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Chevrolet Corvette Coupe & Convertible
FRからMRへの配置転換
8世代目の「コルベット」といえば、FRからMRへの配置転換が劇的に捉えられてきたが、多様なパワートレインのラインナップも前例のないこととなっている。
とりわけ、電動4WDハイブリッドとなるE-Rayや、ツインターボ化により圧倒的な1079PSを発するZR1といったコルベット「史上初」ネタは注目を集めるところだろう。ちなみにZR1の元ネタとなる5.5リッターのフラットプレーンV8を搭載するZ06は、そのエンジンを含めGTE&GT3カテゴリーのモータースポーツ車両と完全同調で開発されてきた。
それでも、コルベットというクルマの軸心にあるのは、アメリカ車の魂でもあるOHV・V8だ。その源流は1954年に発表されたスモールブロックユニットに遡り、3世代70年に渡ってネジ一本に至るまでブラッシュアップされ続けてきた。現行型に搭載されるLT2は6.2リッターのキャパシティで502PS/637Nmを発揮する。MRならではのトラクションと8速DCTミッションを活かしての0→60マイル(約97km/h)加速は2.9秒と、動力性能はスポーツカーとしても一級だ。
が、コルベットはひたすらに速いことが喜ばれるクルマではない。個性や実用性に富んだ存在であることが、年間3万台以上という、スポーツカーとしては異例なセールスボリュームを支えてもいる。その魅力がもっとも実感できるだろうロングドライブへと、クーペとコンバーチブルを連れ出した。東京から西へ500km弱、目指す伊勢志摩へは高速道路ばかりを使っても面白くない。浜松から渥美半島の突端までは一般道をひた走り、最後は船も織り交ぜて旅情を楽しむ、そんなコースを想定して、2台を走らせる。
大排気量そして自然吸気V8ならではの柔軟性
エンジンの始動と共にズォンッと腹に響き渡るのは、ザラ味と共にドスが利いた、何者でもないコルベットのそれ。が、当然ながらそれが背後から響いてくるものだからちょっと調子が狂ってしまうのは相変わらずだ。もっとも、意を決しただろうリヤミッドシップ化が米国をはじめ世界のユーザーに好意的に受け止められていることは販売台数の推移が示してもいる。
FRが……といつまでも呟き続けるのは変化を好まないオッさんの悪い癖かと思いつつ、走り始めると音源の方位以外は、なんだかんだ言ってもコルベットだなぁとも思わされる。回転フィールに刺々しさは一切なく、ズローンという音の高まりと共にアクセル操作で水飴のように伸びて粘るトルクが引き出せる。積極的に高い回転域を捕えるDCTのマネジメントをして、アクセルの微妙な操作ひとつでタウンスピードの加減も綺麗に合わせ込める、この柔軟性は大排気量そして自然吸気のV8ならではのものだ。
この扱いやすいトルクは、高速道にせよ一般道にせよ淡々と距離を刻んでいくような走りにピタリと噛み合う。スロットルが保持しやすいのはペダルの角度や反力の設定もあるだろうが、やはり吹け上がりに癖がなく線形的に推力が増す、そんなエンジンのまろやかな特性が見合っているのだろう。ちなみに8速DCTのギヤ比は日本の法定速度域でも十分実用に足るもので、8速100km/hの回転数は約1500rpm。この域では気筒休止も積極的に介入、音量や音質が落ち着いていることもロングツーリングにおいて好材料だ。
ベースグレードから充実している装備
代々のコルベットはアメリカ市場の意向を汲んで、積載力にも気が配られてきた。FR時代にはリヤゲートの下に大きなスーツケースも載せられるほどのスペースを持っていたが、MR化でさすがにそれは叶わない。が、前後に配されるトランクの容量は357Lと使いでがある。リムーバブルのルーフパネルを収めつつ、ソフトバッグや機内持ち込みサイズのトローリーなど、2名分の荷物も十分収納が可能だ。2024年モデルからはリヤだけでなくフロントのフードにもクロージャーが配され、開閉に作法を要することもなくなった。
奥浜名湖にある会員制リゾートホテルのオープンレストランでゆったりした時間を過ごし、一般道でのんびりと渥美半島を横断する。
代々のコルベットの伝統でもある車体前方の見切りの良さは継承されているが、MR化で斜め後方などに死角が増えたのは致し方ないところだろう。が、前後ビューカメラやデジタルルームミラーなどの補完アイテムを標準とするなど、ベースグレードから装備面が充実しているのもコルベットの隠れた美点だ。
低重心なOHV・V8をドライサンプ化で更に低く
1時間の船旅を経て伊勢志摩へ。翌朝は神宮詣での後に、特徴的なリアス海岸を見下ろす風光明媚なワインディングを愉しんだ。
LT2の回転フィールは中回転域は至極滑らかで、そこから高回転域に至るにつれて、徐々にザラ味を増していく。いかにもギチギチに組み付けられたレーシング出自のメカノイズを響かせるZ06のLT6に比べると、ゆったりとしたアナログ感がある。レブリミットは6500rpmだが、そこに至るまでのレスポンスは決して緩いわけではない。が、指針を赤いところに張りつけずとも、パワーバンドのワイドさに身を委ねてスラスラとコーナーを駆け巡るのが似合っている。
もちろん、このクルマの特筆すべきところは運動性能だ。もともと小さく低重心なOHV・V8をドライサンプ化によって更に低くマウントしていることが、安定性に大きく寄与している。ボディ剛性も盤石で、コンバーチブルのルーフパネルを開け放って走っても、捻じれや軋みのような兆候は見受けられない。この骨格的な素性があるからこそ、Z06やZR1のようなモデルの放つ強烈なパワーをリヤドライブで受け止めようという話にもなるのだろう。
一流のスプリンターにして長距離ランナー
コルベットの2024年モデルでは衝突被害軽減ブレーキやレーンキープアシストなど、ADAS系の機能強化も図られている。前車追従クルーズコントロールの用意がないのは残念だが、吹けに味のあるエンジンとペダルを通して対話すること自体は苦にならない。
MR化という高効率への道を選ぶことで、コルベットは独特の情緒を失ってしまうのではないか。そんな懸念はOHV・V8によって払拭された。高純度なスポーツカーにして牧歌的な旅情が渾然一体に。それがコルベット唯一無二の魅力である。
REPORT/渡辺敏史(Toshifumi WATANABE)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2024年10月号
シボレー・コルベットを動画でチェック!
SPECIFICATIONS
シボレー・コルベット・クーペ3LT
ボディサイズ:全長4630 全幅1940 全高1225mm
ホイールベース:2725mm
車両重量:1670kg
エンジン:V型8気筒OHV
総排気量:6156cc
最高出力:369kW(502PS)/6450rpm
最大トルク:637Nm(65.0kgm)/5150rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR19 後305/30ZR20
最高速度312km/h
0→60マイル加速:2.9秒
車両本体価格:1650万円
シボレー・コルベット・コンバーチブル
ボディサイズ:全長4630 全幅1940 全高1225mm
ホイールベース:2725mm
車両重量:1700kg
エンジン:V型8気筒OHV
総排気量:6156cc
最高出力:369kW(502PS)/6450rpm
最大トルク:637Nm(65.0kgm)/5150rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR19 後305/30ZR20
最高速度312km/h
0→60マイル加速:2.9秒
車両本体価格:1800万円
6.2リッターV8エンジンを彩る特別限定車「レッドフレイムシリーズ」も登場
6.2リッター V8を彩る「エンジンアピアランスパッケージ」を装着したレッドフレイムシリーズ。クーペではビジブルカーボンファイバーの加飾パネルが、コンバーチブルではルーフ開閉時にエンジンを垣間見ることのできるクリアウインドウ付きエンジンベイパネルを日本で初搭載。アメリカンスポーツの魂をさらに際立たせる仕様とした。クーペ3LT(1740万円)とコンバーチブル(1890万円)に設定され、ボディカラーはレッドとブラック。販売台数は合計40台だ。
【問い合わせ】
GMジャパン・カスタマーセンター
TEL 0120-711-276
https://www.gmjapan.co.jp/
【取材協力】
KIARAリゾート&スパ浜名湖
TEL 053-528-0130
https://kiara.jp/
浜名湖体験学習施設 ウォット
TEL 053-592-2880
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