知る人ぞ知るベントレーのビスポーク部門「マリナー」

「超高級の中の超高級」女王陛下専用リムジンなど手がけるベントレーのビスポーク部門「マリナー」とは?

復刻されたベントレー・ブロワー。構造だけでなく素材や仕上げまで、すべて当時と同様に造られている。12台が造られ、価格は150万ポンド(約2億9000万円)。
復刻されたベントレー・ブロワー。構造だけでなく素材や仕上げまで、すべて当時と同様に造られている。12台が造られ、価格は150万ポンド(約2億9000万円)。
近年、ベントレーが特に力を入れているのがマリナー部門。通常のモデルでありながらセミオーダーに近い仕上げを施すだけでなく、歴史的モデルの復刻や超少数の特別なモデルを生み出す。まさにベントレーの中のベントレーを具体化する場所なのだ。(GENROQ 2024年1月号より転載・再構成)

BENTLEY Mulliner

特別なモデルやオプションの開発部門

2022年に発表されたバトゥール。コンチネンタルGTをベースとするが、ボディパネルは完全なオリジナル。これも12台が生産される。

マリナーとは16世紀に馬具の製造を始めた工房で、20世紀になるとロンドン・メイフェアにショールームを開いて自動車のボディ製造を開始するようになる。そんなマリナーに目をつけたベントレーがモーターショー用車両のボディ制作を依頼。それをきっかけにベントレーとマリナーの関係は深まり、戦後にはRタイプ・コンチネンタルという傑作を生み出すことになる。1959年にベントレーとマリナーは合併、少量生産モデルを手がけるなど活動を続けた。1998年のフォルクスワーゲングループ入り後は、マリナーはビスポーク部門として活動を始め、女王陛下専用のステート・リムジンを製作するなど、特別なモデルやオプションの開発部門として積極的に活動を続けていたのである。

そしてマリナーは現在、「コーチビルド」「コンティニュエーション」「コレクション」という3つの事業を柱としている。まず「コーチビルド」は特別なデザインや装備を施した限定モデルを生み出すこと。その最初の作品が2020年に登場したバカラルで、コンチネンタルGTCをベースにした優雅なバルケッタボディが世界を驚かせた。そして2022年には第2弾となるバトゥールを発表。こちらも完全オリジナルボディの美しいクーペで、今回訪れたマリナー専用のファクトリーでは数台の車両が生み出されている最中だった。2023年内には3〜4台を納車し、2024年には全12台の納車が完了する予定だという。

超プレミアムカー市場におけるベントレーの価値向上

「コンティニュエーション」は歴史的なモデルを復刻することで、すでに戦前の名車である1929年型ブロワーとスピードシックスの復刻生産を行っている。ファクトリーには復刻されたブロワーが展示されていたが、どこからどう見ても“本物”で、これが最近造られたクルマとはにわかには信じられない。すべて当時と同じ素材で造ることにこだわっているそうで、ボディを覆う樹脂も完全再現。レキシンと呼ばれるこの素材は現在は使われていないもので、製造できる機械は世界でもこのファクトリーにある1台だけ。ブロワー1台分のレキシンを作るのに3万ポンドのコストがかかるというから、驚きだ。

そして「コレクション」は市販車のマリナー・モデルを生み出すことで、つい最近はベンテイガEWBマリナーがデビューしたばかり。さらに顧客の好みに応じて素材や色など様々なオーダーに応えるパーソナライゼーションはマリナーの中心であり、最も重要な事業だ。デジタルパーソナライズの部屋には実物の素材を使ったサンプルやカラー見本が用意されており、顧客がその中から選んだものを瞬時に画面上のクルマに表現してくれる。その組み合わせは460億通りもあるというから、実質ワンオフのビスポークも可能ということ。またサンプルにはないカラーをオーダーすることも可能だ。現在はコレクションラインも含めると60%の顧客がマリナーを希望するのだという。

マリナーという財産を積極的に活かす戦略は、超プレミアムカーの市場においてベントレーの価値を確実に高めている。マリナーのディレクターを務めるアンサー・アリ氏は「ベントレーの最大の魅力はパフォーマンスとラグジュアリーの両立です。お客様はラップタイムを追求するだけでなく、マリナーとの話し合いによってクルマを購入する経験そのものを楽しむのです」と語る。

インハウスでのパーツ生産増も

中にはベントレーとして相応しくないオーダーをする人もいるのでは、と聞くと「みなさんベントレーのことをよく理解して下さるので、無理なオーダーはありません。あ、そういえばハリウッドには全身ピンクのベントレーがありますよ(笑)。でもお客様がハッピーであるならば、我々は満足なのです」と笑顔を見せる。ではもし、1台だけのワンオフのオーダーが来たら対応可能なのか、という質問には「もちろんです。将来的にはそれもあるかもしれませんね」というから、いずれ世界に1台のベントレーがここから生まれることがあるかもしれない。

現在はBEVへの移行期にあるベントレーだが、その中でのマリナーの役割については「マリナーは16世紀から多様性の一部であり、時代への対応にいつも挑戦してきました。歴史はあるが、常に新しい。BEVへの移行も今までの流れのひとつでしょう」と語り、さらに今後はインハウスでのパーツの生産をさらに増やしていきたい、と豊富を語ってくれた。最後に変わったオーダーの例を訊ねると

「ドアを開けた時に地面に投影される照明、あれをアニメーションにしたいと希望した方がいらっしゃいました。もちろん、作りましたよ(笑)」

REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/BENTLEY MOTORCARS
MAGAZINE/GENROQ 2024年 1月号

【問い合わせ】
ベントレーコール
TEL 0120-97-7797
https://www.bentleymotors.jp/

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著者プロフィール

永田元輔 近影

永田元輔

『GENROQ』編集長。愛車は993型ポルシェ911。