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MASERATI QUATTROPORTE
シンプルなネーミングを好むマセラティ
イタリアブランド、というかイタリア語はずるい。つい先日も日本デビューを飾ったフェラーリの新型モデルは「ドーディチ チリンドリ」と言って、日本語に訳すと単に「12気筒」。それでもなんとなくカッコよく聞こえるのは、フェラーリのブランド性ゆえというのもあるけれど、イタリア語の語感も寄与していると思う。
もっともイタリア車には昔からそういったシンプルなネーミングを好む傾向があって、なかでもマセラティが面白い。最新モデルの「グラントゥーリズモ」や「グランカブリオ」(以前には単にクーペとスパイダーだった)は言うに及ばず、際たる例が1963年に初代が誕生した「クアトロポルテ」その名も「4ドア」である。
「トヨタ クラウン」ではなく「豊田四つ扉」なんてモデルが出ても誰も買わないだろうけれど、マセラティ クアトロポルテなら響きも耳に心地よい。反則です。
ナカミはまんまグラントゥーリズモ
というわけで、今回のお題がそれ、クアトロポルテ。イタリア語の4ドア。つい先だって現行モデルの生産が終わって、イタリアで試した最終のV8モデルもすごくよくて、ついに8気筒をやめてしまうのかと残念に思ったばかり。
そこでふと思い出したのが、先代クアトロポルテでいうところの5代目、2004年から2012年まで作られた「奥山ポルテ」(と私が勝手に呼んでいるだけ)だ。そう、この頃マセラティはフェラーリの傘下となり、ピニンファリーナとのコラボレーションも久々に復活していた。
ロングノーズの巨大なFRのスポーツサルーン。それもそのはずナカミはまんまグラントゥーリズモ。初期モデルには同じくトランスアクスルレイアウトのセミMTグレードがあったり、のちにはトルコンATが追加され、さらにはマラネッロ勢の自然吸気V8エンジンにも排気量違い(4.2もしくは4.7)やスペック違いもあったりして、おまけにグレード名もシンプルなものばかり(グレード名なしとか、Sとか)だったから、覚えづらいというか、なんとなく行き当たりばったりな印象もまたイタリアンでよかった。フェラーリだってネーミングだけは本当にその場の思いつきみたいなものだし。
サメというか深海魚的な前期型
それにしても5代目はよかった。まずはピニンファリーナとフランク・ステファンソンによるデザインだ。マイナーチェンジ後に少々マイルドになるのはいつものことだけど、前期ものの顔つきといったら! これに勝るサメというか深海魚的なマスクは1970年代初頭の第2世代ポンティアック ファイヤーバードしか思い出せない(大好き)。
フォルムもセダン離れしている、けれどもちゃんとビッグサルーンとして使える。機能性とデザイン性のユニークな両立という点で、そこを性能のために割り切ってしまったアストンマーティンやポルシェの4ドアよりも優れている。そして、そのことが結果的に個性的な存在感となって、今なお見るものに迫ってくるのだった。
もうひとつ、5代目の魅力はなんと言っても自然吸気の大排気量マルチシリンダーエンジンを搭載するということ。マラネッロとのコラボレーションも今では解消されてしまったから、フェラーリの作った自然吸気V8エンジンを積むという二重の価値もこの5代目にはある。
大体120万〜200万円くらいで
そして、そのサウンドがまた賑々しい。今となっては少々騒がしいほどだけれど、甲高いサウンドはまさにエグゾーストノートと表するにふさわしいもの。願わくばマフラーを換えて爆音などにせず、ノーマルでも十分な鳴りと響きを楽しんで欲しいものだ。爆音にして、シャコタンにした途端、日産シーマを素材にしたように上品が下品になってしまう。
個人的にはシングルクラッチの心配もあるけれど、前期のオリジナルデザインを楽しんで欲しいと思う。カーセンサーで見れば大体120万〜200万円。茶色とかいいなぁ。200万円台になると先代の6代目も入ってくるから、ひょっとして5代目人気が出つつあるのかも?
そうそう、本当はこの5代目をロングにしてフェラーリ製V12を積む話もあったらしい。見たかったなー、それも。