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皆んなで楽しい時間を共有する空間型モビリティの提案
このモデルはSALOONのようにすぐさま量産化を目的として製作されてはいないらしいが、空間の確保と走り姿のスタンス表現についてのデザインの組み立て方はSALOONと同じ方程式を用いている。
このSPACE-HUBもSALOONと同様に、人が時間を過ごすスペース部分が1番広くなるように計画されている。現行各社のミニバンが寸法目一杯の箱を作って威圧的で高圧的な存在感を持つのとは、そもそもの考察の土台が違っていて、路上を高速移動する車としての走りの確かさを感じさせるような造形の組み立てをSALOONと同様にかなり理詰めで計画している。もちろん同時にBEV として必須なエアロダイナミクス値向上のためのエアロダイナミクス要件から来る造形処理も組み込まれ、それが結果的には単なる箱に見せない、気持ちの良いスクエアなカタマリに見せる演出となっている。その空力的性能を確保するために工夫されたシートレイアウトと空間のあり方がSPACE-HUBの特徴となっている。
ホンダが発表したSPACE-HUBのメッセージは[人々の暮らしの拡張を提供する]というものだ。SPACE-HUBの後席空間に乗り込むとそれを感じることができる。
人々が集うときには楽しい会話が欲しい。この車での共通の話題は移動の中で外を流れる景色や大きく開かれたガラスの天井から見える空の話になるのかもしれない。昨今は複数人が一緒にいても各自のスマホに没頭するだけで全員が下を向き、集うということの意味自体がなかなか見出せないが、SPACE-HUBの後席では移動も旅も楽しい時間が生まれそうである。
SPACE-HUBのエクステリアの組み立ては、こちらもSALOONと同じように軽く中折れするボディサイド面のゆったりとしたセクションを持つ。
またプランカーブもゆったりと前後に絞り込まれており、この絞り込まれた部分にセットされている前後の車輪がいかにも外側に張り出して踏ん張っているように見えるようにされている。
このような大きなストロークのプランカーブを用いた構成は、造形シロのないサイドセクションの中で、いろいろと断面を工夫してホイールアーチの存在を作り出している平坦で四角四面の現行のミニバンとの見え方の大きな差である。多くのミニバンがバスに近い最大空間効率を重視する貨車的な移動体とするならば、SPACE-HUBはその車名を体現するようなスペーシャスモビリティと言える。こちらはやはり大地を走ることを意識した移動体であることを忘れていないのだろう。
またルーフの両肩の角は柔らかく丸められていて、そのRの半径がボディ中央を過ぎると次第に大きくなり、その断面はそのまま後端に抜ける。また、ゆったりとした中折れのサイド面もリアホイールアーチを過ぎるとテンションのかかった1本のカーブへと変化しているので、ボディ後端はとてもソフトな、4隅のコーナーの気持ち良い四角形となる。さらにそのスクエア形状はリアバンパーによって上方に押し上げられて、横長のスクエア形状となって安定感を感じるようになる。さらにスクエアの面積は両サイド側からも押し縮められるようにプランカーブでギュッと絞られているので、リアホイールアーチの見え方やリアタイヤの踏ん張り感を強く感じるように計画されている。
このクルマはシートレイアウトが特徴的だ。
3列シートの最前列はコックピットエリアとして空間設定上は後席と分けられている。
一般的な3列車の場合、シートは前方から順に1列目、2列目、3列目と並ぶので、3列目はどうしても2列目シートでドアオープニングの作り出す開放的空間から後方へ追いやられてしまい閉鎖的空間となるのだが、SPACE-HUBは運転席の背後に後ろ向きの2列目シートを設けて、2列目と3列目で向かい合わせのリビングルームのような空間に仕立てており、ここはいわゆる「一間」となるようにしていて、乗員全員が気持ちの良い空間の中で過ごすことが可能だ。SPACE-HUBのこの2列目の提案がこの車の空間性表現におけるキーになっている。
またこうすることで車内を前後に移動する必要がなくなって、左右のシート間にウォークスルーのための空間を設ける必要がないのでシートはゆったりと大きめにしつらえることができる。
しかし、そのソファ型シートのセンターに幅100mm程度のスリットを設けて左右席の境を作っているのだが、そのスリットがコックピットエリアと後席ルームエリアの空間性を分断してしまうことを解決している。
また、2列目と3列目のシート間隔は非常に良い距離感を保っている。向かい合わせシートは近過ぎれば圧迫感を感じ、離れ過ぎれば話が進まない。SPACE-HUBの距離はその点で抜群の距離感をもっている。
3列目のヘッドクリアランスを取りながらルーフを下げることで、エアロダイナミクスの要件もクリアしやすいだろうと推察する。
サイドビューでのプロポーションを見るとかなりスムーズにルーフを下げられていて、それを受ける様にリアオーバーハング部は切り上げられて車体が後ろ下りに見えないようにバランスをとっている。
[My Opinion]
SPACE-HUBはホンダが提案するピープルムーバーのコンセプトカーであり、テーマは好ましくBEVの技術的な構成要素も考慮しながら新しい魅力価値を提案している。その様なコンセプトカーに注文をつけるのは無粋なことかもしれないが、SPACE-HUBが長時間移動を前提とするのであればまだまだ様々な課題を積み残していることは否めないしホンダもそれはわかっていることだろう。それでもあえてホンダがこれからのBEVであるHonda 0シリーズとしてSALOONとともに発表したところに、転換期を迎えた自動車開発の新しいステージに向かうホンダの挑戦魂と覚悟を感じた。
編集長:難波 治