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Porsche 911[Type992II]
ハイブリッド搭載は911カレラGTSから
「911」といえば、これまでベースのカレラやカレラSが発表され、順を追ってGTSやターボ、GT3といった役物が追加されるのが通例だった。しかし、992の後期型、通称992IIはベースのカレラとGTSを同時に発表する異例の幕開けとなった。それはGTSに911初のハイブリッドシステムを搭載したためだ。では、なぜGTSからハイブリッドになったのか。ハイブリッド化するにあたり、最大のネックはやはり重量だったようだ。車両重量1600kgを切ることをひとつの開発目標としていたという。最終的に新型カレラGTSクーペのカタログ値の空車重量(DIN)は1595kgと従来モデルに比べて約50kg増となっている。
ちなみにこのハイブリッドシステムの名称は、カイエンやパナメーラが使用している「e-hybrid」と差別化されており「t-hybrid」となっている。「t」とはターボの意というから、エコであることよりパワーを付加するものと捉えられる。マーケティング担当者によると、GTSは“カレラ”シリーズにおけるトップパフォーマンスモデルという役割であり、地域によってはカレラSよりも売れるビジネスにおいても重要な意味をもつ独立した存在になっているという。GTSは遅れてくる高性能バージョンではなく、911のハイブリッド化の急先鋒として位置づけられているというわけだ。
EV走行のないマイルドハイブリッド
新しくなったGTSは、フロントバンパーの左右に5本ずつ配された縦長のフラップによってすぐに識別できる。内部にもうひとつ別のフラップが備わっており、高速巡航時など必要なパワーが最小限の場合は、フラップを閉めて空気抵抗を最適化し燃費を稼ぐ。サーキット走行など冷却効果を高める必要があるシーンではフラップを開き、ラジエーターに空気を送り込むなど運転状況、外気温などに応じて自動制御される。また従来エアインテーク上部にあったドライビングライトがなくなりすっきりとした顔つきになった。その機能は新しくなったマトリクスLEDヘッドライトにビルトインされている。
注目のハイブリッドシステムは電動走行はしない、いわゆるマイルドハイブリッドだ。心臓部となるエンジンは前期型の3.0リッターに換えて、新開発した3.6リッターを搭載。これにタービンの軸部分に電気モーターが組み込まれた電動ターボチャージャー、そしてPDKのケースに組み込まれた永久磁石同期モーター、400Vの電圧で作動し、最大1.9kWhの電力を蓄える駆動用のリチウムイオンバッテリーを組み合わせる。システムの合計出力は541PS、合計トルクは610Nmとなり、先代比で61PSアップしている。
インテリアのデザインは前期型とほぼ変わらない。これまでメーターパネルの中央に残されていたアナログメーターがなくなりフルデジタルメーターになった。従来は伝統の5連メーターの表示にすると左右の端にあるメーターがステアリングにけられる欠点があったが、それが解消された。また911の伝統であるノブをひねってエンジンを始動する儀式がなくなり、一般的なスタート/ストップボタン式になった。
恐ろしくシームレスでスムーズ
まずは公道で「タルガ 4 GTS」に試乗した。アクセルペダルをゆっくりと踏みこむと低速域から滑らかに加速する。さり気なく、でもしっかりとモーターのアシストがきいているようだ。中央のメーターをよく見ると回生時にはグリーンの、アシスト時にはブルーのバーの表示が伸びる仕組みになっている。基本的に日常走行ではアイドルから3000rpmくらいまではアシストするも、それ以上の領域では回生に重点を置くようだ。したがってメーター内のグリーンとブルーの表示が頻繁に動く。
足まわりは車高を10mm下げたスポーツサスペンションと可変ダンパーシステム(PASM)で、リヤタイヤを305から315へと拡幅し、新たなタイヤ(グッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツR)に合わせて最適化したというが、思いのほかしなやかな乗り心地で驚いた。向かうは会員制サーキットとして名高いアスカリレースリゾート。全長5.5kmの本格コースだ。ここではクーペボディの「カレラ GTS」と4WDの「カレラ 4 GTS」を比較する。GTSは、この新型から四輪操舵のリヤアクスルステアが標準装備に。さらにオプションのポルシェダイナミックシャシーコントロール(PDCC)も装備していた。
電動化の恩恵もあり、わずかなアクセルペダルの操作に瞬時に反応してくれる。4000rpmを超えたあたりから野太いエキゾーストノートが聞こえてくる。ハイブリッドシステムもスポーツプラスモードで全開走行を続けるようなシーンでは、最大のアシストをしてくれる。
回頭性は極めて高く、わずかにステアリングを切り込むだけで向きが変わる。PDCCをオンにしておけばロールも少なく、ニュートラルにコーナーを曲がっていく。RWDとAWDの挙動の違いもほぼなく、コーナーから立ち上がりの際にフロントタイヤに力強い駆動力を感じるくらい。さらに右足に力を込めると7000rpmあたりまで淀みなく吹け上がる。ハイブリッドとも、ターボとも言われなければわからないほど、シームレスでスムーズだ。
一方のカレラは明らかに軽さを感じる。わずか9PSのアップというが、明らかに低速域でのツキがよくPDKのマナーも向上していた。ブーストアップで対応?と聞けば、タービンは従来のGTS用に、インタークーラーはターボ用に変えてあるという。さすがはポルシェの仕事だ。
REPORT/藤野太一(Taichi FUJINO)
PHOTO/PORSCHE AG.
MAGAZINE/GENROQ 2024年9月号
SPECIFICATIONS
ポルシェ911カレラ
ボディサイズ:全長4542 全幅1852 全高─mm
ホイールベース:2450mm
乾燥重量:1520kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHCツインターボ
排気量:2981
最高出力:290kW(394PS)/7500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/─rpm
モーター出力:─
システム出力:─
システムトルク:─
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:─
0-100km/h加速:4.1秒
最高速度:295km/h
車両本体価格:1694万円
ポルシェ911カレラGTS
ボディサイズ:全長4553 全幅1852 全高─mm
ホイールベース:2450mm
乾燥重量:1595kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHCターボ
排気量:3591
最高出力:357kW(485PS)/7500rpm
最大トルク:570Nm(58.1kgm)/─rpm
モーター出力:41kW(55.7PS)
システム出力:398kW(541PS)
システムトルク:610Nm(62.2kgm)
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前245/35ZR20 後315/30ZR21
0-100km/h加速:3.0秒
最高速度:312km/h
車両本体価格:2254万円
【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/