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Mercedes-Benz C-Class
EQSの国際試乗会での“タナボタ”
メルセデス・ベンツの試乗会はいつも細部にまでこだわりが感じられる。例えばEQSの試乗会で使われていた送迎用のシャトルはいつものVクラスなのだけれどよく見ると“EQV”と書いてあったり、プログラムの最終日にスイスからドイツのインメンディンゲンにあるメルセデスのテストコースに向かう試乗車として用意されていたのは新型Cクラスのプラグインハイブリッド、C 300 eだった。インメンディンゲンまでは約100km、C 300 eのEVモードでの走行可能距離も約100kmだから、「EVのEQSの試乗会の最中にはガソリンを一滴も使わない」というアピールのようである。
事前に「新型Cクラスにも試乗できるかもしれません」と聞かされていて、いまだに実物を拝見していない身としてはEQSだけでなくCにも試乗できるなんてまさにタナボタだった。一方で「テストコースまでの移動にプラグインハイブリッドが何車種か用意されていてその中にC 300 eが混じっているようなので、他のジャーナリストとの争奪戦になる可能性があります」とも付け加えられており、争いごとがめっぽう苦手な自分はちょっと戦意喪失したのだけれど、当日パーキングに行ってみたら試乗車はすべてC 300 eだった。
紛れもなくCクラス
初対面した新型Cクラスは、なんか既視感のようなものがあって、EQSとの初対面の時のようなハッとする感じはあまりない。よく見れば従来型から踏襲している部分はほとんどないし、写真を眺めていたころは「小さいSクラスか」なんて思っていたものの、実物に漂う雰囲気は紛れもないCクラスであり、これがデザイナーの狙いだったとしたら新鮮味はちょっと少ないけれどお見事である。
新型(W206)のボディサイズを旧型(W205)と比較すると(いずれもセダン)、全長で65mm、全幅で10mm、ホイールベースで25mmそれぞれ大きくなっていて、全高だけは9mm低くなった。たまたま今回の渡航直前にW205を試乗する機会があったのでまだ記憶が新しかったのだけれど、従来型よりもすごく大きくなったという印象は見た目にも運転した感じにも薄い。
新型Sクラスに準じたコクピット
個人的に残念に思うのは、W206からすべて“アヴァンギャルド顔”になってしまったこと。もはやスリーポインテッドスターを運転席から拝むことはできない。アヴァンギャルド顔のほうが圧倒的に人気があると言うけれど、果たして本当なのだろうか。なおプラットフォームにはいまだスリーポインテッドスターがそそり立つSクラスと同じ“MRA II”を採用している。
中身は外見よりもSクラスそっくりである。センターコンソールから立ち上がるように設置されているディスプレイやメーターパネル、静電式のシート調整スイッチなどはSクラスのそれを踏襲しているが、ヘッドライトスイッチは昔ながらの位置にあった(Sクラスはドア側)。ドライビングポジションや運転席からの視認性はまったく問題なし。各種装備はほぼSクラスに準じている様子。
なかなか目覚めないエンジン
スタートボタンを押してスロットルペダルを踏み込むとC 300 eはスルスルスルっと動き出した。チューリッヒの市街地を抜けて高速道路に入る。それにしても車内はすごく静かである。エンジン音がまったく聞こえない。遮音や吸音をかなりやったのか?などと感心していたら、ドライブモードが「E」になっていて、ここまではずっとモーターだけで走っていた。そりゃあ静かだわな。
ハイブリッドモードだったのでエンジン音を聞こうと追い越し時に少し深くスロットルペダルを踏んでみると、あっという間に100km/hから120km/hまで加速したものの、エンジン回転計は死んだままである。その後もわざとスロットルペダルをあおったりしたけれど、エンジンはいっこうに目覚めない。そこでドライブモードを「S」に変更したらようやくエンジンが回り出した。それでも2000rpm以下では相変わらずエンジン音はほとんど聞こえず、2000rpmを超えてからも足元の奥のほうからかすかに聞こえる程度だった。
EVモードの航続距離は約100km
エンジンが始動するとペダルにザラザラした振動が少し伝わってくるけれど、NVH(ノイズ/バイブレーション/ハーシュネス)は全般的に従来型よりも激減している。航続距離が約100kmで、EVモードでも140km/hまで走行可能ということは、人によってはドライブのほとんどの時間をEVとして使うだろうから、エンジン以外の音が室内で目立たないよう静粛性はかなりよくしておく必要があるわけだ。
C 300 eのハイブリッドはM254と呼ばれる2.0リッターの直列4気筒エンジンと9速ATの9G-TRONICに(トルクコンバーターの部分へ)モーターを仕込んだシステムである。エンジン自体のパワースペックは204ps/320Nm、モーターは129ps/440Nm、システムパワーは最高出力312ps、最大トルク550Nmと公表されている。バッテリーの容量は25.4kWhで、ラゲッジルームのフロア下に配置。55kWの急速充電器なら約30分で満充電できるという。
内燃機関のような加速感
モーターだけでも瞬時に440Nmが立ち上がるのでタウンスピードで力不足はまったく感じられず、前述のように高速道路上でも十分通用する。本来、こういうマイルドハイブリッドにおけるモーターの役割はエンジンをサポートするものだけれど、C 300 eでは(バッテリー残量が十分にある限り)エンジンがモーターをサポートしているようでもある。モーターだけでもトルクカーブは線形で、いたずらにピークを作っていないから、内燃機に似た加速感が味わえるのも55歳のおっさんには心地よい。
サスペンションはフロントが4リンク、リヤがマルチリンクで、ばねはフロントが金属、リヤが空気である。メルセデスのようにリヤに重い駆動用バッテリーを積むモデルで、リヤサスだけをエアサスペンションにする例は珍しくない。前後のアクスルにかかる荷重のバランスを上手にとるためにこのやり方が選ばれている。プラグインハイブリッド以外の新型Cクラスのリヤのばねはすべて金属。従来型はオプションでエアサスが選べたが「思ったほど需要がなかった」そうで新型では姿を消している。
Eクラスをおびやかす動的質感
どういうわけか車両重量だけが現時点で明らかにされていないので詳細な数値は分からないけれど、おそらく1800kg台ではないかと推測する。そこそこ重いのが乗り心地には有利に働いているようで、乗り心地はもちろんよく、その上に全体的に動的質感が高く上質な印象を強く受ける。従来型が40番手くらいの糸を使ったカジュアルシャツならば、新型は100番手くらいの細い糸で丁寧に織ったフォーマルシャツのような違いか。
C 300 eはバッテリーのせいで重いからそう感じるのかとも思ったけれど、おそらく内燃機を積んだ他のモデルでも乗り味が大きく変わることはないだろう。Sクラス並みとはさすがに言わないが、Eクラスとは互角かそれ以上くらいの高品位な乗り味となっている。
至極真っ当に進化したCクラス
従来型のハンドリングは決して悪くなかったし、新型もほぼそれを踏襲している。今回はあくまでも移動のアシとして供されて指定のルートを走ったので、いわゆるワインディングロードでの負荷をかけたドライブは試してしないけれど、市街地や高速道路を法定速度で走る“普段使い”の範囲で気になる挙動はまったく確認できなかった。
ステアリング操作に対するクルマ側の反応は、タイミングは適正だしターンインから旋回姿勢に至る過渡領域の動きも極めてスムーズ。ステアリングを早く回せば俊敏に、ゆっくり回せばゆったりと動く様は、最近のメルセデスに共通するテイストでもある。一時はBMWを意識したのか曲がりたがるセッティングだった頃もあったけれど、いまでは元に戻して、いわゆるメルセデスらしい正確で従順なハンドリングとなっている。
約100km、90分のドライブで、C 300 eのイヤなところは見つけられなかった。日本ではまずC 200とC 220 dが導入されるそうで、そちらのほうが軽快感が少し前に出るかもしれないが、個人的にはC 300 eのちょっとだけ重厚感が感じられる乗り味も悪くないと思った。いずれにせよ、新型Cクラスは真っ当で健全な正常進化を遂げたとともに、ひとクラス上の上質さまで手に入れていた。
REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
【SPECIFICATIONS】
メルセデス・ベンツ C 300 e セダン
ボディサイズ:全長4751 全幅1820 全高1438mm
ホイールベース:2865mm
車両重量:未公表
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
ボア×ストローク:78.0×78.3mm
総排気量:1496cc
最高出力:150kW(204hp)/6100rpm
最大トルク:320Nm
モーター出力/トルク:95kW/440Nm
システム最高出力:230kW(312hp)
システム最大トルク:550Nm
トランスミッション:9速AT
サスペンション:前4リンク 後マルチリンク
駆動方式:RWD
【問い合わせ先】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
【関連リンク】
・メルセデス・ベンツ公式サイト
https://www.mercedes-benz.co.jp/