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Bentley Speed Six Continuation
半年間に及ぶテストプログラムをクリア
現在、ベントレーは、93年ぶりに「スピード シックス」のカスタマーモデルの製作を進めている。2020年、マリナーのエンジニア、職人、技術者からなるプロジェクトチームは、英国のスペシャリストやサプライヤーと緊密に協力し、世界初の戦前車のコンティニュエーションシリーズのプログラムを立ち上げた。
最初のコンティニュエーションシリーズである「ブロワー コンティニュエーション」の製造が完了したことを受けて、「スピード シックス コンティニュエーション」のエンジニアリング車両0号車(スピード シックス カーゼロ)とファクトリーワークスを使った、6ヵ月間におよぶテストプログラムを実施。最高速度テストでは、オリジナルと同じ112mph(180km/h)を記録している。
テストが完了したことを受け、当時と同じ素材や技術を用いて、12台のスピード シックス コンティニュエーションの製造が開始された。スピード シックス コンティニュエーションは、世界初の第2次世界大戦以前の車両を製造するコンティニュエーションシリーズ。限定12台はすべて予約時点でソールドアウトしており、それぞれのカスタマーは当時を彷彿とさせる仕上げや素材から、自分の希望に合わせた車両を作り上げることができる。1台の車両の製造にはそれぞれ10ヵ月を要する予定だ。
英国が誇るレストア技術をフル活用
戦前のベントレー工場であるクリックルウッドの環境は、清潔で整然としたマリナーのワークショップとは大きくかけ離れている。それでも、それぞれのスピード シックス コンティニュエーションは、1920年代のW.O.ベントレーとそのチームが慣れ親しんだであろう工具、材料、技術を用いて製造。今回、当時のままを再現するため、マリナーは英国が誇る高い技術とレストアの専門家のネットワークを活用することになった。
スピード シックス コンティニュエーションのシャシーは、マトロックにあるポートベロー・エンジニアリング(Portobello Engineering)がオリジナルの設計図をベースに製造。彼らが最初に行ったのは、シャシーレッグとクロスメンバーの素材となる5mm厚「S355J2」鋼をプレスするため、20t以上の金型を製作することだった。この研究開発プロセスだけで実に6ヵ月以上を要したという。
ポートベロー・エンジニアリングでプレス成形されたシャシーレッグとクロスメンバーは、トリミング、チェック、バリ取りが行われ、最終的にベントレーのクリックルウッド工場で使用されていたBSF(非メトリック)ボルトを使って組み上げられる。
スピード シックス コンティニュエーションのボディを構成するアッシュフレームは、伝統的なコーチビルドの道具と技術を駆使して、この部門のスペシャリストであるロマックス・コーチビルダーズ(Lomax Coachbuilders)によって手作業で製造。フレームがマリナーのワークショップでスピード シックスのシャシーと一体化され、オープンツアラータイプのボディワークが組み上げられる。
ル・マン24時間レース用ライトを再現
シェフィールドのヴィンテージ・ヘッドランプ・レストレーション・インターナショナル(Vintage Headlamp Restoration International Ltd)は、ヴィンテージデザインのヘッドランプをオリジナル仕様で製作することで知られている。彼らは1929年と1930年のル・マン24時間レースで重要な役割を果たした、特徴的なスピード シックス用ヘッドランプを正確に再現した。
ビスター・ヘリテージに拠点を置くヴィンテージ・カー・ラジエター・カンパニー(Vintage Car Radiator Company)は、クラシックカーのラジエターとコンポーネントのエキスパート。戦前のラジエター構造、28種類すべてを製造する世界で唯一の企業だ。同社はスピード シックスのラジエーターコア、鏡面研磨されたソリッドニッケルシルバーのラジエターシェル、スチールと銅製の手打ち燃料タンクの製造を担当した。
キングスベリー・レーシング・ショップ・リミテッド(Kingsbury Racing Shop Limited)は、ヴィンテージ・ベントレーのレストア、準備、整備のスペシャリスト。彼らはトム・ダーク・エンジニアリング(Tom Dark Engineering)と協力し、オリジナルの図面を3Dモデルへと変換した。エンジンブロックの鋳造を含む600以上のパーツが、6.5リッター直列6気筒エンジン用に製作されている。
初期のダイノテストにおいて、6.5リッター直列6気筒エンジンは207PSを発揮。現代の素材を駆使すれば、これ以上のパワーを達成することも可能だが、コンティニュエーション・シリーズの意図は、1929年当時の姿と性能を忠実に再現すること。あえて、当時のままのスペックに留められているという。