ヤマハ発動機との共創から生まれたマイクロEVトラクター 〜生成AI時代の知財管理に挑む〜[アメリカ・シリコンバレーからVol.7]

私が共同創業者兼最高デザイン責任者として経営するスタートアップFinal Aimは、アメリカと日本を拠点に、最先端のテクノロジーを駆使してデザインやものづくりに新たな価値を提供しています。特に、近年飛躍的な進化を遂げている生成AIに注目しており、自動車業界をはじめとする多くの分野で、生成AIがビジネスや企画、デザインにもたらす革新と、その可能性を探求しています。

そして最近のプロジェクトとして、ヤマハ発動機との共創を通じて、生成AIを活用した開発の最前線に挑んできました。これまでの記事では、その概要や具体的なデザインプロセス、成果についてご紹介してきましたが、今回は生成AIとデザインに関して、現在ホットな議論のひとつである知的財産権(知財)の課題にどのように取り組んだのかをご紹介したいと思います。
TEXT : 横井 康秀 PHOTO :ヤマハ発動機、横井康秀

生成AIと知財:デザインにおける新たな挑戦

これまでの記事でもお伝えしたとおり、生成AI(Generative AI)は、デザイン業界と現場に革命をもたらしています。私たちが手がけたヤマハ発動機とのプロジェクトでは、生成AIを活用して生まれたモビリティデザインが注目される一方で、知財の課題と向き合う必要がありました。
その解決策として、Final Aimが提供する、オンラインのデザイン・知財管理プラットフォーム「Final Design(ファイナル・デザイン)」を活用し、生成AIの正しい利用とその知財管理を実現しました。
本記事では、この実践的な知見を基に、生成AI時代の知財課題とその解決策、そして未来の可能性について探ります。

ヤマハ発動機との共創から生まれたマイクロEVトラクター
生成AIを活用したことで生まれた特徴的なデザイン
短期間で数え切れないほどのアイデアをAIにより生成し、ヤマハ発動機やデザイナーのノウハウもブレンドしながら、最終アイデアまでブラッシュアップした

生成AIがもたらす知財の課題と対応

生成AIは、膨大な学習データを基に新しいデザインやアイデアを短時間で生成するテクノロジーです。その利便性と創造力の一方で、生成AIの利用段階においては、以下のような知財に関する課題が言われています。

  • 生成物の知的財産権の帰属に関する課題
    AIが生成したデザインの知財は誰に帰属するのか。そもそも生成AIと関係なく、現行の法律では、人間の創作意図や寄与が認められない場合、生成物は著作物と認められないことがあります。特に、生成AIが完全自動で生み出したコンテンツについては、著作権の帰属が曖昧なままとなってしまいます。
  • 既存著作物との類似性・依拠性に関する課題
    生成AIによる制作物は、既存の著作物との類似性や依拠性が争点となるケースもあります。このあとご紹介する文化庁の資料によれば、既存著作物の「表現上の本質的な特徴」が共通し、なおかつその生成物が既存著作物に依拠していると認められる場合、著作権侵害とみなされる可能性があります。

上記課題に対する実務的な対応

  • デザインプロセスの管理
    生成物の知的財産権が自らに帰属し、また、既存著作物の著作権を侵害しないようにするためには、デザイナーやクリエイターが生成AIを利用する際に、自らの創作活動により、生成物が生じたというデザインプロセスを管理する必要があります。具体的には、デザイナーやクリエイターが生成AIを利用する際は、いつ・誰が・どの生成AIを・どのようなプロンプト(生成AIへの入力テキスト)を駆使し、どのような画像を参照(生成AIへの入力画像)し、どの制作物を生成したのか、などといった利用に関する詳細な履歴情報を保存し、管理する必要があります。このような履歴情報は、デザイナーやクリエイターが自らの創作意図や寄与を主張する際の重要な証拠となります。
  • 利用規約の確認
    細かな点では、生成AIのサービス提供事業者が定める利用規約において、生成AIが生み出した成果物の著作権を取得しない等と定められているかについての検討も必要です。仮に、利用規約に生成AIが生み出した成果物は、サービス提供事業者に帰属すると定められていると、成果物の著作権がサービス提供事業者に帰属する可能性が出てくるためです。

上記課題に対する各国の対応

これらの生成AIの利用における課題と、デザインデータを含めた履歴情報の管理は、日本国内のみならず、グローバルでも注目されています。WIPO(世界知的所有権機関)や米国著作権局などは、日本と同じように、生成AIの正しい利用と管理を促す指針を打ち出しています。

文化庁:令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」

WIPO:ガイドライン「Generative AI Navigating Intellectual Property」

米国著作権局:「Copyright Registration Guidance: Works Containing Material Generated by Artificial Intelligence」

WIPO(世界知的所有権機関)によるガイドライン「Generative AI Navigating Intellectual Property」

ヤマハ発動機との生成AIによるプロジェクトにおける知財管理

Final Aimが提供するプラットフォーム「Final Design」は、生成AIを活用したデザインプロセスと知財管理をシームレスに管理します。

具体的には、以下の主要機能を通じて、生成AIにおけるデザインと知財の新しい管理方法を実現しています。

  • 生成プロセスの記録と可視化
    どのような生成AIツールを利用したのか、プロンプト、参照画像、生成日時、創作者など、生成プロセスと、デザイン契約書などの知財に関わる重要なデータや書類などを記録し管理します。生成AIによるアイデアから、どのように人の創作が加わったのか、最終デザインから設計・製造データまでどのように生み出されたかを可視化し、トレーサビリティを確保し、正当な生成AI利用の記録を担保します。
生成AIの利用段階で発生した最終デザイン・その途中経過・契約書・知的財産といった最重要データを、削除や改ざんができないかたちで一元管理

世界トップクラスの弁護士や弁理士によるプラットフォームの監修

Final Aimは米国本社・日本支社のスタートアップであるという利点も活かし、コーポレートや知的財産の分野で世界屈指の実績をもつ複数の法律事務所と弁護士・弁理士による監修を受けています。また、その管理技術には、ブロックチェーン・スマートコントラクトが活かされており、最高レベルの透明性や耐改ざん性を実現し、デザイナーやクリエイターの権利を守ります。

世界屈指の実績をもつ法律事務所による監修を受け、デザイナーの権利を保護

このヤマハ発動機とのプロジェクトでも、生成AIの利用透明性を確保し、プロジェクト全体の知財リスクを軽減し最終デザインの知財を担保するために「Final Design」が大きな役割を果たしました。
具体的には、生成AIが利用されたすべてのデータを詳細に記録し管理しました。生成AIによるアイデア展開から、どのようにヤマハ発動機のノウハウや、プロジェクトに携わったデザイナーやエンジニアなどメンバーの発想がくわわったのか、すべての変遷が辿れるようになっています。そして、最終デザインから設計・製造データまでも、改ざんされないかたちで一元管理されています。

最終的には、プロジェクト全体を通じて、デザイン・知財管理プラットフォーム「Final Design」を活用した生成物の適切な管理により、知財リスクが大幅に軽減されました。また、それ以上の成果として、生成AIを活用したデザインが将来的にも安心して利用可能な状態を実現しました。
生成AIが生み出した複数のアイデアから、デザイナーがクリエイティブな視点で最適な選択肢を採用するプロセスが強化され、人間とAIのコラボレーションによる革新的なデザインが具現化されたといえるでしょう。

生成AIを活用したデザインとそのプロセスを一元管理
契約書や画像のみならず、設計・製造に関する3Dデータも改ざんできないかたちで管理し、最終デザインの知財を担保

デザイナーが中心となり、生成AIとともに将来を切り拓く

デザイン、生成AI、知財といった異分野をまたぐことで実現したヤマハ発動機との取り組みは、デザインの未来を象徴する一つの道標となりました。アウトプットの質だけでなく、プロセスそのものが示した価値は計り知れません。これからのデザイナーには、生成AIやブロックチェーンといった先端技術を理解し活用するスキルにくわえ、知財を含む複合的な知識も求められます。そして、それらの技術を倫理的に、かつ創造的に使いこなす視点と知恵が不可欠となるでしょう。

もはやデザインは孤立したプロセスではありません。ハードウェア、ソフトウェア、ウェブ、AIといったあらゆるテクノロジーと連携し、法務や知財の専門家と密接に協働することを前提とした、統合的で包括的な活動へと進化していきます。デザイナー自身もこのような進化に対応し、幅広い知識や知恵を駆使し、リードする役割が求められているのではないでしょうか。

ヤマハ発動機との実例は、こうした複雑な課題に直面しながらも、それを乗り越えることでデザインを次のレベルへ押し上げるための指針を示してくれました。このプロジェクトを通じて得た知見は、未来のデザインを切り拓く大きなヒントになると実感しています。

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著者プロフィール

横井 康秀 Yasuhide “Yasu” Yokoi 近影

横井 康秀 Yasuhide “Yasu” Yokoi

横井 康秀/Yasuhide “Yasu” Yokoi
株式会社Final Aim 共同創業者 兼 最高デザイン責任者。日本生まれオ…