【アストンマーティンアーカイブ】有名なアストンマーティン「DB5」にまつわるサイドストーリー

もっとも有名なアストンマーティン「DB5」の知られざる誕生秘話【アストンマーティンアーカイブ】

当初は「DB4シリーズ6」として開発を進められていたという「DB5」。
当初は「DB4シリーズ6」として開発を進められていたという「DB5」。
もっとも有名なアストンマーティンと言っても過言ではない「DB5」。もちろん映画『007/ゴールドフィンガー』の劇中車への採用が最大の転機だが、しかし当初はDB4シリーズ6としてデビューする予定だったという。知られざる背景も含めて解説する。

DB5(1963-1965)

当初はDB4シリーズ6だった

登場翌年の1964年に映画が封切られると“ボンドカー”の愛称で呼ばれた「DB5」は主役を食うほどのインパクトを人々にもたらした。

1963年に登場したDB5は、その後のアストンマーティンの運命を大きく変える1台となった。

当初ニューポートパグネルでは、このクルマをDB4シリーズ6として開発を進めていた。というのもその中身は、1962年にボディを4.57mに延長し、DB4GTのようなヘッドライトカバー、15インチホイール、そしてスペシャルシリーズエンジンを標準装備したDB4シリーズ5とほとんど同じだったからだ。

一応彼らは170項目に及ぶ改良を施したと主張するが、主だった変更点はエンジン排気量を3670ccから3995ccへと拡大したのと、ブレーキキャリパーをDB4GTと同じガーリング製にしたくらい。ちなみに排気量の拡大により最高出力は270PSから284PSへとアップしているが、一方で重量は1453kgへと増大している。

映画007シリーズの劇中車として

ではなぜ、DB4シリーズ6ではなく、DB5になったのか? それはショーン・コネリー主演の映画007シリーズの3作目『007/ゴールドフィンガー』の劇中車に使用されることが決まったからだ。

1959年に出版されたイアン・フレミングの原作では当時の最新モデルであるDBマーク3がジェームズ・ボンドの愛車として描かれているが、映画化にあたり最新モデルを使用することに変更。加えて、その後のボンドカーの代名詞となるフロントのマシンガン、前後の回転式ナンバープレート、リヤスモーク噴霧器、リヤオイル噴射装置、トランクリッドの格納式防弾版、センターコンソールのレーダーといった“秘密兵器”が搭載されることとなった。

そのガジェットを搭載した車両“エフェクトカー”に使われたのが、DB5のプロトタイプの1台であるシャシーナンバーDB/216/1で、もう1台走行シーン用の“ロードカー”としてDB/1486/Rが用意されている。

自動車メーカーとメディアがタイアップした初の成功例

1964年に映画が封切られると“ボンドカー”の愛称で呼ばれたDB5は主役のショーン・コネリーを食うほどのインパクトを人々にもたらした。そして1965年のクリスマスシーズンを前に老舗ミニカーメーカーのコーギーから発売されたギミック満載の1/43スケールのミニカーは、瞬く間に全世界で200万台を販売。この年の“トイ・オブ・ザ・イヤー”と“ベスト・ボーイズ・トイ”も受賞する大ヒット商品となるなど、一大旋風を巻き起こした。

それはまた自動車メーカーとメディアがタイアップした最初の成功例となり、以降、多くのフォロワーを生み出すことになった。またボンドカーは007シリーズに欠かせないマストアイテムとなり、アストンマーティンが今でもその代名詞になっているのは、ご存知の通りだ。

一方、市販モデルにおいてはシャシーナンバー1340以降のギヤボックスがデイヴィッド・ブラウン製4速MTからZF製5速MTに変更。またシャシーナンバー1763以降には、3基のウェーバー45DCOEキャブレターを装着することで318PSを発生する高性能版のヴァンテージをオプションに追加するなど進化を続け、1965年までに合計1021台が製造された。またクーペに加え、ソフトトップを備えたオープンモデルのヴォランテが123台、ハロルド・ラドフォードがコーチビルドしたシューティングブレークが12台製造されている。

そして2020年、アストンマーティンのヘリテージ部門であるアストンマーティン・ワークスは、007シリーズの制作会社であるイーオン・プロダクションズと共同でDB5ゴールドフィンガー・コンティニュエーションを25台限定で製作、販売することを発表。1台あたり4500時間をかけて製造される同車には、特殊効果監督のクリス・コーボールドOBEが監修した、映画で使われたガジェットが可能な限り忠実に再現され、搭載されたことでも話題となった。

ラピードのボディは、DB4同様にトゥーリングが特許をもつスーパーレッジェーラ工法で構成され、DB4を踏襲した美しい4ドアボディが架装されるはずだったが、そのデザイン案をもとに社内のデザインチームが手直しを実施し、リヤ周りにわずかながらオリジナルデザインを残すのみとなった。

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藤原よしお 近影

藤原よしお

クルマに関しては、ヒストリックカー、海外プレミアム・ブランド、そしてモータースポーツ(特に戦後から1…