最後のW12搭載モデル「ベントレー バトゥール」限定18台の3億円750PSのラグジュアリークーペをアフリカでベタ踏み

世界限定18台、1台あたり約3億円のバトゥール。今回試乗したパープルの個体は最初のプロトタイプとなる♯0、ブルーの個体は♯00と呼ばれる、ほぼ生産型のプロトタイプだった。
世界限定18台、1台あたり約3億円のバトゥール。今回試乗したパープルの個体は最初のプロトタイプとなる♯0、ブルーの個体は♯00と呼ばれる、ほぼ生産型のプロトタイプだった。
近代ベントレーの一時代を築いたW型12気筒エンジン、そのファイナルとして登場したのは限定18台だけ販売されるバトゥール。マリナーによって作り込まれた外観と内装を持ち、洗練極まる12気筒を搭載したスペシャルな1台のステアリングを握る機会を得た。(GENROQ 2023年8月号より転載・再構成)

Bentley Batur

ボディを架装しただけのカスタムモデルではない

今回の試乗はアフリカ西サハラ沖の大西洋に浮かぶリゾートとして知られるスペイン領テレフィネ島で行われた。

世界限定18台、1台あたりの基本価格165万ポンド(=約2億8900万円)、しかも全車受注済み……。

その触れ込みを聞いて、尻込みしない者はいないだろう。事実、アフリカ西サハラ沖の大西洋に浮かぶリゾートとして知られるスペイン領テレフィネ島で、2台のベントレー・マリナー・バトゥールを前にしても、本当に試乗して大丈夫なのかという不安は拭えなかった。

そんな気持ちを察してか、マリナーのチーフ・テクニカルオフィサーを務めるポール・ウィリアムズは、パープルの1台はコンプリート状態としては最初のプロトタイプとなる♯0、そしてブルーの1台は、♯0の経験を反映し、ほぼ生産型に近い状態となった♯00という名のプロトタイプで、クルーではやっと市販1号車の製作が始まったところだと教えてくれた。

ウィリアムズによると、内外装ともにバトゥールの形をしたプロトはこの2台のみだが、その他にもコンチネンタルGTに偽装されたプロトが数台造られ、テストを重ねてきたのだそうだ。では本誌先月号で紹介した東京で見たパールホワイトの個体は何なのか? と聞くと、あれは単なるスタイリングのためのスタディだとの答えが返ってきた。そうバトゥールは、単にボディを架装しただけのカスタムモデルではないのだ。

フロントウインドウ、Aピラー以外はすべて刷新したボディ

明るいテレフィネの陽光の下で見るバトゥールは、ベントレー東京のショールームで見た時よりも締まって、よりマッシブに見える。その姿が2025年以降に登場する初のBEVモデルを示唆するものであることは周知の通りだが、トビアス・シュールマンが手がけたエクステリアには3つのテーマが込められているという。

「ひとつはレスト・イン・ビースト。獲物を狙う野獣の姿勢のように、低く構え、今にも飛び出しそうな後ろ足をリヤフェンダーに表現しました。続く2つ目がアップライト・エレガンス。直立した馬のような威厳と気品のフロントグリルですね。そして3つ目がエンドレス・ボンネット。これはベントレー伝統のロングノーズをより強調する、ボンネットから伸びるキャラクターラインと低いルーフラインです」

ベースとなったのはコンチネンタルGTスピードだが、ボディに関してはフロントウインドウ、Aピラー以外はすべて刷新されている。あわせてボディパネルにはカーボンファイバーが奢られ、リヤシートを撤去し完全2シーターとすることで約40kgもの軽量化にも成功しているとウィリアムズは説明する。

「実は♯0の右フェンダーとサイドスカートには、カーボンファイバーの代わりに、天然繊維からなるナチュラルファイバーを使っています。これもサステナビリティの一環ですが、まだ未完成のマテリアルです。我々は今回のコーチビルドをきっかけに、ベントレーの将来のデザイン言語がどのようなものになるのかを、お見せしたいと思っているのです」

750PSでも荒々しさを感じさせない調律

一方、バトゥールの特徴のひとつである“最後”のW12ツインターボに関しては、排気量はそのままながらターボの大型化、インテークの拡大、そしてインタークーラーを含む冷却系の大幅な強化とマッピングの変更により、現時点で最高出力750PSオーバー、最大トルク1000Nmを発生。テストにおいては、公表値の337km/hを上回る最高速度を記録したという。

その振る舞いは至ってジェントル。始動直後のエキゾーストノートもおとなしめだ。しかし、空いた直線でスロットルペダルを大きく踏み込んでみると、爆発という表現が的確なほど強烈にパワーが立ち上がり、あっという間にスピードメーターが制限速度を超える。GTスピードの記録をさらに0.2秒縮めた0-100km/h加速3.4秒という公称値は伊達ではない。

それでもW12は、まだ序の口と言わんばかりに回転は上がり続けるものの、さすがに公道で750PSをフルに味わうのは不可能だ。それでいて荒々しさや手強さを感じさせない調律っぷりも見事で、最終章と謳いながらも、まだまだこのW12には秘めた伸び代があるのだということを、改めて思い知らされた。

加えて高速域でも風切り音やロードノイズが見事に遮断され、車内がものすごく静かなのもバトゥールの特徴だ。そこは100年にわたりベントレーのボディを手がけてきた老舗コーチビルダーの作品。見た目だけでなくエアロダイナミクスの処理も抜かりはない。

マリナーの可能性の一端を見せた

コンチネンタルGTをベースとしているが、ボディラインは別物。サイド部分の造形は見事だ。

その驚きは、舞台がワインディングに移っても続く。

そもそもコンチネンタルGTスピード自体が、重く大きなW12をノーズに納めていることを忘れさせるほど、素晴らしいハンドリングの持ち主であったが、バトゥールではGTスピードにわずかに残されていた“鼻の重さ”が消え、ステアリングの入力に対するリアクションがよりシャープかつクリアになった。

さらにリヤの追従度、安定度も増しており、コーナーのエイペックスからスロットルオンしても微かなスキール音がするだけで、姿勢を一切乱すことなく猛然とコーナーを立ち上がる。それゆえ、タイトでお世辞にも路面状態がいいとは言えないテレフィネ島のワインディングでも、自信をもって飛ばすことができた。その背景にはバトゥール用にリセッティングされた4WSやeLSD、エアサスペンションはもちろんのこと、40kgの軽量化と、拡大されたリヤトレッドが効いているのは間違いない。

いずれにしろ750PSのパワーを完全に手懐けたエンジニアリング、そしてプロトタイプといえども、丁寧に作り込まれた内外装の仕立ては素晴らしいものだった。電動化の時代を迎え、より自由なクルマ造りが求められるようになると、マリナーはさらに活躍の場を広げていくことになるだろう。バトゥールは、そのプロローグのひとつでもあるのだ。

REPORT/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
PHOTO/BENTLEY MOTORS
MAGAZINE/GENROQ 2023年8月号

SPECIFICATIONS

ベントレー・バトゥール

ボディサイズ:全長─ 全幅─ 全高─mm
ホイールベース:2779mm
車両重量:2233kg
エンジン:W型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5950cc
最高出力:552kW(750PS)/5500rpm
最大トルク:1000Nm(74.4kgm)/1750-5000rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35ZR22 後315/30ZR22
0-100km/h加速:3.4秒
巡航最高速度:337km/h
車両本体価格:約2億8900万円

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藤原よしお

クルマに関しては、ヒストリックカー、海外プレミアム・ブランド、そしてモータースポーツ(特に戦後から1…