カリフォルニアに見る新しい自動車スタイリング [ Shikado’s Column #4 ]

Shikado’s Column 第4話は米国カリフォルニアからの現地レポート。真夏のカリフォルニアから最新の米国自動車事情として、新興ブランドのEV車のスタイリング動向をご紹介していきます。
TEXT & PHOTO : 鹿戸 治 PHOTO : トヨタ自動車、Lucid

アメリカの流行はカリフォルニアから

本年5月から、私がどの様に車に興味を持ち、カーデザイナーを志す様になったか?を書いて来ました。 先月のコラムで京都市芸大を卒業しトヨタ自動車に入社してカーデザイナーへの第一歩を歩み始めるまでを書いてまいりましたが、筆者自身が7月から米国カリフォルニア州に来ているので今回は少し指向を変えて、最新の米国の車事情を現場からお伝えしてみたいと思います。
米国のと大上段に構えましたが、何分国土が広く地域によって車の使い方や嗜好性も異なるので、ここでは私が実際に目にした南カリフォルニアの動向を中心にお話しして行きたいと思います。

ご存知の様にカリフォルニア州は、IT産業などリベラル(自由主義)で革新的な産業が多く、そこで働く人々も流行に敏感で、先進的な考えを持った人の比率が高い事で知られています。

自動車業界でも1970年代に造られたトヨタ自動車のCalty社を皮切りに日米の各社やドイツ、韓国などのメーカーが、そのデザインのアンテナ基地としてのスタジオをここカリフォルニアに構えています。例えば、今や乗用車の主流となったSUVが流行り始めたのもカリフォルニアが先行していました。正確な台数は把握していませんが、ここ数年の全米でのEV車の普及率もカリフォルニア州が一番ではないかと感じられるので、今回はそのEV車の動向から。

編集部注:アメリカ州別EV登録ではカリフォルニア州が全体の約4割を占め、ダントツの1位。

際立つサイバートラックのスタイリング

そして、カースタイリングを語る上で、今一番ホットな話題と言えば、乗用車でEV市場を牽引するテスラ社が昨年末に販売を開始したサイバートラックでしょう。その平面と直線だけで構成されるボディのスタイルは今まで作り続けられて来た自動車のスタイルとは明らかに違う。遠目に見ても、群衆の中にあっても直ぐにそれと判別出来る程際立っています。またそのインテリアも驚くほどシンプルに作られています。


直線と平面のみで造形されたそのスタイルは今まで誰も思いつか無かった造形ではないかと言うとそうでは無いと思います。2019年にテスラ社がサイバートラックコンセプトを発表し、その三角形を基調としたスタイルを見た時、私は記憶の奥底に眠っていた古いコンセプトカーをふと思い出しました。
それは、1970年代の後半にトヨタがそのPRホールに展示する為に造った1台のコンセプトカー「ASTEROID」です。1979年にトヨタに入社した私はトヨタ会館に展示されていたシルバーのコンセプトカーの斬新さに目を奪われた事を覚えています。このアステロイドはトラックでは無く3座席のロープロファイルクーペでしたが、ボディーが全て平面と直線だけで構成されていることはサイバートラックと同じです。特に三角形のキャビンの造形は、そっくりと言って良い程でした。残念ながらアステロイドは市販化され無かったので路上で見る事は出来ませんでしたが、もし市販化されていればかなり目立つ存在であった事は想像に難くありません。
約50年の時を経て具現化された平面と直線のみのデザインテーマ。決してサイバートラックが古いと言っているのでは無く、デザインの種は同じでもその時代背景やパッケージングによって生みだされる形には様々な変化が表れて実に面白いと感じるのは私だけではないと思います。

トヨタASTEROID : 写真提供 トヨタ自動車
 

サイバートラックの大胆なデザインが具現化できたのもテスラ社というEVの新興勢力とその牽引車とも言えるイーロン・マスクCEOのトップダウンのなせる業とも言えます。既存の大手自動車メーカーならば、全く絞り*の無いステンレス平面板の面品質の問題や塗装をしない鉄板表面の経年変化等が問題視され、なかなか生産化にGoサインは出無かったと推測します。

※絞り:雄雌のプレス型で形状を出す板金の加工方法で、絞り加工といいます。

実際街で見かけるサイバートラックの外販面はパーツ毎に色が違っていたり、接触した手指の跡が見受けられます。今後数年が経過するとどんな変化が見られるのか興味深々です。

リビアン RT1

カリフォルニアで、EVと言えばサイバートラックのみならずもう一つ面白いトラックが近年出て来ました。それはリビアンR1Tです。
リビアン社には先ず2021年から製造を開始したピックアップトラックR1Tとそれに続いて販売され始めたSUV車R1Sが有ります。リヴィアン社は、ピックアップトラックとSUVに「スケートボード」と呼ばれる汎用性のあるプラットフォームを採用しています。

CarStylingの上で興味深いのは、内燃機関エンジンを用いるプラットフォームに比べてデザイン的に自由度の高いEVプラットフォーム上に理想的なプロポーションのボディーを構築する事により奇を衒った造形の為のキャラクターラインや面の変化などを廃して実にシンプルで美しい造形の箱をデザインする事に成功しています。
唯一の冒険的なデザインテーマはフロントエンドのヘッドランプ部に見て取れますが、これもトラックにありがちないかつさや重々しさを廃して、軽快で親しみのあるデザインと言えます。

リビアン社がこの造形テーマを今後どう発展させて行くのか?私個人的には大いに興味を持っています。

トラックだけじゃない!

EVトラックの話題が続きましたが、北米のEVは決してピックアップトラックだけではありません。
現在EV市場を牽引するテスラ社が2012年から量産化したモデルSは全長:約5m、全幅:約2mという大型のセダンで、これは車両価格的に競合車となるメルセデス、BMWと言った高価格ブランドと肩を並べる為の戦略であったと考えられます。モデルSでEV車No.1の地位を築いたテスラは後にモデル3,モデルYという小型セダン、SUVへと車種を広げて行きます。

ルシード・エア

もう一つ気になるEVセダンが1台。北米のEVとしては後発になるルシード社のルシード・エアはテスラSから約10年後にほぼ同じボディーサイズで登場して来ました。堂々たるサイズでテスラSよりも全高の少し低いセダンスタイルは伸びやかで優美ですが決して重々しくは見えません。

しかし$75K~$100Kと言う価格帯はさすがに量販は難しくまだまだ街で見かける台数は僅かです。

PHOTO:LUSID
PHOTO:LUSID

その他にもボルボ傘下の企業ポレスター社が製造するポレスター2, 3 & 4といったEVも健闘しています。また、EVとしては比較的低い価格帯では韓国車のヒュンダイ&KIAのEVも有り、更なる競争の激化が予想されます。このヒュンダイ&KIAのEVはボディーのキャラクターラインの扱いやランプ類のデザインに於いて一歩先を行こうとする意欲が感じられて面白いです。

電池の寿命の問題、充電時間の問題、また電池の発火の問題。そして今後出て来るであろう廃棄される多量の中古電池の問題等、EVにまつわる問題はまだまだありますが、環境問題上避けては通れない自動車の電動化。これからの10年の技術開発に注目して行きたいと思います。

テスラ販売状況
テスラの2024年第2四半期の「その他のモデル」(モデルS、X、サイバートラック、セミを含む)の納車台数は2万1551台でした。さらに、リコール情報から、6月6日時点でのサイバートラック生産台数が1万1688台、4月中旬時点で3878台だったことがわかっています。
7902台販売したフォードのF-150ライトニング これらの数字を比較すると、サイバートラックが米国の電動ピックアップ市場でトップに立った可能性が高いと言えます。
テスラは他の主要自動車メーカーと異なり、モデル別の販売台数を公表していないため、正確な比較は困難です。しかし、テスラのEV生産能力の高さとサイバートラックの人気の凄さを考えると、このトラックが競合他社を短期間で追い抜いた可能性は高いと思われます。

謝辞
今回のサイバートラックの比較記事に使用したトヨタ・アステロイドの写真は、トヨタ博物館の布垣館長経由でトヨタ自動車デザイン部の資料の中から御提供頂きました。ご協力いただき有難うございました。編集長:難波 治

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著者プロフィール

鹿戸 治 Osamu SHIKADO 近影

鹿戸 治 Osamu SHIKADO

1955年大阪生まれ。京都市立芸術大学デザイン科卒。
1979~1993年: トヨタ自動車デザイン部、カローラ&カ…