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Lamborghini SC63
強豪が名を揃える激戦区へ
ランボルギーニが、モータースポーツのトップ・カテゴリーに帰ってきた。1989年のラルースに始まり、ロータス、リジェ、モデナ、ミナルディ、そして実戦には至らなかったもののマクラーレンへとエンジン・サプライヤーとしてF1GPに参戦した経験のあるランボルギーニが、2024年に新たにエントリーするのは、FIA世界耐久選手権(WEC)のハイパーカークラスと、アメリカのウェザーテック・スポーツカー選手権のGTPクラスだ。そのためのLMDh(ル・マン・デイトナ・h)マシンの名は、ランボルギーニのモータースポーツ部門であるスクアドラ・コルセと、同社がフェルッチオ・ランボルギーニによって創立年である1963年を意味する、「SC63」。同クラスに参戦するハイパーカークラスのライバルには、「ポルシェ963」「フェラーリ499P」「トヨタGR010ハイブリッド」「アルピーヌA424」「BMW M ハイブリッドV8」「プジョー9X8」、「イソッタフラスキーニ・ティーポ6-C」などの強豪が名を揃える。参戦1年目となるランボルギーニに厳しい戦いが待つのは必至といったところだ。
そこでオレは、まだ編集部の許可は半分くらいしか取っていないけれど、そのランボルギーニの勇気を称えて、「がんばれ、ランボルギーニSC63」という連載企画をこのゲンロクWEBで勝手に始めることにした。そう考えていたら、まさに神の声を伝えるかのような一本の電話が。何とWECの開幕戦であるカタールに現場にいるチーフテクニカルオフィサー、であるルーベン・モール氏がバーチャルではあるけれど(当たり前だが)グループ・インタビューに応えてくれるというではないか。
ディレツィオーネ・コル・タウリ戦略の一環
聞きたい話はたくさんあったけれど、当日はどうしてもこの話題から質問を始めなければならなかった。実は今年の開幕戦に向けてのカタール、ルサイル・インターナショナル・サーキット」での公式テスト、プロローグに向けて待つチームのもとへ、ジプチとイエメンとを隔てるバブ・エル・マンデブ海峡が閉鎖されたために、機材が届かない事態が発生しているというのだ。ランボルギーニも当然その影響を少なからず受けているだろう。
「船便到着の遅れによる影響を受けたことは、多かれ少なかれ、ほかのチームも同じことです。我々にできることは、その困難に対してどれだけ冷静に対応できるか。今は誰もがベストを尽くして予定されているプログラムをこなしているというという状況です」
プロローグが2日遅れで始まるまさにその日の朝、このインタビューに応えてくれたモール氏は、今回のLMDhプロジェクトについてこうも説明してくれた。
「今年が参戦初年度であることを考えなければならないが、今シーズンはより公平なレースになると確信している。サーキットでのバトルが美しく、公平なものになることを願っている。LMHdプロジェクトは、ランボルギーニのモデルレンジのハイブリッド化を目指す、ディレツィオーネ・コル・タウリ戦略の一環ですから」
パートナーであるアイアンリンクスとともに、ランボルギーニは大西洋の両岸で1万km以上ものテストを行った後、いよいよ開幕戦を迎えることになった。
「ランボルギーニはこのクラスに新たに参入したメーカーですから、まずは学ぶということを重点にレース活動を進めていきたいと思います。もちろん野心はできるだけ早く競争力をつけることです。コンペティションと同様、ランボルギーニSC63のパフォーマンスについて、プロローグからその結論を出すのは難しい。ラップタイムをタイヤや燃料など、どの方向からいかに分析するのか。私たちは学習と安定の段階にいるといえるでしょう」
レースは7位でフィニッシュ
カタール時間の3月2日午前11時にスタートした、2024年WEC第1戦カタール1812kmでのランボルギーニ・アイアンリンクスによるSC63のリザルトは、予選18番手からの14番手フィニッシュというもの。そのステアリングを握ったミルコ・ポルトロッティ、ダニエル・クビアト、エドアルド・モルタラの3名も、初戦のリザルトとして十分にそれは満足できるものだったに違いない。
そしてそれに続くIMSAのセブリング12時間でも、メカニカルトラブルなく、マッテロ・カイローリ、アンドレア・カルダレッリ、ロマン・グロージャンのクルーによって、今シーズン最も過酷といえるこのレースを7位でフィニッシュ。GTPクラスのポイントを獲得するという、さらなる進化に向けた確かな基盤を築いた。
と、ここまでは「がんばれ、ランボルギーニSC63」としては、これ以上はない初回のレポートとなるはずだったのだけれど、やはりランボルギーニとは心配なことが絶えないメーカーなり。2015年からランボルギーニのモータースポーツ部門の責任者として活躍し、スクアドラ・コルセを現在の地位にまで導いてくれた、あのジョルジオ・サンナさんが。WECの開幕戦を前にランボルギーニを退職してしまいました。たかだかオレ達のニューモデル試乗会でも、いろいろと親切にお世話してくれたサンナさん。戻ってきておくれよ、ランボルギーニに。