史上初のハイブリッド!「シボレー コルベット E-Ray」に試乗

まさかのハイブリッドを得た“アメリカン新アイコン”「シボレー コルベット E-Ray」は知的な反逆児!?

今年6月、期間限定受注という形で日本に導入されたコルベット史上初のハイブリッドモデル、E-Ray(イーレイ)。前輪をモーター、後輪をエンジンで回すハイブリッドシステムはコルベット独自の世界観に果たしてどのような変化をもたらしたのか。
Z06と同じワイドボディを纏うシボレー・コルベットE-Ray。
今年6月、期間限定受注という形で日本に導入されたコルベット史上初のハイブリッドモデル、E-Ray(イーレイ)。前輪をモーター、後輪をエンジンで回すハイブリッドシステムはコルベット独自の世界観に果たしてどのような変化をもたらしたのか。(GENROQ 2024年11月号より転載・再構成)

Chevrolet Corvette E-Ray

歴代でいちばん攻めている

ハイブリッド仕様のE-Rayは本国にはコンバーチブルも用意されるが、日本にはクーペのみが導入される。
ハイブリッド仕様のE-Rayは本国にはコンバーチブルも用意されるが、日本にはクーペのみが導入される。

リヤミッドシップレイアウトを筆頭に、その歴史をことごとく覆している8代目コルベット、その挑戦は留まることなく続いている。

昨年、日本にも上陸を果たしたロードゴーイングレーサーともいえるZ06に次いで、直近ではその5.5リッターフラットプレーンV8をツインターボで武装したZR1も登場。純然たる内燃機関で1079PS/1123Nmのアウトプットを達成した。市井のチューンドカーでも達成が難しいそのスペックをプロダクションモデルで頒布しようというのだから、もはやコルベットはサーキットのみならず、アメリカの自動車技術の総代として世界と戦っているのだなあと改めて実感する。

一方でこちらもまったく新しい挑戦となるのがパワートレインの電動化だ。日本では商標の関係上で使えないスティングレイの名をもじって名付けられた「E-Ray」は、モーターのみの走行も可能という点からみれば、マイルドとストロングの中間的なHEVという見方ができるだろうか。

E-Rayの駆動システムはベーシックなコルベットをベースに、フロントモーターとバッテリー、そしてパワーコントロールユニットを追加したものとみればわかりやすい。もちろんポン載せで成立するはずもなく、走行状態に応じた駆動の連携や充放電のマネージなどソフト側のキャリブレーション項目はゴマンとあるが、システムの構成要素自体は至ってシンプルだ。

搭載するバッテリーは1.9kWhのリチウムイオン型で、センタートンネルに巧く収めることでスペースユーティリティを犠牲にすることなくHEV化を実現している。バッテリー容量としてはプリウスのような日本のスタンダードなHEVモデルに比べると大きいが、PHVのアルトゥーラや296GTBなどに比べると1/4ほどの容量だ。それもあってか外部充電ポートはなく、26km/h以上のエンジン稼働状態や減速時に自動で充電される。また、推進力をより充電側に割り振るチャージモードも用いることが可能だ。

EVモードは2種類

走行モードは「ツアー」「ウェザー」「スポーツ」「レーストラック」「マイモード」「Zモード」「ステルス」「シャトル」の8つ。このうちEV走行は「ステルス」「シャトル」にて可能となる。
走行モードは「ツアー」「ウェザー」「スポーツ」「レーストラック」「マイモード」「Zモード」「ステルス」「シャトル」の8つ。このうちEV走行は「ステルス」「シャトル」にて可能となる。

モーター単独での走行を可能とするため、E-Rayはステルスとシャトルという2つの専用ドライブモードを有している。このうちシャトルモードはガレージや展示場の構内移動を前提とした極低速のモード(よって公道での使用は推奨されていない)であるのに対して、ステルスモードは最高72km/h、最長6.4kmのBEV走行が前輪駆動にて可能だ。

162PS/165Nmのアウトプットとなる前モーターの真価が発揮されるもうひとつの場面が、発進〜中間域での駆動アシストだ。それを端的に表すのが0→60マイル加速で、コルベットとしては史上最速の2.5秒となる。もちろんドライブモードに応じて、アシストを旋回力の側に適切に振り分けるなど、運動性能の向上にも積極的に寄与する仕組みだ。ちなみにE-Rayのモーターやバッテリーといった電気もののアドオンによるパッケージの弊害はほぼないといっていい。前トランクの容量が2.0リットルほど減じているものの、いわれなければまったく気づかない程度の話だ。ただし車検証上の重量配分は42対58と、ベースモデルよりはっきりと前軸荷重比率を高めている。

ノーマル系コルベットと同じLT2型6.2リッターV8OHVを搭載。502PS/65.0kgmのスペックも同様だ。これに162PS/165Nmのモーターが組み合わされ、総合出力664PSを発揮する。
ノーマル系コルベットと同じLT2型6.2リッターV8OHVを搭載。502PS/65.0kgmのスペックも同様だ。これに162PS/165Nmのモーターが組み合わされ、総合出力664PSを発揮する。

総合出力で664PSに達するパフォーマンスを支えることもあり、E-RayはZ06と同じディメンションとなるワイドボディを採用。全幅は2025mmと大台を超えている。また、本国ではオプション扱いとなる電子制御可変ダンパーやタイヤを組み合わせた、Z07ならぬZERパフォーマンスパッケージを装着するほか、見るからに軽そうに肉抜きされた専用鍛造アルミホイールやブレンボ製カーボンセラミックブレーキなどが標準となっている。トリムラインとしては最上位の3LZということもあって、内装の仕立てや装備に不満を抱くことはないだろう。

Z06のワイドボディをベースに、フロントインテーク、サイドインテークトリム、リヤバンパートリムがボディ同色となるのがE-Rayの特徴。日本にはクーペのみの導入となる。
Z06のワイドボディをベースに、フロントインテーク、サイドインテークトリム、リヤバンパートリムがボディ同色となるのがE-Rayの特徴。

ステルスやシャトルといったBEVドライブのモードは始動時に設定する仕組みだが、認識しておくべき事情は空調周りがベースモデルに準じているため、エンジンが始動しない限りはコンプレッサーが作動しないということだ。少しでも早く車内環境を整えたい夏冬は、現実的にはガレージから家の外へと引っ張り出す程度の使い道になるかもしれない。

ステルスモードから電池残量や加速時の負荷に応じてエンジンが稼働する、その始動時のショックは微々たるものだ。そして日常的に用いるだろうツアーモードでは、モーターの存在感が直進にせよ旋回にせよライントレースにおいては安心感として伝わってくる。アクセルを大きく踏み込んで加速するような際には前輪側が瞬発的にレスポンスし姿勢を安定させるが、ほどなく推進力はエンジンの側に移行、モーターアシストは影を潜める。逆に走行時には隙あらばモーターは充電側に回り、気にせず運転していてもバッテリーの容量は常に半分以上が保たれる。E-Rayのエネルギーマネージメントの複雑さはむしろ、ツアーモードでこそ顕著に感じられることだろう。

モーターはサプリメントのように使う

これがスポーツやトラックのモードになると、旋回時のモーターアシストは控えめになる一方で、アペックスからの立ち上がりなどでは逆にモーターアシストがアグレッシブに応答する。後輪を積極的に使って回頭性を高めつつ、脱出加速はしっかりモーターの恩恵をいただこうという狙いなのだろう。その域ではモーターの強力なプッシュで若干アンダー的な挙動を感じるところもあるが、幅広な前輪が路面をガチッと捕まえてくれる。Z06譲りのディメンジョンは伊達ではないということだ。

E-Rayはモーターをサプリメントのように用いつつ、車両の挙動安定や騒音対策といった課題、そして強烈な瞬発力に代表される商品価値向上など、スポーツカーの電動化にまつわる期待にシンプルに応えている。かつてない大所帯となりつつあるコルベットのラインナップにおいて、異端でありながら最も未来的示唆に富むグレードといえるだろう。

REPORT/渡辺敏史(Toshifumi WATANABE)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2024年11月号

SPECIFICATIONS

シボレー・コルベット E-Ray クーペ 3LZ

ボディサイズ:全長4685 全幅2025 全高1225mm
ホイールベース:2725mm
車両重量:1810kg
エンジン:V型8気筒OHV
総排気量:6156cc
最高出力:369kW(502PS)/6450rpm
最大トルク:637Nm(65.0kgm)/5150rpm
モーター最高出力:119kW(162PS)/9000rpm
モーター最大トルク:165Nm(16.8kgm)/0-4000rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/30ZR20 後345/25ZR21
0→60mph加速:2.5秒
車両本体価格:2350万円

【問い合わせ】
GMジャパン・カスタマーセンター
TEL 0120-711-276
https://www.gmjapan.co.jp/

ミッドシップとなったC8型コルベットでロングツーリングへ出かけた。

1000kmのロングツーリングで探る「シボレー コルベット」の真価「ミッドシップ化で変わったことと変わらないこと」【動画】

FRからミッドシップへ、劇的な変貌を遂げた現行C8型コルベット。日本へのデリバリーが始まってからおよそ3年が経ち、現在は納車待ちのウェイティングリストがようやく解消。望めば比較的すぐに楽しめる体制が整っているという。ならば早速味わってみよう……と、ロングツーリングへと連れ出した。(GENROQ 2024年10月号より転載・再構成)

キーワードで検索する

著者プロフィール

渡辺敏史 近影

渡辺敏史