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FERRARI E-BUILDING
フェラーリにとって初となるBEVを生産
2024年6月21日、イタリア・マラネッロのフェラーリ本社で、内燃機関車、ハイブリッド車、そしてフェラーリ初となるフル電動車(BEV)の新生産工場「e-ビルディング」落成式が開催された。式典にはジョン・エルカーン会長、ピエロ・フェラーリ副会長、ベネデット・ヴィーニャCEOやフェラーリ社員はもちろん、イタリア大統領セルジョ・マッタレッラ氏も駆けつけた。e-ビルディングはフェラーリにとって初のBEV生産という、衝撃的な転換点の象徴となる。
フェラーリの命題は、もちろんテクノロジーとパフォーマンスの差別化、そしてそれによってもたらされるドライビングの興奮の提供だ。e-ビルディングは、それを実現するための戦略的施設というだけでなく、生産の柔軟性を強化するべく建設されたという。最先端のインダストリー4.0テクノロジーを備えた新工場では、内燃エンジン、ハイブリッドパワートレイン、そして電気コンポーネントつまり高電圧バッテリーやeアクスル、電気モーターの生産や開発が行われるという。これらをひとつのプラントに統合することで、マラネッロの既存施設すべての生産をより効率的にし、需要に迅速に対応するのが目的だ。
なお、e-ビルディングは、フェラーリ敷地の北側に建設され、現在も拡張工事中だという。落成式翌週の月曜日からテスト的に稼働を開始し、2025年の第1四半期から本格的に製造が開始されるという。なお記者会見でベネデット・ヴィーニャCEOはバッテリー、eアクスル、電気モーターやフル電動車の生産開始時期について明言しなかった。
夜間は光るランタンを想起
高さ25mの長方形の建物は、景観や周囲の建物と調和する高効率な「外皮」を持つファサードが特徴だという。ファサードと主要内部空間は、MCA(マリオ・クチネッラ・アーキテクツ)社による設計で、オパリンガラスに透明ガラスを散りばめることで、建物の印象的な視覚的質量を減衰させるという。昼間は自然光が建物内に行き渡り、夜間は光るランタンを想起させる外観となると謳う。ファサードを構成する部材は、組み立てとメンテナンス作業を容易にするべく、DfMA(製造性・組立て性を考慮した設計)ロジックに従い設計・製造されたという。
e-ビルディングの落成式に際し、フェラーリのジョン・エルカーン会長は次のように述べて胸を張った。
「新しいe-ビルディングは、マラネッロをフェラーリ・ファミリーの一員であるすべての人々にとって特別な場所であり続けたいという願いから生まれました。ここで働く人々だけでなく、毎年私たちを訪ねてくるファンやオーナーを中心に設計されています」
「私たちは常に、この場所がいかにユニークな場所であるかを誰もが理解できるよう、可能な限り最高級の現代建築で自分たちを取り囲むことを目指してきました。レンゾ・ピアノの風洞、ジャン・ヌーヴェルの自動車組立ライン、フクサスの製品開発センター、そしてフラビオ・マンゾーニ率いるフェラーリ・デザイン・チームの指揮のもと設計されたチェントロ・スティーレなど、世界的に著名な建築家による一連のランドマーク的建築物、私たちの新しいe-ビルディングが加わることになります」
すべて再生可能エネルギーに
最新工場で生産される製品は、フェラーリにとって最先端の環境性能を実現するが、工場そのものも最高レベルのエネルギー性能を達成するべく設計されたという。e-ビルディングの屋根には、3000枚を超える太陽光パネルが設置され、1.3MWもの電力を発電する。年末に予定されているトリジェネレーションプラントの閉鎖に伴い、エネルギー消費量およびガス排出量が劇的に減少し、e-ビルディングで使用されるのは、すべて再生可能エネルギーになるという。これによって、フェラーリの脱炭素化計画が大きく前進するのはいうまでもない。
さらに生産サイクルにおいても、エネルギーはもちろん雨水までも積極的に再利用するという。たとえば、バッテリーおよびモーター試験に使用するエネルギーの60%以上は回生され、他のプロセスに使用される。なお、この敷地は、老朽化した施設を置き換えることで、新たな土地を取得することなく再開発されている。
従業員や周辺への配慮
実はすでに2年前からe-ビルディングの新設ライン担当に選抜された従業員に対して研修コースが始まっているという。これは、新システムや新製品に必要なスキルやプロセスを掘り下げ、電気モーターに関する知識の強化が目的で、さらにフェラーリの伝統であるメカニカル関連のスキルと、エレクトリック関連のスキルの連続性と相乗効果を高めるだけでなく、化学やバッテリー組み立ての生産工程など、多岐にわたる生産能力向上が期待される。
製造工程には、オペレーターの要求に応じて動作を最適化する協働ロボットや、製品や工程のデジタルレプリカを作成するデジタルツインが採用されたという。これらによって、従業員がテクノロジーをその管理下に置き、活用できるという。一方で、プラント内部には、従業員の職場におけるウェルビーイングを改善するさまざまなソリューションも導入されている。その一例として、人間工学に基づいたワークステーション、リラクゼーションエリア、音響的・視覚的快適性、適切な自然光・人工光の混合比などが挙げられるという。
e-ビルディングは、景観においてもフェラーリが中心的な役割を果たすことを示しているという。10万㎡を超える市街地の再開発と道路インフラの再設計によって、都市環境に完璧に統合されるという。事実、敷地内への道路と、街のネットワークに接続された1.5kmの自転車道も建設された。特に道路の設計では、交通の流れをe-ビルディングの物流ハブ周辺に集中させることで、歩行者ルートへの進入を抑制するという。
e-ビルディングデータ
プロジェクト マリオ・クチネッラ・アーキテクツ
工期 2年
現場作業員 350名
総床面積 4万2500㎡
区域 地下:一般システム
1階:車両組み立ておよび物流
中2階:一般システム、オフィス
2階:車両組み立て、エンジンおよびコンポーネント
e-ビルディング勤務の従業員数 300名以上
エネルギー証書 申請中の認証:
LEED(エネルギーおよび環境設計におけるリーダーシップ)、レベル=プラチナ
NZeb(ニアゼロ・エネルギー・ビルディング)
太陽光発電システム 太陽光発電パネル3000枚以上、ピーク電力1.3MW
デジタルインフラ Wi-Fi 6.0、生産情報管理用。
超広帯域無線通信規格の採用により、組み立て中の部品の位置特定および3D表示や、AGV(コンポーネントや車両を運搬する無人搬送車)の衝突防止などを実現。
水処理 雨水の集水、処理および再利用のための200㎥の貯水槽。
余剰流量制御用の1000㎥のラミネートタンク。
緑化エリア 200本の樹木
駐車場 1400台のパーキングスペース(必要台数を大幅に上回る)。従業員が地元の公共駐車場に与える影響を緩和。