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ハートフォード・クラシックS 250i……予価60万円(2023年8月末現在)
街乗りに適したエンジン特性で、ワイドオープンは不要だ
1995年、親会社である協鴻工業の支援を受けて、台湾に設立されたハートフォードモータース。初期に250万ドルもの額を投資し、15年以上の長きにわたって2輪用エンジンを製造してきたメーカーであり、ハートフォードは完全自社生産のブランドとなる。ちなみに協鴻工業はマシニングセンタなどを生産するメーカーで、これまでに1万6000台もの工作機械がボーイングやエアバスなどの大手企業に納入されている。
現在のハートフォードの輸入販売元はウイングフットで、第1弾のミニエリート150iに続いて販売予定なのが、このクラシックS 250iだ。車名は250だが、搭載されている空冷単気筒エンジンの排気量は223cc。この数値を見てピンと来たので調べたところ、かつてホンダがラインナップしていたXL230やSL230、CB223Sらとボア×ストローク値(65.5×66.2mm)が共通だった。なお、資料によると動弁系はSOHC4バルブとなっており、燃料供給はもちろんフューエルインジェクション。さらにオイルクーラーまで備えており、このクラスの空冷シングルとしてはハイテクな内容と言えるだろう。
メインスイッチをオンにし、セルボタンを押すとすぐにエンジンは目覚めた。アイドリング時の排気音は単気筒らしい歯切れの良さがあり、それでいて耳障りに感じないという絶妙なバランスを保っている。
クラッチレバーを握り、ローにシフトして発進する。排気量が250ccフルサイズではないので気を抜いていたが、意外なほど低回転域から力強い。最高出力17.7psを発生するのは9,000rpmだが、およそ2,000rpmから6,000rpmまでの低~中回転域にしっかりとした力があり、スロットルを大きく開けなくても街の流れをリードできる。
スロットルレスポンスは適度に穏やかなので、巡航中はエンジンに急かされることがなく、渋滞気味の道路を走っていてもストレスを感じにくい。メーカーの資料によると最高速は114km/hとのことで、おそらくメーター読みならもう1割ぐらい上の数値になるだろう。不快に感じない程度の適度な鼓動感もあり、そうした味わいも含めて完成度の高いパワーユニットだ。
見た目に反して大らかな旋回性、これがクラシックSの乗り味だ
クラシックS 250iのホイールベースは1,300mmを公称。これはホンダのCL250(1,485mm)比で20cmあまりも短く、むしろCT125・ハンターカブの1,260mmに近い。実際、車体は非常にコンパクトで、仮にピンク色のナンバーが付いていても誰も疑わないレベルのサイズ感だ。
そうしたスペックを見たことで、比較的クイックなハンドリングを想像していたが、むしろ反対だったことに驚いた。フロントホイールがステアするスピードがゆったりしており、大らかな旋回特性を有していたのだ。これは17インチながら外径が大きめのタイヤと、そのタイヤのラウンド形状がフラット気味であることが影響していると思われ、さながら前後18インチのような乗り味である。これは適度な鼓動感を発生するエンジンとも相性が良く、乗り味でもクラシカルな世界観をうまく構築していると感じた。
乗り心地については、前後ともサスのストローク感があり、エアボリュームのあるタイヤとしなやかなスチールフレームも相まって、大きめの段差も軽くいなしてくれる。一方、サスペンションのダンピングの効きがやや弱めなのと、センタースタンドの接地によるバンク角不足もあり、無茶に飛ばすのは避けた方がいいだろう。
ブレーキは前後ともディスクだ。ナンバーを取得したばかりの新車ということで、まだ慣らしは済んでいなかったものの、車重に見合った制動力を有していそうなことは十分に確認できた。また、2チャンネル式ABSを採用している点も安心材料となるだろう。
近年、マットモーターサイクルズやブリクストンなどの海外勢が、ネオクラシックなバイクをラインナップして注目を集めているが、ハートフォードも競争力では決して負けていないことを実感できた。コンパクトで足着き性が良く、しかもおしゃれなネオクラ系が欲しい人にとっては、かなり刺さりそうなモデルだ。