クラシックながらスパルタン。タイ生産のスコマディ・テクニカ125iはネオクラシック系スクーターです

スペインのレオンアートや台湾のハートフォードなど、海外のユニークなメーカーを輸入販売しているウイングフット。今回紹介するのは、2022年5月から取り扱いを開始したスコマディというスクーターブランドだ。2005年に二人のイギリス人によって創業し、現在はタイで生産されているこの新興メーカー。往年のイタリアンスクーターに似たスタイリングが特徴で、今回試乗したのはテクニカ125というレーサー風のモデルだ。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ウイングフット株式会社 https://wingfoot.co.jp/hartford/

スコマディ・テクニカ125i……532,400円(消費税込み)

サイドパネルなど外装パーツの一部にスチールを使用。フレームはスクーターとしては一般的なアンダーボーンで、乾燥重量は125kgを公称する。ホイール径は前後とも12インチ。
カラーリングは写真のパンサーブラックをはじめ、オールドイングリッシュホワイト、ブラッククローム、ホワイトクロームの4種類をラインナップする。

マイルドな加速フィール、ボディ内の反響音にビンテージ感あり

往年のランブレッタの修復やカスタマイズを専門とする英スクーターイノベーション社のフランク・サンダーソン氏と、同じくスクーターのレーサー化を得意とする英PMチューニング社のポール・メルシ氏。この二人によって創設されたのがスコマディだ。ブランド名は「スクーター・マニュファクチャラー・デベロップメント」に由来し、当初は中国のハンウェイモータースが生産を担当していたが、現在は2020年に建設されたタイの工場で製造されている。付け加えると、創設者のフランクとその奥さんもタイへ移住している。

ちなみに、スコマディと仲違いしたハンウェイ社はロイヤル・アロイというブランドのスクーターを生産しており、過去に知的財産権についての裁判沙汰があったものの、のちに和解交渉が行われている。昨年、ほんの少し前後してスコマディとロイヤル・アロイが日本へ上陸したことから、似たようなビンテージ風スクーターが異なるブランドで販売されることに首を傾げた人もいるだろうが、以上がおおまかな経緯だ。

輸入販売元のウイングフットが取り扱うスコマディは、今回試乗したテクニカ125iと、サイドパネルやウインカーのデザインが異なるツーリスモテクニカ125iの2種類だ。両車のスタイリングは、かつて伊イノチェンティ社が製造していたランブレッタをベースとし、そこから独自のアレンジを加えている。特にこのテクニカ125iは、大胆にカットしたサイドパネルや、取り付け角度をアップ気味としたサイレンサーなどが特徴的で、そのたたずまいはまるでレーシングスクーターのようだ。

まずはエンジンから。124.6ccの強制空冷4ストロークSOHC2バルブ単気筒は、最高出力9.8psを公称。変速機形式については、往年のベスパやランブレッタのようなハンドチェンジ式(左レバーがクラッチで、グリップごと回す)ではなく、現在のスクーターでは一般的なCVT無段変速を採用する。遠心クラッチはやや高めの回転域でつながり、そこからの加速フィールはまるでCVキャブのようにマイルドだ。これはロースロットル、つまり右手の動きに対してFIボディのバルブがあまり開かない設定も影響していそうだ。

ボディの一部にスチールを採用しているため、エンジンの反響音がダイレクトに耳に届き、そこにビンテージらしさが感じられる。その一方で、体に伝わる微振動は少なめであり、パワーユニットとしては非常に現代的だ。2スト時代のベスパやランブレッタを知る世代だけに、隔世の感ありといったところである。

なお、最高速は96km/hを公称し、パワー的には街の流れを十分以上にリードできる。ちなみに燃料タンク容量は11ℓで、原付二種スクーターとしてかなり大きめだ。通勤通学など日常の足に使いたい人にとっては、給油回数が少なくて済むというのは見逃せないメリットだろう。


旋回のきっかけ作りが必要、ブレーキは驚くほどガッツリ止まれる

テクニカ125iのハンドリングは、やや独特と言っていい。直進性が強く、コーナリングの際にはハンドルの押し引きや体重移動など、何らかのきっかけ作りが必要だ。日本のスクーターのように、視線を送った方へ車体の傾きとともに自然と旋回するようなイージーなタイプではないことは確かで、ハンドリングの雰囲気としては往年のベスパやランブレッタに限りなく近い。資料が見つからなかったので断言はできないが、ディメンションも当時のものをベースにしていると思われ、これを乗りこなすことに喜びを覚える人なら評価はかなり高いだろう。

フロントのサスペンションは、一般的なテレスコピックフォーク(現行ランブレッタも採用)ではなく、ボトムリンク式のユニットステアを選択する。ブレーキを強くかけてもほとんど沈まない、つまり車体が前のめりにならないアンチダイブリンケージなので、安心して急制動できるというのがポイント。一方、ブレーキについては、左レバーの操作で前後が連動するCBS(コンバインド・ブレーキ・システム)を採用するが、意外と早くにフロントも作動してしまう設定のため、Uターンなど小回りする際にやや手こずりやすい。とはいえ、これは慣れの範疇であり、サスペンション機構も含めてガッツリ止まれることのメリットは極めて大きい。

昔のベスパやランブレッタを普段使いしようと思うと、2ストオイルを携行しなければならないのをはじめ、ベストコンディションで乗るには維持費がかかるなど、それなりに苦労する。だったら……、というきっかけで誕生したのがスコマディであり、つまりスクーター界におけるネオクラシック的な位置付けだ。シート下にメットインスペースがないと日本では人気が出ないと言われるが、このスタイリングと乗り味に惚れた人なら取るに足らない問題だろう。他人とかぶりにくいという希少性も含め、個人的にも非常に気に入った1台だ。


ライディングポジション&足着き性(175cm/65kg)

フロアボードは地面からかなり高い位置にあり、反対にハンドル位置は低めという独特のライディングポジション。足を前方に伸ばすことはできないが、足の置き場所の自由度が高いので窮屈には感じない。
カタログに記載されたシート高は769mm。ホンダ・PCXより5mm高いだけだが、フロアボードの幅が広いので、身長175cmの筆者でも足着き性はご覧のとおり。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…