目次
Ford Mustang Mach-E Rally
中古のマスタング マッハ-Eベースの試作車
世界ラリー選手権(WRC)を戦うラリーカーを思わせる「マスタング マッハ-E ラリー」は、フル電動クロスオーバーをベースに開発されたハイパフォーマンス仕様として2023年に登場。2024年から米国での販売をスタートした。
マスタング マッハ-E ラリーは、エンジニアの休憩室で投げかけられた、「マスタング マッハ-Eのラリーバージョンを作れないか?」 というちょっとしたアイデアから始まった。2022年の早朝、このアイデアはプロダクトプランナーのピーター・シュルツとクレイグ・ミリオリへとメッセージで送られ、早速実行へと移される。
彼らは中古のマッハ E GTに、ラリーホイールとオフロードタイヤを装着。フォードのテスト施設「ミシガン・プルービング・グラウンド(Michigan Proving Ground)」へと向かい、実際にグラベルコースを走行できるかを確認した。そして、その結果は「イエス」だったのである。
WRCマシンを思わせるパフォーマンス
マスタング マッハ-E ラリーは、その名に相応しいエクステリアだけでなく、当初からWRCやラリークロスにインスパイアされた本格的な性能も必要だと開発チームは考えていた。
ノーマルのマスタング マッハ-E GTのサスペンションから1インチ(25.4mm)リフトアップし、ラリークロス用にチューンされたレイズ製ショックアブソーバーとスプリングを装着。不整地や荒れた路面での走破性を大幅に高めた。グロスホワイトの19インチラリーホイールには、ミシュラン製「CrossClimate2」が装着され、グラベル路面における強力なトラクションを実現している。
ハイパフォーマンスモデルとしての個性を際立たせるため、アッパー&ロワボディモールディング、アグレッシブなスタイリングを演出するフロントスプリッターとリヤスポイラー、ブラックペイントのスチールルーフ、ラリーカーを思わせるビルトインフォグランプなどが装着された。
実戦を想定したハードなテストを実施
このような改造を施しても、マスタング マッハ-E ラリーが、本当にラリーやラリークロスでパフォーマンスを発揮できるのか? その疑問に応えるために登場したのが、フォードのオフロード専属エンジニア、クリス・バーチンと、車両エンジニアリング・スーパーバイザーのジェイ・キスラーだった。
マスタング マッハ-E ラリーは、ラリークロスの実戦に換算すると10シーズン分に相当するテストを実施。フォードのモータースポーツ部門のラリークロスにおける経験に基づき、ミシガン・プルービング・グラウンドでは500マイルにも及ぶ、ハードな評価テストを経験することになった。
「マディからドライまで、様々な天候やコンディションの中でテストを行いました。これはラリーやラリークロスのコンペティターが直面する、典型的なコンディションです。ミシガン・ブルービング・グラウンドは、コースを組み合わせることで、典型的なダートコースを作り出すことが可能です。あらゆる状況を想定した、トラクションシナリオを再現することができるのです」と、クリス・バーチンは説明を加えた。
社内で開発を完結させたプロジェクト
マスタング マッハ-E ラリーは、社内のコースを使い、社内のみで開発したことで、コストと開発期間を抑えただけでなく、プロジェクトを秘密裏に進めることが可能になった。この成功が認められ、開発チームはフォード本社から「ビークル・エンジニアリング・バリデーション賞(Vehicle Engineering Validation award)」を受賞。これは、完全に社内で設計・実現されたこのプロジェクトの成功を称える賞となる。
前後アクスルに搭載されるデュアルモーターは、最高出力486PS、最大トルク880Nmを発揮。前述のように専用チューニングされたサスペンション、385mm径フロントブレーキローター、レッドペイントされたブレンボ製キャリパーなども導入された。
フロア下には、容量91kWhのリチウムイオンバッテリーが配置されており、航続距離は約250マイル(約402km)を確保。DC急速充電器を使うことで、約36分で10%から80%まで充電することが可能となっている。