43年間ありがとう、そしてさようなら

ヤマハSR400は20世紀の傑作車。令和時代にクラシックバイクを味わえる、希少な存在だ!

ビッグシングルトレール〝XT500〟で得たノウハウをオンロードに応用し、1978年に登場したスポーツモデルがヤマハのSR400/500だ。500については1999年に生産を終了。そして400も2021年3月15日に発売されたファイナルエディションをもって43年の歴史に幕を閉じた。昭和、平成、令和と生き長らえたSR、その魅力にあらためて迫る。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ヤマハ・SR400ファイナルエディション……605,000円

写真はダークグレーメタリックNで、タンクにさりげなく「Final Edition」の筆記体ロゴが入る。ちなみに初代SR400は310,000円だったので、この43年の間に車両価格は約2倍に。
ホンダが2021年4月に発売したGB350。空冷シングルをセミダブルクレードルに搭載するというフォーマットはSR400と共通で、価格は550,000円。7月発売のGB350Sは594,000円だ。
ファイナルエディションのもう1色はダルパープリッシュブルーメタリックXで、ヘッドライトハウジングも同色となるほか、サイドカバーに「Final Edition」のロゴが入る。
ファイナルエディションの1,000台限定モデルがこのリミテッド。ブラックのサンバースト塗装や新色アルマイトのホイールリムなどが特徴で、価格は748,000円となっている。

空冷単気筒のスポーツ性を当時の技術で最大限に追求した秀作

ライダーエイドな電子デバイスは一切なし。ウェット路面での無理は厳禁だ。

 ヤマハからSR400(と500)が誕生したのは1978年のこと。当時、エンジンの主流は2ストから4ストへ、そして多気筒化とハイパワー化の波が押し寄せており、その肥大化したビッグバイクへの強烈なカウンターパンチとして誕生したのがこの空冷単気筒モデルだ。パワーが少なくても車体が軽量であればハンドリングは軽快であり、タイヤの消耗や燃費の面でも有利。また、シングルなら並列4気筒よりも前面投影面積が小さいので空力特性でもメリットがある。実はこの年、SRのベースとなったXT500のエンジンをオリジナルのフレームに搭載したマシン〝ヤマハSY2〟が第1回鈴鹿8耐に出場し、空冷シングルの持ち味を生かして見事8位で完走している。ちなみに優勝したのはヨシムラのGS1000で、ライダーはウェス・クーリーとマイク・ボールドウインだ。

 今でこそ「目覚めの儀式」などと呼ばれているキックスタートを採用したり、振動を低減するバランサーがないのは、あくまでも軽量化のためだ。また、車体ギリギリまで寄せられたマフラーは、バンク角を稼ぐためでもある。そして、初代から1984年モデルまで採用されていた左側のフロントブレーキディスクは、右側にあるそのサイレンサーとの重量バランスを取るため、という逸話もある。つまり、それほどロードスポーツとして真っ当に設計されたのだ。当時の空冷2気筒勢よりも20kg前後軽かったと聞けば、この時代のSRのパフォーマンスの高さがおおよそ想像できるだろう。

 そんなSRが、中断を挟みつつ43年間も基本設計を変えずに生き長らえたのは、ファンの多さとそれに応えたヤマハの良心にほかならない。昨今、ネオクラシックと呼ばれるジャンルが大人気だが、SRは作り続けられた結果としてクラシックになったのであり、雰囲気は似ていても乗り比べると全く別物であることを痛感させられる。

 今回、SR400ファイナルエディションの試乗と前後して、ポストSRとも言われるホンダのGB350に乗ることができた。どちらも空冷SOHC2バルブ単気筒で、最高出力はSRの24psに対してGBは20psだ。GBのために新設計されたエンジンは、一次バランサーのほかにメインシャフトにも同軸バランサーがあり、振動や雑味といったものがほぼ皆無だ。それでいて348cc分の単気筒らしい鼓動感と明瞭な排気音はしっかりと伝わってくる。

 これに対してSR400は、回転数の上昇に比例して振動が増えていき、レッドゾーンの始まる7,000rpmまでしっかり回るものの、常用できる(=ライダーが我慢できる)のはせいぜい4,000rpmまで。トップ5速、100km/hでの回転数は約4,500rpmであり、この速度で30分も巡航すると手のひらに少なからずしびれが残る。加えてパワーカーブはフラットなので、積極的に回したくなるエンジン特性でもない。つまり味わいよりも実用性に徹しており、24psという扱いきれるパワーだからこそ飽きにくいと言えるかもしれない。


元号が令和になっても変わる必要がないことをSRは証明してみせた

私が最初に就職した編集プロダクションでは、1994年式のSR400が社用車として使われていた。前後ドラムブレーキ&キャブ仕様。SRのムックを作るためにこれで東奔西走した。

 車重はGB350より5kg軽い175kgを公称する。ハンドル幅が狭いため取り回しはやや重く感じるものの、データとしてはYZF-R25の170kgとほぼ同等だ。このSR400、動き出してしまえばハンドリングは軽快で、前後タイヤの細さもあって倒し込みや切り返しはスパスパと決まる。ホイールが前後18インチなのでクイックに舵が入るタイプではなく、またペースを上げすぎるとバンク角を含むシャシーの限界を簡単に超えてしまうが、それでも峠道でのスポーティな走りはこれが生まれた当時の志の高さを彷彿させるものだ。

 2001年に再ディスク化されたフロントブレーキは、それ以前のドラムよりも明らかに制動力が高く、しかもコントローラブルだ。これに対して初代からドラムのリヤは、奥の方で制動力が立ち上がる傾向にあり、スリッピーな路面ではややロックさせやすい。とはいえ、すぐに慣れる範疇であり、仮にロックさせても滑り出しが穏やかなので恐くはないだろう。

 ABS義務化に対し、〝らしさ〟を継続できないという理由から生産終了になったと言われているSR400。これを執筆している2021年9月上旬現在、SRの中古市場はかなり過熱しており、乗り出し価格で200万円を超えるものも。すでにオーナーとなられている方は今後も大切に乗っていただきたく、またこれから購入を考えている方は早めに手を打った方がいいだろう。


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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…