夢の新旧「ランボルギーニ カウンタック」同時取材

新旧「ランボルギーニ カウンタック」の同時取材で発見したV型12気筒パワートレインにまつわる秘密

ランボルギーニのフラッグシップは常にV型12気筒が搭載されていた。その象徴的存在が初めてミッドに縦置き搭載されたカウンタックであることに異論を挟む余地はないだろう。今も色褪せない初代と、約50年を経て復活した2代目とのコラボレーションが実現した。
カウンタックLP5000SとLPI800-4。いずれも超貴重なクルマだけに、このように並べて見られる機会はめったにない。
ランボルギーニのフラッグシップは常にV型12気筒が搭載されていた。その象徴的存在が初めてミッドに縦置き搭載されたカウンタックであることに異論を挟む余地はないだろう。今も色褪せない初代と、約50年を経て復活した2代目とのコラボレーションが実現した。(GENROQ 2024年9月号より転載・再構成)

Lamborghini Countach LP5000S[1984]/Countach LPI800-4[2022]

V型12気筒をミッドに縦置きしたカウンタック

1974年のデビュー当初は4.0リッターだった初代カウンタックのV型12気筒は、82年登場の5000Sでは4.8リッターとなった。ウェーバー製キャブレターを6連装し、パワーは375PS、トルクは418Nmだ。
1974年のデビュー当初は4.0リッターだった初代カウンタックのV型12気筒は、1982年登場の5000Sでは4.8リッターとなった。ウェーバー製キャブレターを6連装し、パワーは375PS、トルクは418Nmだ。

12気筒、という言葉の響きにクルマ好きは本当に弱い。12気筒が搭載されている、というだけで無条件にひれ伏してしまうのだから我ながら単純だとは思うが、それほどに「最高峰スーパーカー=12気筒」という図式は、少なくとも昭和時代を経験したクルマ好きの深層心理に刷り込まれている。

その醸成に大いなる貢献を果たしたのが「ランボルギーニ カウンタック」だ。スーパーカー史に燦然と輝く金字塔であるこのクルマの最大のトピックは、V型12気筒をミッドに縦置きしたことだろう。ただでさえ長い12気筒を縦に置いてさらにトランスミッションを繋げるとホイールベースが長くなって旋回性能が悪化してしまう。それを避けるためにカウンタックはトランスミッションをエンジンの前側に搭載するという逆転の発想を用いた。トランスミッションを経た駆動力は180度反転させてリヤタイヤに伝えるという複雑な機構が必要となったが、その結果1974年に発売されたカウンタックのホイールベースはわずか2450mm、全長は4140mmしかなかった。衝突安全などの要件が現代とは比較にならないほど緩かったとはいえ、12気筒エンジンを縦置きしながらこれほどコンパクトなボディを実現したのは驚異的だ。

その前衛的なスタイルゆえ、デザインの素晴らしさばかりが語られることが多いカウンタックだが、その内実は12気筒のミッドシップスポーツカーとしての理想的な運動性能を得るために、極めて真面目なエンジニアリングが追求されていたのである。

ランボルギーニの象徴となった前後逆転V12気筒

12気筒ミッドシップスーパーカーの理想的パッケージを実現したランボルギーニは、それ以降のフラッグシップモデルにも12気筒ミッド逆転縦置きのレイアウトを継承した。ディアブロ、アウディ傘下になってから登場したムルシエラゴ、そして2011年に登場したアヴェンタドールもエンジンの前、センターコンソールの部分にトランスミッションを置いていた。AWD化にあたってフロントへの駆動力を取り出しやすいというメリットもあったが、スペース的にDCTが採用できないなどのデメリットもあった。それでもランボルギーニのV型12気筒ミッドシップマシンが何ともいえぬ凝縮感のある雰囲気を醸していたのは、この逆転レイアウトの恩恵だろう。気がつけば、ランボルギーニ以外でV型12気筒をミッドシップするモデルをカタログにラインナップするのは、ほぼ手作業でクルマを造るごく小規模ブランドだけとなってしまった。

初代の雰囲気を見事に再現した新型カウンタック

ランボルギーニのフラッグシップは常にV型12気筒が搭載されていた。その象徴的存在が初めてミッドに縦置き搭載されたカウンタックであることに異論を挟む余地はないだろう。今も色褪せない初代と、約50年を経て復活した2代目とのコラボレーションが実現した。
新型カウンタックは2021年に台数限定で発売された。V型12気筒にモーターを加えたマイルドハイブリッドだ。

そのカウンタックが突然復活したのは2021年、“先代”カウンタックの試作車が世に出てから50年という年だった。驚いたのは、それがどこからどう見てもカウンタックであったこと。こうやって初代LP5000Sと並べて見ても、大きさの違いこそあれ2代目LPI800-4は確かにカウンタックだ。フロントノーズのライト周りの雰囲気、ボディサイドのエアインテーク、六角形のテールライトパネル周りなどなど、限られた条件でここまで初代を再現できたのは、ミーティア・ボルケート率いるランボルギーニ・チェントロ・スティーレの手腕だろう。そしてその心臓部はもちろん、V型12気筒を前後逆転して縦置きしている。それでなければ、カウンタックのフォルムを現代に蘇らせることはできなかったはずだ

カウンタックLP5000Sを所有する正規ディーラー・ランボルギーニ福岡のご厚意により、この貴重な初代カウンタックのステアリングを握らせて頂くことができた。サイドシルの幅が広いため、いったんそこに腰かけて身体をシートに潜り込ませる。ホワイトのレザーに靴を擦らないように注意しながら着座すると、室内はまさにコクピットという雰囲気。トランスミッションを内包するセンタートンネルは幅広く、サイドウインドウが内側に倒れ込んでいるため左右方向はややタイト。しかし低く下がったフロント方向はかなり開けており、外観から想像するよりもずっと“まとも”な運転空間だ。

ステアフィールの素晴らしさに感動

6.5リッターのV型12気筒は8500rpmで780PSを発揮する。パワートレインはシアンと共通で、34PSのモーターも搭載される。
6.5リッターのV型12気筒は8500rpmで780PSを発揮する。パワートレインはシアンと共通で、34PSのモーターも搭載される。

キーをONにして、スロットルを少し踏み込みながらさらにキーを捻ると少しのクランキングの後に4.8リッターV型12気筒に火が入った。感慨に浸る余裕はなく、重めのクラッチを踏んでギヤを左手前のローに入れて走り出す。現代のクルマと違い、エンジン回転の上昇はやや重めだが、ボディが軽いこともあって加速は実に力強い。シフトアップしてさらに加速すると、V型12気筒サウンドが身体を包む。ウェーバーの吸気音やカム、ピストン、クランクシャフトが奏でるハーモニーは、作られた音ではなく野生味タップリだ。一般道での限られた試乗であったためにあまり高回転までは回せなかったが、重厚かつシルキーなフィールは良き時代のV型12気筒の味わいを教えてくれる。

そして感動したのはステアフィールの素晴らしさだ。クイックだとかいうよりも、クルマを意のままにコントロールできる感覚。おそらくそれはペダルの位置がほぼフロントタイヤの真横にあるからではないか。自分の足先でフロントタイヤの動きを感じることができるので、まるでゴーカートのようにクルマの動きを把握するのが容易なのだ。これも初代カウンタックの超コンパクト設計がもたらす恩恵のひとつだろう。

受け継がれたカウンタックの魂

技術が進歩し、もはや12気筒にこだわる必要はない、と言われるようになったのはもう随分前のことだ。それでもランボルギーニは12気筒をラインナップから外すことはしなかった。スーパーカーはレーシングマシンとは違う。そこには青臭い言い方をすれば夢とロマン、効率だけでは決して割り切れない何かが必要なのだ。

ともあれ、ランボルギーニの前後逆転V型12気筒ミッドシップは、カウンタックに始まりカウンタックで終わることになったわけだ。これもひとつのロマンではないか。

ランボルギーニのフラッグシップは常にV型12気筒が搭載されていた。その象徴的存在が初めてミッドに縦置き搭載されたカウンタックであることに異論を挟む余地はないだろう。今も色褪せない初代と、約50年を経て復活した2代目とのコラボレーションが実現した。
並べてみると、初代カウンタックの小ささ、特に全長の短さに驚く。

REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/西野キヨシ(Kiyoshi NISHINO)
COOPERATION/ランボルギーニ福岡
MAGAZINE/GENROQ 2024年9月号

SPECIFICATIONS

ランボルギーニ・カウンタックLP5000S

ボディサイズ:全長4140 全幅1995 全高1029mm
ホイールベース:2443mm
乾燥重量:1100kg
エンジンタイプ:V型12気筒DOHC
排気量:4754cc
最高出力:276kW(375PS)/7000rpm
最大トルク:418Nm(42.6kgm)/4500rpm
トランスミッション:5速MT
駆動方式 RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前205/50VR15 後345/35VR15
最高速度:300km/h

ランボルギーニ・カウンタックLPI800-4

ボディサイズ:全長4870 全幅2099 全高1139mm
ホイールベース:2700mm
乾燥重量:1595kg
エンジンタイプ:V型12気筒DOHC
排気量:6498cc
最高出力:574kW(780PS)/8500rpm
最大トルク:720Nm(73.4kgm)/6750rpm
モーター最高出力:25kW(34PS)
モーター最大トルク:35Nm(3.6kgm)
トランスミッション:7速AMT
駆動方式 AWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前255/30ZR20 後355/25ZR21
0-100km/h加速:2.8秒
最高速度:355km/h

【取材協力】
株式会社アール・ピー・エム ランボルギーニ福岡
〒813-0062
福岡県福岡市東区松島3-30-30
TEL 092-623-0400

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『GENROQ 9月号』は編集長・永田の趣味が炸裂した多気筒エンジンを特集。日本に初上陸したスーパースポーツ、ランボルギーニ・レヴエルトを富士スピードウェイ初試乗、V16を搭載する1800PSのブガッティ・トゥールビヨン、12気筒という名を冠するフェラーリ12チリンドリのデザイン探求など、多気筒エンジンを愛する編集長の思いが詰まった1冊です。

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新時代を迎えたランボルギーニがもたらした5つの革新的なクルマと技術と崇高な思想を振り返る

レヴエルトやウラカン後継モデルなど、電動化を積極的に推し進め、新時代を迎えようとしているアウトモビリ・ランボルギーニ。その60年あまりの歴史には、革新的な新技術を導入した様々なモデルが存在する。ランボルギーニが自動車界に吹き込んだ新たな風を5つ紹介する。

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著者プロフィール

永田元輔 近影

永田元輔

『GENROQ』編集長。古典的ジャイアンツファン。卵焼きが好き。愛車は993型ポルシェ911。カメラはキヤノン。