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Ferrari Purosangue Japan Grand Tour
天候に左右されないフェラーリ
光陰矢の如し、などと厳しく言わなくても、時間が経つのは早いとみんな常々思っている。まったく50を超えてからというものの、1日1日どころか、1ヵ月、いや1年さえも飛びゆく矢のようだ。
ちょうど1ヵ月前、私はプロサングエで京都から東京まで、金沢や長野を経由する約1000kmのグランドツーリングを楽しんだのだが、今こうして原稿にしたためようと思い出せば、随分前のような気がしてならない。それでもハンドルを握る感触から訪れた先々での感動を昨日のことのように思い浮かべることができるのは、やっぱりプロサングエが優秀なGTカーであったからに他ならない。
スタートは京都。早朝、私だけ青いプロサングエで北野天満宮に向かい、境内にて旅の安全を祈念する。あいにくの雨模様も、いつもの背の低い跳ね馬でないことをかえって喜んでみる。そう、天候に左右されないフェラーリは貴重だ。
たなびく素敵なV12サウンド
しかも12気筒を積んでいる。京の街中から大原を抜け途中から琵琶湖岸に出るという、晴れていれば新緑の美しい道もまずまずの雨がけぶって景色を楽しむどころではなかったけれど、たなびく素敵なV12サウンドと、悪コンディションをものともしない意のままのハンドリングがドライバーの心を大いに救ってくれたのだった。
それでも降り頻る雨に心も湿る。そんなドライバーたちを救ってくれたのが、初日の昼に立ち寄った素晴らしいレストラン「SOWER」だった。世界のグルマンたちがこぞって目指すスウェーデンの名店「noma」のDNAを受け継ぐシェフがこの地に魅せられ料理長として腕をふるう。地元の食材にこだわり、発酵や熟成、出汁といった和の手法に“薪焼き”も駆使する。料理の構成やプレゼンテーションは実に革新的で、プロサングエと同様に対立する二項、内と外や旧と新など、の融合があった。もちろん、実に旨い。
金沢に着く頃には雨もようやくやんで遠くの空に晴れ間も見えた。明日からはなんとか天気も良さそうだ。
スタッフの機転で西湖へ
2日目。砂浜の道を楽しんでから金沢を出て、まずは白川郷を目指す。茅葺の家々が立ち並ぶ風景は我々日本人にとっても里山の原風景を思い出させる貴重な機会だけれども、この村もまた昔のままのようで新たな知恵と工夫を注ぎながら維持されていることを知る。時代の変化に適応しながら古き良き伝統を残すという、地域に住まう人々の情熱を感じた。12気筒エンジンと同じだ。
白川郷から飛騨高山、そして信州は松本へと抜ける山間のワインディングロードで、スポーツカーのように振る舞うプロサングエを目一杯楽しんだ。完全フロントミドシップという重量バランスが、そして驚異のサスペンションシステムが、背の高いプロサングエをして812のように走らせる。
その日の宿は扉温泉の明神館。グルマンが目指す温泉ホテルとして人気の宿だ。ルレ・シャトー会員というだけあって、地元の食材を活かしつつ、和のテイストも取り入れたフランス料理のプレゼンテーションもまた伝統と革新の見事な融合であった。
3日目は晴れ渡ったビーナスラインのドライブで始まった。この日から海外ジャーナリストも交えてのツアーである。富士山の遠望に喜ぶ彼らの様子が微笑ましい。
山坂道を存分に楽しんで諏訪に降りた。諏訪大社で再び安全祈願。そして一行は富士山の麓、富士五湖を目指す。そこで奇跡が起きた。
実は富士山が近づくにつれて雲行きが怪しくなり、河口湖に着いた頃にはすっかり雲隠れ。海外勢も意気消沈することしきり、だったのだが、スタッフの機転で西湖に向かえば、なんと雲が途切れ、雄大な夏の富士が湖上の向こうに聳え立った。マウントフジ・オン・ザ・ウォーター。
みんなクルマが好き
4日目も再び暁光に恵まれる。芦ノ湖湖畔から大観山を目指し、富士山を望む有名なスポットに到着すれば、スーッと雲がひいた。スタティックの撮影あり、ユーチューバーの動画あり、それぞれが取材をこなし皆が箱根ターンパイクを楽しみに出かけたとたん、富士山はまた雲の向こうに見えなくなった。
湯河原パークウェイを降り、江之浦測候所へ。個人的にも初めて訪れた場所だったが、単なるアート展示というよりも、海原のパノラマを含む自然を生かしたプレゼンテーションに感動することしきり。訪れてみる価値あり。時間の関係でとても駆け足の訪問になったのがかえすがえす残念で、また伺おうと心に決める。中国からのジャーナリストが最後までこの場所を気に入って取材していたのが印象的だった。
アニメ文化で混み合う湘南海岸を抜け、いよいよゴールが近づいた。東京到着の前に海外勢が特にご執心の大黒パーキングエリアへ。それまで取材場所には好みの差のあった各国のジャーナリストたち(ドイツ、オーストラリア、韓国、中国)も、ここでは一様にはしゃいでいる。みんなクルマが好きなのだ。そしてここは今や日本におけるクルマ好きの聖地のひとつとして、世界が認めている場所でもあった。