【フェラーリ名鑑】シリンダーヘッドを赤く塗った「テスタロッサ」誕生

「250 テスタロッサ」を中心に考える1950年代のレーシングフェラーリ【フェラーリ名鑑:09】

フェラーリ名鑑、250 テスタロッサ
フェラーリがスポーツ・プロトタイプ・レースに投入した250テスタロッサ。
ここまで、フェラーリの黎明期に誕生した代表的なモデルとモータースポーツへの取り組み、その代表的なものを解説してきたが、それはあくまでもフェラーリの歴史の中ではごく一部分を切り取っただけでしかない。ここではもう一度時間を戻し、これまで触れることができなかったモデルを紹介しよう。まずはフェラーリが、1950年代から積極的に参戦したスポーツ・プロトタイプ・レースに投じられたモデルを振り返ってみることにする。

国際レースにかけるフェラーリ

1957年式250 テスタロッサ。スポーツ・プロトタイプ・レースにフェラーリが投入した純レーシングモデルであり、車名の「テスタロッサ」は赤くペイントされたヘッドカバーに由来する。

1953年、新たにワールド・スポーツカー・チャンピオンシップがFIAによって制定された時、そのレギュレーションには排気量に関する規定がなかった。その制限が設けられたのは1958年からだ。フェラーリもそれに従い、気筒あたりの排気量で記すと、166に始まり、195、212、250、255、275、340、342と、さまざまなサイズのV型12気筒エンジンを搭載したモデルを開発し、レースを戦った。

ちなみに1958年シーズンからの排気量制限は3000cc以下というものだったが、フェラーリにとって3000cc=250は未知ではなく、すでに十分な経験値をもつものであった。マラネロのファクトリーでは250 GT SWBの生産も行われていたタイミングであり、フェラーリは急遽、アウレリオ・ランプレディを中心に、1958年用のレーシング・スポーツの設計をスタートすることになった。

赤いヘッドカバーをもつ「テスタロッサ」誕生

モーターシーンにおけるフェラーリの名声を不動のものとした250シリーズ。テスタロッサには曲線を主体に構成されたボディのフロントに300psを発揮するV12エンジンが搭載される。
3.0リッターV12は最終的に360psの最高出力を発揮。レースでの活躍からカスタマーは公道仕様を求めるようになり、後の250 GTシリーズ誕生へと繋がっていく。

ここで完成したのが、それまでの250系のエンジンをさらにチューニングし、ホイールベースを2350mmにまで短縮した「250 テスタロッサ」だった。サスペンションはフロントにダブルウイッシュボーン、リヤにはダブル・トレーリングアームのリジッドアクスルを組み合わせた(ただしワークスカーにはドディオン・アクスルと横置きリーフスプリングが採用されていた)。

テスタロッサとは、イタリア語で“赤い頭”を意味する。それはフロントに搭載される2953ccのV型12気筒エンジンのシリンダーヘッドが赤く塗装されていたことに由来するもの。6基のウェーバー製キャブレターが組み合わされるこのエンジンは、最高出力で290psとも、あるいは300psともされるほどハイパフォーマンスなもので、その最高速度は実に270km/hに達した。

さらに「250 TR 59/60」では、306psまでエンジンが強化されると同時にトランスミッションは4速MTから5速MTに改良された。最終進化型となった「250 TR/LM」では360psを発揮するという。

戦績こそフェラーリの宣伝

1954年式750 モンツァ。3.0リッター直4を搭載し最高出力250psを発生。最高速度は260km/hに達したという。

この時代のレースには、多くの4気筒モデルもエントリーしている。気筒あたり625ccとなる2498cc直列4気筒エンジンを搭載した「625 TF」(車名の由来と思われるツール・ド・フランスに出場した記録はない)や「735 S」、「500 モンディアール」、「750 モンツァ」などは、その代表的なところだ。これらの中にはカスタマーに販売され、カスタマーチームからエントリーし、好成績を収めることが多かった。そのリザルトはフェラーリにとって有効な宣伝材料となったが、それがレースのレギュレーション変更という事態を招した。圧倒的な強さというものには、いつも羨望の眼差しと同時に反感の視線が注がれていることが分かる。

それでもフェラーリは、サーキットから去ることはなかった。レギュレーションが厳しくなればなるほど、優秀な戦績を残すフェラーリに多くのカスタマーやファンが熱狂することにエンツォは誇りを感じていたからだ。この頃、販売の主力となる市場は、すでにヨーロッパからアメリカへと移っていた。タフでスパルタンなスポーツモデルだけではなく、速くて快適なドライブが楽しめるGTを同時に造らなければならない・・・。そのようなエンツォの考えを現実のものとしたモデルが続々とマラネッロから出荷されていくようになるのは、あの250 GTシリーズ以降のことになる。

SPECIFICATIONS

フェラーリ 250 GT SWB

年式:1957年
エンジン:60度V型12気筒SOHC
排気量:2953cc
最高出力:221kW(300hp)/7200rpm
乾燥重量:800kg
最高速度:270km/h

フェラーリ 750 モンツァ

年式:1954年
エンジン:直列4気筒SOHC
排気量:2999cc
最高出力:187kW(250hp)/6000rpm
車両重量:760kg
最高速度:260km/h

解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

1960年代にフェラーリの名声を築き上げた名車たち。今なお輝き続ける跳ね馬のアイコン 【フェラーリ名鑑:リンク集 Vol.2】

フェラーリの歴史を語るうえで、1960年代前後に登場した250シリーズは欠かせない存在だ。優れたコンペティツィオーネ、即ちレース車両を輩出してきたフェラーリは、250シリーズのヒットを受けて本格的にストラダーレ=ロードカーを次々と生み出していく。現在でもなおエンスージアストにとって垂涎のモデルであり、ひとたびオークションに出品されるや数億から数十億円のプライスさえつく250シリーズは、まさに現在のフェラーリの礎を築いた名車と言える。

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著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…