5代目メルセデス・ベンツ Cクラスに渡辺慎太郎が国内初試乗

メルセデス・ベンツ新型Cクラス、周囲から聞こえてきた「不穏な声」とは? 海外と日本両方で乗った渡辺慎太郎の見立て

新型メルセデス・ベンツ C 200のフロントビュー
2021年2月にフルモデルチェンジし、5代目となった新型メルセデス・ベンツ Cクラスが日本へ上陸した。今年夏にスイスでファーストインプレッションを得た自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎が国内で改めてその印象をチェックする。
メルセデス・ベンツが2021年2月にワールドプレミアした新型Cクラス。この7月にスイスでそのプラグインハイブリッド仕様にいち早く試乗した自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎は、「至極真っ当な進化」と太鼓判を押した。しかし、今回日本へ上陸した直4ターボモデルに乗ってみると、なにやら“違和感”を覚えたようで・・・。

Mercedes-Benz C-Class

新型Cクラスの「解せぬ点」

新型メルセデス・ベンツ C200のサイドビュー
新型のメルセデス・ベンツ C 200 アヴァンギャルド。プラットフォーム「MRA II」に加え、デザインのテーマも最新のSクラスと共有している。

日本国内での新型Cクラスの試乗会にはスケジュールの都合で参加できなかったので、しばらくしてからあらためて拝借した。つまり同業者のほとんどがすでに試乗を終えた後というタイミングだった。で、彼らから聞こえてくる印象が、なんだか奥歯に物が挟まったような物言いで、その通りに原稿に書いたのかどうかまでは知らないけれど、おおむねあまり芳しくなかった。

こういうのは精神的にあまりよろしくない。ここにも寄稿したように、自分は今年7月にプラグインハイブリッド仕様のC 300 eに海外ですでに試乗しており、絶賛に近いことを書いているからだ。自分もついに焼きが回って、まともな評価ができなくなってしまったのではないか? などと、自動車ジャーナリストとしての存亡の危機を一瞬覚えてしまった。

自分が試す前にさまざまな雑音が聞こえてくることはよくある。その度にいったんそういうあれこれを遠くに放り投げて、先入観なくクルマと対峙する姿勢をこれまでとってきた。だから今回もそのように挑んだけれど、いつも以上に平常心を保つのが大変だったのは、やっぱり対象がメルセデスの基幹車種であるCクラスだったからというのは間違いないと思う。メルセデスにとってもしCクラスでしくじったらえらいことになるように、自分もCクラスの評価をしくじったらえらいことになるからである。

最新Sクラスとプラットフォームは同じ

新型メルセデス・ベンツ C200のコクピット
新型Sクラスに準ずる最新のメルセデス流コクピットを採用した新型メルセデス・ベンツ C 200。アナログのダイヤル型計器類は一切排除され、高精細のLCDスクリーンがあらゆる情報表示を司る。

Cクラスと名乗るようになってから5代目、W206のコードネームを持つ新型はプラットフォームから刷新された正真正銘のニューモデルである。そのプラットフォームはMRA IIと呼ばれ、現行Sクラスとともにデビューを果たしたもの。SとCではボディサイズがずいぶんと違うのに「プラットフォームを共有」と言えるのは、最新のプラットフォームは設計の自由度が高く、昔のようにホイールベースがいじれないなどといった寸法的制約が少ないからだ。

今回の試乗車はC 200 アヴァンギャルド(ISG仕様)にAMGラインとリヤアクスルステアリングが装着されたモデルで、このボディサイズを旧型のW205(C200 4MATIC ローレウスエディション、スポーツパッケージ装着車)と比較すると、全長で80mm、全幅で10mm、全高で5mm、ホイールベースで25mm、前後トレッドともに15mm、それぞれ大きくなっている。車両重量は新型のほうが70kg増しだが両車の装備や仕様が厳密に比較できるほど揃っていないので参考程度と思ってください。

最小回転半径は5.3mから5mに小さくなっているものの、これは後輪操舵のおかげである。ただリヤアクスルステアリングの付いていないモデルでも5.2mだそうで、新型Cクラスはボディは大きくなっているのに最小回転半径はわずかに小さくなったと言えるようだ。

モーターのサポート力がさらにアップ

新型メルセデス・ベンツ C200のエンジンコンパートメント
新型メルセデス・ベンツ C 200のエンジンコンパートメント。今回のテスト車は2.0リッター直4ガソリンターボ+ISGの「C 200」だったが、日本市場では2.0リッター直4ディーゼルターボ+ISGの「C 200 d」もラインナップしている。

C 200が搭載するエンジンは「1.5リッターの直列4気筒ターボ」で、この字面だけ見ると従来型と同じだが中身は別物。排気量は1496ccに対して1494cc、型式もM264からM254に変わっている。新型Cクラスのエンジンの特徴のひとつは、PHEV以外のすべてがISG仕様であるということ。

ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)はベルト駆動のエンジン補機類をすべて電動化してベルトとプーリーをなくし、EVモードはないものの状況に応じてモーターが駆動力をサポートするシステム。従来型のC 200はBSG仕様だったがそれよりもモーターの出力が向上(10kWから15kW)し、最高出力は20ps、最大トルクは20Nmそれぞれ上乗せされてパワースペックは204ps/300Nmとなった。なお、このISGは第二世代へと進化していて、これまではエンジンとトランスミッションの間に置かれていたものをトランスミッションのハウジング内へ移動、コンパクト化かつ軽量化を実現している。

デザインで唯一残念なのは・・・

新型メルセデス・ベンツ C200のフロントビュー
新型Cクラスは、「Sensual Purity(官能的純粋)」というデザイン理念に基づき、ラインやエッジを極力排除した曲線基調のスタイリングを採用。また、すべてのモデルがスリーポインテッドスターをグリル内に収めた“アヴァンギャルド顔”になった。

新型Cクラスのスタイリングは写真で見るとSクラスにそっくりだが、実物はそれほどでもなくやっぱりCクラスである。似たようなデザインでも、サイズによって人に与える印象はかくも異なるものなのかと思った。Sクラスが放つ威風堂々とした存在感は薄く、それよりはずっとカジュアルな雰囲気である。

個人的に残念なのは、すべてのCクラスはスリーポインテッドスターをフロントグリル内に収めた“アヴァンギャルド顔”になってしまい、運転席からボンネット先端にそそりたつそれを拝むことができなくなってしまったこと。顔つきは確かにこちらのほうがスポーティなのかもしれないけれど、それ以外のエクステアリアデザインはどちらかといえばエレガントであり、果たしてこれでバランスが上手にとれていると言えるのかどうか少し疑問ではある。

「ハイ、メルセデス」が“必要”なコクピット

新型メルセデス・ベンツ C200のナビゲーション
新型メルセデス・ベンツ Cクラスは、Dセグメント乗用車としては初めてAR(拡張現実)ナビゲーションを搭載。目的地を設定すると、現実の景色の上に方向指示マークがオーバーラップして表示される。

インテリアの風景はまさにSクラスそっくり。そう思わせているのがメーターとセンターコンソールに配置されたふたつの液晶ディスプレイであることは間違いない。縦型のメディアディスプレイはSクラス同様、エアコンの操作スイッチまでも呑み込んでしまったので、センターコンソール上のメカニカルスイッチはハザード/オーディオ音量/ドライブモード切替など最小限になってしまった。

機能も増え階層も深くなり、それら諸々をすべて記憶して運転しながらタッチ式パネルで操作するのはなかなか難しい。そこでこれまで以上に活躍するのが「ハイ、メルセデス」の音声認識機能である。最新型のMBUXにアップデートされているので、音声認識はこれまで以上に自然な対話が可能となった。

「みんなが言っていたのはこれか」

新型メルセデス・ベンツ C200のヘッドランプ
新型メルセデス・ベンツ Cクラスの日本仕様は、先進の「DIGITALライト」が標準装備。130万ものマイクロミラーを搭載し、配光を細やかに制御する超ハイテクヘッドライトシステムである。

そして肝心の乗り味である。雑音や先入観を捨てて走り出したものの、すぐに「ああみんなが言っていたのはこれか」と察しがついた。ひとつは乗り心地。基本的に減衰はとても速く、無駄な振動はほとんど残らないのでその点は評価できるものの、路面状況によって乗り心地に大きな差が生まれてしまう。

舗装状態のいいフラットの路面ではそれこそ滑るように走るものの、小から中程度の路面からの入力があるとばね下がバタバタし、でも減衰は相変わらず速く、身体が上下に揺すられる頻度が途端に増える傾向にある。原因はおそらくサスペンションとタイヤだ。

Cクラスは日本に導入されていない標準仕様のサスペンションと、アヴァンギャルド用のスポーツサス、そしてオプションのAMGラインを選ぶともれなく付いてくるAMGスポーツサスの3種類があって、試乗車はAMGスポーツサス。さらにAMGラインではタイヤサイズがアヴァンギャルド標準の17インチに対して18インチとなる。

見事なボディとシャシーのしっかり感

新型メルセデス・ベンツ C200のホイール
今回のテスト車はパッケージオプション「AMGライン」付きだったので、18インチのAMG 5ツインスポークアルミホイールやブレーキキャリパーとドリルドベンチレーテッドディスク(フロント)、スポーツサスペンションが搭載されていた。

通常、AMGのパッケージオプションとして同梱されているサスとタイヤのマッチングは当然のことながら最適化が図られているはずなのだけれど、今回はどうにもその塩梅がイマイチなのである。スイスで試乗したC 300 eはAMGラインを装着しないアヴァンギャルドで、乗り心地は全般的にしっとりとしていて大変好感が持てた。

プラグインハイブリッドだから駆動用のバッテリーを積んでおり、車両重量の重さも乗り心地にいい影響を与えていたとは思うものの、それと比べると乗り心地という観点では今回の試乗車の分が悪い。ただ、ボディやシャシーは本当にしっかりとしていて、路面からの入力由来の振動をあっという間に吹き飛ばして残像がほとんどない“抜け感”は見事だった。

共存するメルセデスの「らしさ」と「らしくなさ」

新型メルセデス・ベンツ C200のリヤビュー
2021年10月現在、日本で取り扱いをスタートしている新型Cクラスは、直4ガソリンターボを搭載する「C 200」のRWD及び4WD、直4ディーゼルターボを搭載する「C 200 d」のRWD、及び各パワートレインのステーションワゴン(RWDのみ)。追ってプラグインハイブリッドのC 350 eが導入される模様である。

個人的に気になったのは、ステアリングやペダルによるドライバーの入力と、それに対するクルマの動きに関してである。まずは操作荷重。ステアリングはアシスト量が多めで比較的軽い。ブレーキペダルも軽めだが、スロットルペダルはそこそこの踏力が必要で、これがもっともメルセデスらしい操作荷重。つまりステアリングやペダルの操作荷重がそれぞれ微妙に異なっていて、これが終始気になった。

一方で、スロットルペダルの踏力は最適だが発進時にはモーターが積極的に介入してくるので思ったよりも勢いよく走り出してしまうこともある。ブレーキペダルは踏み始めは軽いが、制動力の立ち上がり方や前後のブレーキバランス、制動力そのものは完璧に近く申し分ない。

そしてステアリングは後輪操舵のおかげで操舵角が全般的に少なくて済むものの、場面によっては後ろのほうが先に向きを変え始めるみたいなちょっとした違和感を覚えた。こうした「操作と反応のズレ」がメルセデスらしくないと思ったのである。例によってメルセデスはモデルイヤーごとにどんどん改良を加えていくだろうから、そのうちこれらの事象はなかったことになっているかもしれない。

残念ながら現時点で我々の試乗が許される広報車はこの仕様(AMGライン+後輪操舵)しかないので、これだけをもって新型Cクラスの評価とするのは難しいし、現にC 300 eは決して悪くなかったのでなおさらである。それでもどうにかひと言で評価せよと言われるのなら「中の上の下」という、やっぱり奥歯に物が挟まった物言いがもっとも近いかもしれない。

メルセデス・ベンツ新型Cクラス。C 300 e のフロントビュー

新型メルセデス・ベンツCクラスにいち早く試乗! 渡辺慎太郎が第一印象をレポート

2021年秋に日本上陸を予定している新型メルセデス・ベンツ Cクラス。その5代目Cクラスへ、いち早く試乗する機会が到来した。Dセグメントを代表するメルセデス・ベンツの代表車種は、フルモデルチェンジを経ていかなる進化を果たしたのか。スイスでのファーストインプレッションを、自動車ジャーナリストの渡辺慎太郎がリポートする。

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
PHOTO/北畠主税(Chikara KITABATAKE)

【SPECIFICATIONS】
メルセデス・ベンツ C 200 アヴァンギャルド(AMGライン装着車)
ボディサイズ:全長4793 全幅1820 全高1446mm
ホイールベース:2865mm
車両重量:1700kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1496cc
ボア×ストローク:78.0×78.3mm
最高出力:150kW(204ps)/5800-6100rpm
最大トルク:300Nm/1800-4000rpm
モーター出力/トルク:15kW/200Nm
トランスミッション:9速AT
サスペンション:前4リンク 後マルチリンク
駆動方式:RWD
車両価格:654万円(テスト車:726万4000円 ※装着オプション:ベーシックパッケージ=15万4000円/AMGライン=32万6000円/メタリックペイント=9万9000円/リヤアクスルステアリング=14万5000円)

【問い合わせ先】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610

【関連リンク】
・メルセデス・ベンツ公式サイト
https://www.mercedes-benz.co.jp/

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著者プロフィール

渡辺慎太郎 近影

渡辺慎太郎

1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、1989年に『ルボラン』の編集者として自動車メディアの世界へ。199…