欧州GT選手権を戦う「マセラティ GT2」の実力をサーキットで確かめた

本格レーシングカー「マセラティ GT2」にモデナのサーキットで試乗「目下欧州GT選手権で活躍中」

今年の欧州GT選手権に参戦すべく、MC20ベースに開発されたのがマセラティGT2だ。クラス最高のスペックを備えるという威信をかけたレーシングマシンに、モータージャーナリスト山田弘樹が日本人として唯一、試乗する機会を得た。
日本人として唯一マセラティGT2のテストドライブが許された、モータージャーナリスト山田弘樹による試乗インプレッション。
今年の欧州GT選手権に参戦すべく、「MC20」ベースに開発されたのが「マセラティ GT2」だ。クラス最高のスペックを備えるという威信をかけたレーシングマシンに、モータージャーナリスト山田弘樹が日本人として唯一、試乗する機会を得た。(GENROQ 2024年6月号より転載・再構成)

Maserati GT2

開幕戦ポール・リカールで総合優勝

ついにマセラティ GT2のテストドライブが実現。そのお膝元であるアウトドローモ・モデナで乗る僥倖を得た。

プッシュボタンを押すと同時に、けたたましく鳴り響くクランキング。プレチャンバーシステムから火種が送り込まれたのか、少しだけ間を置いて3.0リッターV型6気筒ツインターボ“ネットゥーノ”は、爆音と共に目を覚ました。これぞまさに、レーシングカーの興奮と緊張感。「マセラティGT2」のテストドライブが、そのお膝元であるアウトドローモ・モデナで始まった。

マセラティGT2は、「MC20」のレーシング仕様だ。マセラティは開発段階からこのミッドシップスポーツカーがモータースポーツへ参戦することを予定しており、そのターゲットをGT2カテゴリーに定めていた。

ちなみに昨年はLP Racingが「ファナテックGT2ヨーロピアン・シリーズ」の最終戦ポール・リカールに参戦し、デビューレースでポールを獲得。それが今年は3台体制となり、開幕戦ポール・リカールのレース1で12号車が総合優勝。レース2では2号車が3位を獲得し、最高のスタートを切った。

今後シリーズがプロ化する可能性も

レースで勝利するためのポテンシャルを有するGT2のため、今回は国際サーキットライセンスを保有する9名のジャーナリストのみ招聘された。

もう少しGT2の話をしておくと、現在このシリーズはアマチュアのためのカテゴリーとして機能している。それは高度化し過ぎたGT3レースに対する逆転現象であり、よりパワフルなマシンをややローダウンフォースに仕立てることで、ジェントルマンドライバーが活躍できるレースとなっている。現状エントラントはプロ/アマ、アマチュアのペア及び単独だが人気は上昇中だから、この先プロ化する可能性は否定できない。

そうは言ってもマセラティはこのマシンをGT2レースで勝てるポテンシャルに仕上げているため、決して入門用のイージーな造りにはなっていない。よってテストドライブには国際ライセンスが必要とされ、世界で9名のジャーナリストにしか試乗の機会は与えられなかった。そこに筆者が選ばれたのは光栄だったが、プレッシャーは当然強烈だった。

しかしながらそんな重圧が吹き飛んでしまうほど、マセラティGT2は素晴らしかった。このレーシングカーは、市販車同様、実に運転しやすいのだ。そして走らせるほどに、ドライバーをやる気にさせてくれる。

完成度の高さに脱帽

誰にもでも扱えるわけではないが、コントロール性に優れたシャシーを持つマセラティGT2。そのデキはホンモノだ。

まず感心させられたのは、シャシーとドライバーエイドシステムの完成度の高さだ。エンジン出力はノーマルと同じ621PSで、試乗時はマッピングダイヤルがマキシマムになっていた。しかしスリックタイヤは連日の走行で使い倒されており、油断はできない状況だった。

そんな状態でフルブレーキングを行うと、まずシャシーがそのスピードをガッチリ受け止める。そしてABSが制御を効かせるわけだが、慣れるに従いステアリング上のダイヤルで、その介入を遅らせて行くことができるのだ。また「立ち上がりでブーストがやや遅れる」とコメントするとエンジニアは「トラクションコントロールを弱めろ」という。その指示に従うと、確かにネットゥーノが元気づく。高回転での耐久性と燃焼効率を向上させるためにタービンが大型化されているにも関わらず、その本性を表してくるのだ。

こうしたシステムは本物のレーシングカーなら当たり前だとも言えるが、その当たり前がきっちりと、マセラティGT2には備わっている。

44万ユーロの価値は十分にある

【1】ミッドにマウントされるのはお馴染 み3.0リッターV6ツインターボ「ネットゥーノ」だ。最高出力621PSを発生する。【2】専用のキャリパー&ブレーキパッド、センターロック式の18インチ鍛造アルミホイールを装備する。強力な制動力は感動ものだ。【3】走るために必要な機能が集約されたコンパクトなステアリングはレーシングマシンであるGT2に相応しい。扱いやすさも抜群。

アウトドローモ・モデナは2km強の小さなサーキットだが、タイトコーナーでの動きも悪くない。ブレーキを残し過ぎればきちんとスピンができるほど旋回性は高く(笑)、ミッドシップならではのヨー旋回特性を披露してくれる。

「やや挙動がシャープだから、アマチュアには少し難しいかもしれないね」と伝えると、開発ドライバーであるアンドレア・ベルトリーニ氏が「ニュータイヤを履けば、断然扱いやすくなるはずだよ。次はもっと広いコースへ行こう!」と誘ってくれた。我が子の実力(乗りやすさと楽しさ)は、まだまだこんなモンじゃないというわけだ。

確かに今回はマセラティGT2のダウンフォースレベルを確かめられなかった。しかし、これだけは言える。その高度なドライバーズエイドは運転技術だけでなく、ドライバーがコーナーに向かって挑戦する気持ちをも育む。そこがドイツ勢にはない、純イタリア製レーシングカーの魅力だ。価格は欧州市場で44万ユーロ(税別)と目眩のする額だが、これが成立するレース文化の奥深さには、正直嫉妬せざるを得ない。

REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/Maserati S.p.A.
MAGAZINE/GENROQ 2024年 6月号

SPECIFICATIONS

マセラティ GT2

ボディサイズ:全長4838 全幅2029 全高─mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:─kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2992cc
最高出力:463kW(621PS)/7500rpm
最大トルク:730Nm(74.4kgm)/3000rpm
トランスミッション:6速SCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前325/660-18 後327/705-18

【問い合わせ】
マセラティコールセンター
TEL 0120-965-120
https://www.maserati.co.jp/

現在開発が行われている「MC20 GT2」。2023年シーズンに間に合う形でプライベーターに供給される。

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山田弘樹

モータージャーナリスト。自動車雑誌『Tipo』の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した…