電動ハイパーカー「ピニンファリーナ バッティスタ」に試乗

最高出力1900PS超のハイパーEV「ピニンファリーナ バッティスタ」をターンパイク貸切で試乗

この日の試乗会は貸切の箱根ターンパイク。まずは頂上の大観山からスタートし、助手席のインストラクターからコクピットドリルを受けつつ一番下の料金所まで下り、頂上まで試乗した。
この日の試乗会は貸切の箱根ターンパイク。まずは頂上の大観山からスタートし、助手席のインストラクターからコクピットドリルを受けつつ一番下の料金所まで下り、頂上まで試乗した。
アウトモビリ・ピニンファリーナ初のプロダクションモデル「ピニンファリーナ バッティスタ」に試乗した。世界でもっとも有名なカロッツェリアの手がけた美しいスタイリングの中に、最高出力1900PSを超える性能を収めたモンスターマシンである。(GENROQ 2024年8月号より転載・再構成)

AUTOMOBILI PININFARINA BATTISTA CINQUANTACINQUE

創業者の名を冠したハイパーEV

ボディ内側のスイッチを押し、ディヘドラルドアを引き上げ乗車する。
ボディ内側のスイッチを押し、ディヘドラルドアを引き上げ乗車する。

フェラーリ、ランチア、アルファロメオなど世界の名だたる自動車メーカーにデザインを提供してきた1930年創業のカロッツェリア・ピニンファリーナ。その自動車製造部門として2018年に設立されたアウトモビリ・ピニンファリーナにとって、初のプロダクションモデルがフル電動ハイパーカー「ピニンファリーナ バッティスタ」だ。バッティスタは創業者名に由来し、ピニンファリーナのエンブレムをボンネットに掲げる初作に相応しいネーミングだ。

そもそもこのバッティスタ自体が150台の限定モデルなのだが、今回試乗したのは「チンクアンタチンクエ」という限定車で、ボディはブルー・サボイア・グロス、ルーフはビアンコ・セストリというカラーを纏ったスペシャルモデルである。チンクアンタチンクエとはイタリア語で「55」を意味し、かつてバッティスタ・ピニンファリーナが手掛け、愛した名車、1955年型「ランチア・フロリダ」へのオマージュが込められている。

バッティスタは4輪を電気モーターで駆動するAWDで、フロント左右に250kW、リヤ左右に450kWを発揮するモーターを搭載し、システム最高出力は1400kW(1903PS)というこれまでの常識を覆す超高出力を発揮する。0→100km/h加速は1.86秒で、加速度は1.5Gになる。この辺りのスペックは、基本コンポーネントを共用する「リマック ネヴェーラ」とほぼ同値となる。そんな規格外のモンスターBEVを貸切の箱根ターンパイクで試乗し、実力の一端に触れた。

シンメトリーなコクピット

2021年のコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステでデザイン賞を受賞した流麗なエクステリアは美しい。見惚れているとドアノブが見つからないが、マクラーレンのダブルスキンドアと同じく、ボディ内側に発見したボタンを押して、ドアを引き上げ乗車する。

コクピットはドライバーを中心に左右対称にレイアウトされ、左ハンドルの場合、車両中央側にドライブモードのセレクターダイヤルが、ドア側に走行モード変更ダイヤルが備わる。この走行モードが、クルマの性格を大きく変えるのだが、詳しくは後述する。シートをはじめ、インテリアはビスポークのエイジドレザーが特徴的だ。前述のとおり、今回試乗したチンクアンタチンクエという限定車の特別装備となる。リヤには同じくエイジドレザーでラゲッジにぴたりと収まるバッグも装備されていた。

ドライバーの目の前に3枚のディスプレイが配置される。ディスプレイと同様に操作系もシンメトリーである。ドライバーが知るべき情報、車速やドライビングモード、走行モードは中央の小さなディスプレイに表示される。左側のタッチディスプレイに車両のダイナミクスとパフォーマンス制御状態が、右側のタッチディスプレイにインフォテインメントとナビゲーションシステムが表示される。

左のタッチディスプレイでステアリング位置もチルトとテレスコピックを細かく調整する。だがオーナーは一旦設定すればメモリー機能を有効活用できるので心配不要だ。ミラー調整やウインドウ開閉は一転して物理スイッチを使用している。

走行モードで大きく変わるクルマの性格

先述の走行モードは5種用意され、そのモードに従ってサスペンションセッティングと出力およびトルクが変わる。カルマ(680PS、1170Nm)、プーラ(1013PS、1380Nm)、エネルジカ(1496PS、1840Nm)、フュリオサ(1903PS、2340Nm)、カラッテレは、順にノーマル、スポーツ、スポーツ+、レース、インディビジュアルといった位置付けだろうか。最高速もそれに応じて変化し、カルマで200km/h、プーラで280km/h、エネルジカ以上で350km/hとなる。なお、今回の試乗はほぼフュリオサで走行した。

リチウムイオンバッテリーはキャビン後方に幅広くレイアウトされ、そこから前方センタートンネルに伸びるT字型となる。さらに乗員足元の床にも張り出しているのでH字型といってもいいかもしれない。BEVが重量級なのはたいていバッテリーが原因だが、その重量増がハンドリング面でマイナスに働かないどころかプラスになる場合もあるのが面白い。このバッティスタもカーボンケースで覆われたバッテリー自体が車体の剛性を高め、重心を低めている。なおバッテリーの電力量は120kWhで航続可能距離は476km(WLTP)を謳う。22kWの普通充電か270kWの急速充電が可能だ。

この日の試乗会は貸切の箱根ターンパイクだ。まずは頂上の大観山からスタートし、助手席のインストラクターからコクピットドリルを受けつつ一番下の料金所まで下り、頂上まで試乗する。走り出してすぐ、ただならぬスポーツカーだとわかる。ハンドリングの正確性が尋常ではない。そして見た目の期待通りに低重心でロールが少ない。ロック・トゥ・ロックは低速時2回転とクイックだが、ステアリングフィール自体はごく自然で、底知れぬグリップ感が伝わってくる。貸切とはいえ、一般道では到底その真の実力を垣間見ることはできない予感がした。

軽量鍛造アルミホイールに組み合わされるタイヤは、強烈なグリップを発揮するミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2Rで、これが標準装備となる。ハネ石の音がまるでレーシングカーのようにダイレクトに伝わってきて、遮音材のない競技車のようだ。ちなみに望めばパイロットスポーツ4Sも注文可能だという。

一瞬で尋常ならざる速度に

バッティスタは、走るごとに徐々にクルマが運転者の運転を学習し、制御を最適化することで運転しやすくなるという学習機能を備える。
バッティスタは、走るごとに徐々にクルマが運転者の運転を学習し、制御を最適化することで運転しやすくなるという学習機能を備える。

フル電動車の特徴である回生ブレーキは個別に調整可能で、市街地を想定したプーラ以下では0.3G程度で減速するワンペダルドライブが可能となっている。一方のエネルジカ以上では、ブレーキのフィールを活かすため回生は弱めになる。物理的なブレーキもブレンボ製カーボンセラミックブレーキを採用し、回生エネルギーとエアロブレーキとの組み合わせで高い制動力を実現した。今回はフルブレーキを試すことはできなかったが、100km/hからの制動距離は31mという短さだ。992型の911GT3が29mだから、120kWhというバッテリー電力量から車両重量は少なくとも2t以上あるだろうことを考えれば驚異的な制動力である。

助手席のインストラクターに促され、料金所から急な登りに向けて全開加速を体感する。これまで経験したことのない強烈な加速は電動故に無音でもたらされる。しかし130km/hを超えるあたりから風切り音がして、気がつくと尋常ならざる速度に達していることを教えてくれる。頑強なカーボン製シャシーは、高速でワインディングを駆け上がっていっても、いっさいインテリアの低級音がしないことから高い剛性を持っているのがわかる。

EVに乗って驚かされるのは、ひと転がりごとを緻密にコントロールするような高い制御力だ。その効能のひとつにトルクベクタリングがある。4輪のトルクを別々に制御し、走行中にグリップ、車速、舵角、ヨーに応じてトルクを配分する。前述のエネルジカモード以上を選択すると、さらによく曲がるようになる。

ターンパイクの下にある料金所から大観山まで6分かからなかった。これは平均時速に直すと約140km/hほどだ。こういう速度域では戦艦の大砲を撃つような迫力に圧倒されるばかりで、クルマの日常的な性能を測ることはできない。だが、そういうエクストリームな領域で賞味10分余り試乗した後の感想は、比較する基準がない、宇宙船を飛ばしたような、というのが率直な印象だ。コーナリング含む運転感覚にも驚いたが、それ以上に感銘を受けたのは不思議と疲れないことだ。これはバッティスタに備わる学習機能の賜物かもしれない。走るごとに、徐々にクルマが運転者の運転を学習し、制御を最適化することで運転しやすくなるという。

エンジンサウンドがないことで

バッティスタは、電動化が低重心で美しい高性能車を作れると証明してみせた。
バッティスタは、電動化が低重心で美しい高性能車を作れると証明してみせた。

ところで試乗冒頭に無音で加速すると書いたが、走行中にサウンドは気にならなかった。むしろ疲れないのは、激しいエンジンサウンドにさらされなかったことも理由のひとつであるようにさえ思った。そして、自分でも意外だが、この領域だとサウンドはどうでも良いとさえ思った。

バッティスタは車内12スピーカー、車外2スピーカーを備え、エンジン風サウンドを、走行状況に応じて車内あるいは車外に向けて音を発する。そもそも「トヨタ プリウス」のような普通のハイブリッド車も、電動低速走行時は歩行者に警告するために音を発しなければならない。その仕組みを利用して、加速に応じてもサウンドが変化する。カルマとプーラでもサウンドは若干あるが、エネルジカ以上で激しくなる。フュリオサモードでは、ドライバーの高揚感をもたらすためか、停車時に車内音も車外に発する音も変わる。

ともあれ、桁外れの性能は、近年電動化がもたらす新価値を考えるきっかけになった。バッティスタは、電動化が低重心で美しい高性能車を作れると証明してみせた。それも1900PS超という途轍も無いレベルでだ。価格は220万ユーロからとされ、欧州では1年半前から納車が始まっており、間も無く日本でも始まるという。

REPORT/吉岡卓朗(Takuro YOSHIOKA)
PHOTO/篠原晃一(SHINOHARA Koichi)、アウトモビリ・ピニンファリーナ・ジャパン
MAGAZINE/GENROQ 2024年8月号

SPECIFICATIONS

アウトモビリ・ピニンファリーナ バッティスタ

ボディサイズ:全長4912 全幅2240 全高1214mm
ホイールベース:2745mm
モーターシステム最高出力:1400kW(1903PS)
モーターシステム最大トルク:2340Nm(238.8kgm)
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/35ZR20 後325/30ZR21
最高速度:350km/h超
0→100km/h加速:1.86秒
車両本体価格:220万ユーロから

アウトモビリ・ピニンファリーナが日本市場に正式参入、「バッティスタ チンクアンタチンクエ」と「B95」を日本初公開した。

アウトモビリ・ピニンファリーナのハイパーEV「バッティスタ チンクアンタチンクエ」東京で初公開

アウトモビリ・ピニンファリーナは、アジア市場重視の姿勢をアピールすべく、東京のイタリア大使館において、日本のオーナーからオーダーを受けて製作されたスペシャルモデル「バッティスタ チンクアンタチンクエ」を公開。併せて、10台限定のフル電動バルケッタ「B95」も日本初披露されている。

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著者プロフィール

吉岡卓朗 近影

吉岡卓朗

Takuro Yoshioka。大学卒業後、損害保険会社に就職するも学生時代から好きだったクルマのメディアに関わり…