ホンダ×ヤマハの販売合戦から生まれた名車&珍車たち
気軽で便利な乗り物として、80年代に国内バイク市場を席捲した50ccクラスの原動機付自転車、いわゆる原チャリ。一時は年間100万台以上を出荷するという、とんでもない勢いを持った「便利な乗り物」だった。80年代後期に免許を取った筆者は、友人知人で、原付に乗っていないヤツを探すのが難しかったほど普及していた記憶がある。
当時、ホンダ、ヤマハは日本国内の出荷台数一位を激しく競い合う中だった(世にいうHY戦争)。このため、80年代はライバルに先駆けるため、新しいコンセプトの原付が多数登場、数々の名車&迷車が生まれた時期でもあった。
ホンダ・DJ-1、ヤマハ・JOG、スズキ・Hiなどの名車のほか、水冷エンジン&排気デバイスを備えたホンダ・ビートや、超近未来的デザイン&ハイパー横置きシリンダーを採用したスズキのモードGTなどの迷車をご存じの方も多いだろう。
さて、当時のホンダは、ライバルのヤマハにないアドバンテージを持っていた。それは「クルマを生産している」ということだ。ホンダはこの利点を最大限に活用し、売れ筋の安い2ストモデルのほかに、クルマの持つ快適性や上質感、高級感をイメージした原付をリリースしていった。
それらには、80年代当時乗用車の分野で流行していた、デジタルメーターやリトラクタブル・ヘッドライト(スペイシー125ストライカーに装備)など、原付にはオーバークオリティかと思われる装備が投入された。ヤマハとの区別をより顕著なものとしていたのだ。
そんな豪華&乗用車ライクな原付をリリースしつつ、ホンダはさらに差別化の手を緩めることなく、車に積んでレジャーシーンを楽しめる小型の原付を開発。これをもって車とバイク、両方を持って生活を楽しんじゃおう、というライフスタイルを掲げた。これが世にいう「六輪生活」というコンセプトだ。いろんなものを開発できる、なんとも贅沢な時代だったといえる。
ライバルがまねできない、二輪四輪同時開発
クルマに積める原付というと、真っ先に思い浮かぶのが同社モンキーだろう。折りたためるハンドル、車体が傾いても燃料が漏れにくい燃料タンクやキャブレター、マフラーとサイレンサーが極力車体からはみ出ないような設計など、車載に対しさまざまな配慮がなされていた。
しかし、そこでとどまるホンダではなかった。なんと車とバイクを同時開発し、「車載用」の原付を作ってしまったのだ。それがご存じ「モトコンポ」である。FF5ドアハッチバック、シティのラゲッジにぴったりとはまる超小型マシンを一から作り上げたのだ。
その作りは徹底していた。
まず車高。ハンドル、シートを折りたたみボディ内に収納すると、ちょうどシティのリヤシートバックと同じ高さになり、ドライバー後方視界を妨げない構造となっていた。
幅、長さはシティのラゲッジとほぼ同じ。テールデザインに至っては、シティのテールレンズの切り欠き形状と合わせるという徹底ぶりだった。
車体固定にはモトコンポ左サイドにある2か所の荷掛けフックを使用するが、当然ながらそのフックから伸ばしたタイダウンにぴったりと合う位置に、シティ側のフックが用意されている。
また、シティのリヤハッチを閉めると、リヤウインドウの右側に、モトコンポの車名ロゴがちらりと見えるようにデザインされているのもポイントだ。なぜ右側かというと、シティのリヤワイパーに被らない位置だからだ。このように、車と同時に、徹底的にデザインされた原付はモトコンポをおいてほかにない。
今なら「これで十分」と思わせる性能
モトコンポは走行の用意も手軽。覚えれば簡単至極だ。
まずモトコンポの車体上部のパネルを取り外して折り畳んでおく。次にハンドルを引き出し上部のノブを回し固定する。右のみに装備されたミラーを引き起こす。さらにシート前側についたレバーを操作しをポップアップさせ、最初に外したパネルを固定しステップを出せば完成だ。ちなみに、シートをポップアップさせないとエンジンがかからないという安全装置も備わっている。慣れれば3分かからず走りだせるだろう。
エンジンは子供用オフロード車、QR50ベースの横置きシリンダータイプ。平地で最高時速は40km/hにも満たない。しかしレジャー施設の周りをチョイ乗りする程度なら十分だ。いま街中を走っている、電動自転車や電動キックボードなどの低速モビリティよりもよっぽどスピードが出るので、一昔前よりも一般道での走行環境は向上しているはずだ。
モトコンポユーザーは、まずエンジン形状やサイズが似ているホンダの「カレン」エンジンにスワップし、パワーアップを図るのが通例だという。そこから先はオーナーのこだわり次第。これはいずれカスタム特集を組んでお伝えしたい。
ちなみにホンダは、20数年前の2001年に「ステップコンポ」という、折り畳み式の電動アシスト自転車を販売した。新型ステップ ワゴンへの収納や車載中の充電を可能としており、その名の通りモトコンポの後継扱いだったのだ。原付が日常の足としての役目を終え、電動低速モビリティメインになった2023年の現在なら、結構需要があるのではないだろうか。