニングはしていないんだよね。その代わり、日々変化する日常生活の中で、自分の心や動きを常にコントロールできるよう意識している。お酒を飲んで酔っぱらっていても部屋のドアを開けるときは落ち着いて操作するとか、どんなに急いでいてもコップは丁寧にテーブルに置くようにしたりとか。これはメンタルだけではなく、技術にも関わることなんだけどね。評判でした。上手でないどころではなく実は仲間の楽手のなかではいちばん下手でしたから、いつでも楽長にいじめられるのでした。


田中:いつ、どんなときも漫然と行動しないという事ですね。

柏:そう。イメージとしてはジャッキー・チェンの酔拳に近い(笑)。置かれた状況に逆らわず、力を抜いて柔軟に対処しつつ、目的を見失わず走れるようになるのが理想だね。普段から脱力するように身体を鳴らしておくと、砂漠のような非日常的なシチュエーションでもリラックスできるからさ。

田中:あっという間に時間がなくなってしまったので最後の質問をさせてください。柏さんはどうしてそこまでラリーに魅了されるんでしょうか?

柏:ファラオラリーに出場したときに砂漠の色がサーモンピンクで感動したって話をしたじゃない(前回記事参照)。ラリーには走っている瞬間にしか体験できない・目にできない風景があってさ。そこが魅力だよね。ネットで同じ場所の画像を見る。あるいはヘリコプターで現地に行っても同じ感覚には絶対にならない。あの時、あの場所で、あの苦労、あの疲労がなければ到達できないひとつの境地なわけ。自分だけのかけがえのない体験なんだよ。で、その感動をもたらす源泉が何なのかと突き詰めたらさ、やっぱりキツいからなんだと思う。ものすごく大変だから輝いて見えるわけ。風景の美しさというのは、見る者の心のありようで大きく変わるんだ。砂漠を彷徨って喉がカラカラの状態だったら泥水だって究極の名水になる事を、ラリーを走った人間ならみんな知っているんじゃないかな。とにかく今も昔も僕は好きなんですよ。損得を超えてバイクとラリーがね。お金の都合がつくなら今だってダカールに出場したいぐらいに。

田中:その境地にぜひ自分も立ってみたいです。素晴らしいお話をありがとうございました。

柏 秀樹氏 プロフィール

大学院生時代に作家、片岡義男とバイクサウンドをテーマにしたLPを共同製作する。卒業後はフリーランスのモータージャーナリストとして二輪専門誌に勢力的に寄稿を行う傍ら、パリダカをはじめ、様々な海外ラリーに参戦。現在はそれらの経験を活かし「KRS(柏秀樹ライディングスクール)」の代表として、安全運転に役立つ実践的な技術を多くのライダーに伝えている。ベストセラーになったライディングDVDや著書も多数。

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