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BMW M4 Competition M xDrive Coupe
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Mercedes-AMG C 63 S E Performance
2.0リッターでも大台突破の1020Nm
BMWのM3/M4がここ2世代で直列6気筒の伝統を守っているのと同様に、CクラスのAMGも3世代・約20年にわたってV8を積んできた。M(先々代M3のみV8だったが)に対して大排気量でパワフルなエンジンであることが、AMGのアイデンティティでもあった。
ベールを脱いだ新型CクラスベースのC63S Eパフォーマンスはその伝統を捨てて、なんと2.0リッター直列4気筒ターボを積む。先代の4.0リッターV8ツインターボと比較するとちょうど半分(?)だ。ただ、車名末尾の「Eパフォーマンス」から想像できるように、電動システムがそれを補い、速さを象徴する車名数字は変わらず「63」を標榜する。
2.0リッター4気筒といっても、単体性能で実に最高出力で476PS、最大トルクで545Nmに達する。これは世界最強4気筒のほまれ高かったA45S(421PS、500Nm)をも大幅にしのぎ、宿敵M3/M4の3.0リッター直列6気筒ツインターボの510PS、650Nmに肉薄する数値だ。そこにリヤアクスル部分の203PS/320Nmを組み合わせて、システム最高出力は680PS、同最大トルクにいたっては大台突破の1020Nm(!)を豪語するわけだ。
いかにもダイレクトな乗り味のM4
もっとも、最新のF1技術を投入したという6.1kWhのAMGバッテリーや、その他のPHVシステムもあって、新しいC63Sはライバル役として連れ出したM4コンペティションより、車重が300kg以上も重くなってしまっている。それでも、0-100km/h加速はM3/M4コンペティションより逆に0.1秒速い3.4秒を謳う。4気筒となっても、PHVとなっても、AMG謹製Cクラスの仮想敵はやはりM3/M4ということだ。
注目の新型C63Sの前に、まずは宿敵M4コンペティションにあらためて乗る。長らくFRに拘り続けてきたM3/M4も現行型からは4WDのxドライブも追加されて、あっという間に4WDが主力となった。今回は試乗車の都合でM4になったが、C63Sと直接競合するM3も、各種の性能値はM4とピタリと同じで、車重も10kgの差しかない。
そんなM4の乗り味は、いかにもダイレクトだ。連続可変ダンパーは備わるものの、基準となるコイルやスタビ、タイヤなどのバネ類がすべて高剛性なので、ダンパーを柔らかいコンフォートモードにしても、ゴリゴリとした体育会系の路面感覚は解消されない。それよりはスポーツ、さらにはスポーツプラスと、ダンピングも引き締めるほどクルマ全体の一体感が醸成されて、総合的には快適ですらある。また、エンジンや変速機も過激な設定にしたほうが、硬質なシャシーにカツが入って、すべてのピントが合焦していく。
そんなM4と比較すると、C63Sの乗り心地は望外に快適だ。コンフォートモードでもアンバランスな上下動は微塵も感じさせず、素直にフラットで快適。その最大の理由は可変ダンパーというより、バネ類がM4より(車重に対して)ソフトな設定だからと思われる。C63SがBMWより重いボディを柔らかいフットワークで走らせられるのは、より4WD感の強い(C63Sもついに4WDになった!)駆動配分に加えて、四輪操舵の恩恵も大きそうだ。四輪操舵は逆位相での俊敏性、同位相での安定性を飛躍的に向上させるが、同時にロールを減らす特性もある。
エンジン車とは異次元の純EVを思わせるC 63 S
可変モノが最小限のM4がスパルタンでダイレクトなら、考えられる可変シャシー制御がフルトッピングされた新しいC63Sは、いわばクイックでタイトな味わいだ。運転席に座った瞬間に車両感覚がぴたりと把握できるのはいかにもメルセデスらしく、さらに筆者のようなアマチュアでも、より安心して踏めるのが新型C63Sの美点といえる。M4はそれとは好対照に良くも悪くも4WDらしさが希薄で、良くも悪くもFR的な回頭性を色濃く残す。ただ、腕に覚えがあるドライバーなら、そんなM4を自在にコントロールすることに至上の喜びを見出すことだろう。また軽い車重もあってか、ブレーキは効き、感触ともM4の圧勝だ。
新型C63Sは満充電すれば最大15km(WLTCモード)のEV走行が可能というが、電池残量があってもアクセルを踏み込めばエンジンが始動する。電動ターボの4気筒は、A45Sのような不敵な咆哮は上げず、いかにも実が詰まった回り方をする。低回転域では電気でターボで回して、さらに全域で強力な駆動モーターがアシストするレスポンスは、まさに右足の吸いつくかのごとし。純EVを思わせる、エンジン車とは異次元と以心伝心ぶりである。
BMWの直6も、超ハイチューンの純内燃機関としては十二分に柔軟で低回転からのキック力も強力だが、新型C63Sの前ではどうしてもラグを感じ取ってまう。ただ、4000rpmから“泣き”が入りはじめて、7200rpmまで突き抜ける快感はナニモノにも代えがたい。
C 63 Sのスムーズさこそ真のすごみ
ドラマチックなBMWのストレートシックスと比較すると、最新F1技術を投入したAMGの4気筒ハイブリッドは、とんでもないパワーとレスポンスのわりには、スムーズすぎで迫力不足を感じなくもない。さらに、圧倒的に安定したシャシーもそれに輪をかける。ただ、効率を究極まで突き詰めた電動パワーユニットとはそういうものだ。
最近のF1が静かすぎる、迫力がないと揶揄されるのも、音=振動すらエネルギーとして回収しているからでもある。この新型C63S Eパフォーマンスでも、このスムーズさこそ真のすごみ……と理解すべきだろう。
REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2024年 2月号
SPECIFICATIONS
メルセデスAMG C 63 S Eパフォーマンス
ボディサイズ:全長4835 全幅1900 全高1455mm
ホイールベース:2875mm
車両重量:2160kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1991cc
最高出力:350kW(476PS)/6750rpm
最大トルク:545Nm(55.6kgm)/5250-5500rpm
モーター最高出力:150kW(204PS)/4500-68500rpm
モーター最大トルク:320Nm(32.6kgm)/500-4500rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/35R20 後275/35R20
車両本体価格:1660万円
BMW M4コンペティションM xドライブ・クーペ
ボディサイズ:全長4805 全幅1885 全高1395mm
ホイールベース:2855mm
車両重量:1790kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCターボ
総排気量:2992cc
最高出力:375kW(510PS)/6250rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/2750-5500rpm
モーター最高出力:─
モーター最大トルク:─
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35R19 後285/30R20
車両本体価格:1440万円
【問い合わせ】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/