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Porsche 718 Cayman GT4 RS
容赦なく騒々しい
乗り心地は拍子抜けするほど文化的だった。そのままレースに出場できるほど好戦的なエアロダイナミクスで武装しているにもかかわらず、である。サーキット走行を見据えたこの種のピュアスポーツカーは、移動の際の一般道では刺々しい上下動に絶え間なくさらされるのは当たり前、といった覚悟はもう昔の話である。そういえばウラカンSTOや911GT3なども今や思いの外快適である。
大入力に対応するためにサスペンションが締め上げられていても、またスタンダードモデルよりも車高が30mm下げられていても、可動部がスムーズに動けば必要以上に気にならないという証左だろう。これならまったくやせ我慢することなく、サーキットまで往復できる。しかも高速道路に向かう一般道で大人しく流れに合わせている限りはエンジン音も十分に静かだ。7速PDK(トランスミッションはこれのみ)はせいぜい2500rpmでシフトアップ、扱いづらさは微塵も感じない。ただし、そんな環境でもちょっとスロットルペダルを深めに踏み込むと、背後からクワッという吸気音のようなひと吼えが聞こえることがただモノではない雰囲気を漂わせる。
ケイマンGT4 RSは、公道走行可能なケイマンとしては究極のモデルである(クラブスポーツというサーキット専用モデルも既にあり)。日本でも昨年11月から注文を受け付けていたものだ。ケイマン/ボクスターシリーズは2016年に現行の718シリーズにモデルチェンジした際に、ダウンサイジングを狙ってエンジンはすべて水平対向4気筒ターボに変更されたのが大きな特徴だったはずなのに、今やボクスター/ケイマンシリーズには4気筒ターボと6気筒自然吸気の2ラインが存在する。
911GT3譲りの水平対向ユニット
4気筒ターボだけではやはり従来からのポルシェファンを納得させられなかったというわけだ。当然GT4 RSは4.0リッター6気筒NAを積む既存のGT4およびGTS4.0の延長線上にある、よりスパルタンな高性能版と考えるところだが、実際はちょっと筋が違った。ケイマンとして初めて「RS」を与えられたGT4 RSは911GT3譲りの4.0リッター水平対向6気筒ユニットを搭載しているのである。
ボクスター/ケイマン用の4.0リッター6気筒ユニットが登場するまでは、911ターボ以外もすべてターボユニットに換装された現行ポルシェラインナップの中で唯一残っていたのが、911GT3用の自然吸気直噴4.0リッター水平対向6気筒エンジンだった。レースユニット由来のGT3に対して、GT4およびGTS4.0用エンジンは911GT3のエンジンをデチューンしたものではなく、現行型911の3.0リッター6気筒ターボをベースに新開発したエンジンだという。
実際、よりチューンが高いGT4でも420psと420Nmであるのに対して、GT4 RSは500ps、最大トルクは450Nmを生み出す。レブリミットは8000rpmのGT4に対してこちらはGT3と同じ9000rpm。最後の1000rpmでさらに一段と伸びが鋭くなるという、今時得難い高回転型武闘派ユニットであることが911GT3直系を物語っている。エアロパーツや軽量化だけでなく、こういうことができるのがポルシェの凄みである。ちなみに現行型911GT3はピークパワーは510psと470Nmとわずかだがきちんと差別化されている。ポルシェ家では長幼の序をわきまえなければならないのである。
回さずにはいられない気持ちに
とはいえパフォーマンスは目覚ましく、0-100km/h加速は3.4秒、最高速は315km/hと発表されている。ケイマンGT4のPDK仕様の3.9秒と302km/hを明確に上回るだけでなく、0-100km/h加速3.4秒、最高速318km/hを誇る新型GT3の7速PDK仕様ともはや事実上変わらない。さらにニュルブルクリンク北コースのラップタイムを引けば、新型GT3の6分59秒9(20.8km新コース)に対してGT4 RSは7分9秒3(これはGT4を24秒近く上回る)という記録を叩き出したという。これなら下剋上も近いかも、と思わせるとんでもないラップタイムだ。
これほどの高性能車ゆえに、公道ではどうしてもその実力の片りんを垣間見るだけ、という歯がゆさがつきまとうが、それでも痛快この上ない。全体的にローギヤードなせいで(7速100km/hは2800rpm)トップエンドの切れ味と咆哮を試せるのは2速が限界だが、突き抜けるように直線的にパワーが盛り上がりながら、4000rpmと6000rpm、そして最後の1000rpmでそのサウンドを先鋭化させ、さらに攻撃的に吹け上がるエンジンは恐ろしいまでの引力を持つ。
スピードが増すにつれてヒタヒタと吸い付くようなハンドリングのおかげでそこまで回さなくとも想像以上に速いとはいえ、どうしても回さずにはいられない切迫した気持ちにさせられるのが、むしろちょっとゾッとする。やはり場所を選ぶべきなのである。フロントのスプリッターやリヤのスワンネックウイング、さらにはサスペンションのトーやキャンバー、スタビライザーまで調整可能という本格的コンポーネントをいじくりまわしながらのトラックデイはさぞかし満足できるのではないか。
本気を出したポルシェが造る究極の武闘派
究極にして理想的なケイマンと言いたいGT4 RSだが、ひとつ声を大にして言っておかなければならないことがある。踏むと車内は猛烈にうるさいのだ。これはもう911GT3よりも格段に喧しい。何しろエンジン搭載位置が近いうえに、部屋続きである。さらに頭の後ろにはエアインテークがつながるカーボンのカバーがかぶせられるのみで、外装のCFRPボンネットやフロントフェンダーにとどまらず、カーペットもリヤガラスも軽量タイプで遮音材も断熱材も省略されるなど徹底的な軽量化を施されている。それゆえ、回せば情け容赦なしに室内は轟音で満たされる。これほど騒々しいナンバー付き市販車はちょっと記憶にないほどだ。
車重はGT4よりもさらに35kg軽い1415kgとされているが、車検証記載値はなぜか1490kgもあった。おそらくヴァイザッハパッケージや20インチの鍛造マグネシウム・センターロックホイールをはじめ(この2つだけで450万円以上)、計840万円あまりの無数のオプションが加えられていたためだろう。本体価格で既に1878万円とケイマンにしては飛び抜けて高価であり、その割には室内は初代モデルを思い出させるぐらい簡潔で、最近当たり前のADASなども備わらないが、それほど法外な値段でもないな、といつの間にか感じさせられているのがポルシェ・マジックである。いつものように、情け容赦なく本気を出した時のポルシェはとんでもなく凄い。そして高いのである。
REPORT/高平高輝(Koki TAKAHIRA)
PHOTO/市 健治(Kenji ICHI)
MAGAZINE/GENROQ 2022年11月号
SPECIFICATIONS
ポルシェ718ケイマンGT4
ボディサイズ:全長4456 全幅1801 全高1267mm
ホイールベース:2484mm
車両重量(DIN):1415kg
エンジン:水平対向6気筒DOHC
総排気量:3996cc
最高出力:368kW(500PS)/8400rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/6750rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後マクファーソンストラット
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前245/35ZR20(8.5J) 後295/30ZR20(11J)
最高速度:315km/h
0-100km/h加速:3.4秒
CO2排出量:281g/km
車両本体価格:1878万円
【問い合わせ】
ポルシェ カスタマーケアセンター
TEL 0120-846-911
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