最高出力864PSのマニュアルリヤミッドスーパーカー「パガーニ ウトピア」に試乗

“最高出力864PS”“車重1280kg”の“◯億円”マニュアルリヤミッドスーパーカー「パガーニ ウトピア」に試乗

クルマと言うよりもアートと呼ぶ方がふさわしい。パガーニ最新作であるウトピアに試乗した。
クルマと言うよりもアートと呼ぶ方がふさわしい。パガーニ最新作であるウトピアに試乗した。
今、最も美しいスーパースポーツカーといえば、パガーニの名を挙げる人は多いだろう。創業者、オラチオ・パガーニの美学が生み出す作品はもはやクルマと言うよりもアートと呼ぶ方がふさわしい。彼らのこだわりを知るために、イタリア・モデナにあるファクトリーを訪ねた。最新作であるウトピアの初試乗やファクトリーを見ることで、走る芸術作品に込められたこだわりの一端を理解することができるかもしれない。(GENROQ 2024年11月号より転載・再構成)

Pagani Utopia

あきらめてかけていた夢が実現

ミラーやライトなどのパーツ類にもパガーニのデザインと美へのこだわりが見える。
ミラーやライトなどのパーツ類にもパガーニのデザインと美へのこだわりが見える。

864PSの3ペダルマニュアル。リヤミッドの後輪駆動。パガーニ。乗り込もうとするドライバーをこれほどビビらせるフレーズは他にないだろう。

パガーニの経験はある。ゾンダ、ウアイラ、日本のジャーナリストとしては豊富な方だろう。ゾンダは3ペダルだったが、最後のゾンダFで650PSだった。しかも自然吸気。ウアイラからメルセデスAMG製V12には二丁のターボチャージャーが組み合わされて730PSとなったけれど、2ペダル・シングルクラッチミッションだ。

ウトピアはツインターボで864PS、車重はなんとゾンダ時代に舞い戻って1280kg。そんなスペックの、しかもン億円のリヤミッドスーパーカーをマニュアルギヤボックスで操ることができるなんて! あきらめてかけていた夢が実現したようで嬉しい反面、冒頭で述べたように、大いにビビってもいたのだった。

望外にシックな装いのキャビンに滑り込み、ディテールまでこだわり抜いた景色を眺めていると不思議にも落ち着いてきた。デザインの妙だろう。シフトレバーの感触を楽しむ。クラッチペダルを踏んでみる。どうやら扱いづらさはなさそうだ。

開発テーマはマシンとのエンゲージメント

メルセデスAMG製の6.0リッターV12ツインターボエンジンはもちろん、なんの躊躇いもなくクランキングも軽やかに目覚めた。勇ましいエキゾーストとメカニカルノイズに包まれるけれど耳をつんざくというほどではない。ドライバーを鼓舞するギリギリのところで調教されている。

アイドリングのままクラッチミートさせ、ゆっくりと走り出した。まずはその乗り心地の良さが印象的だった。ゾンダ、ウアイラよりもコンフォートネスは確実に上がっている。しかもすべての動きがダイレクト。車体が一層引き締まっているのだ。なるほどウトピア最大の開発テーマがマシンとのエンゲージメントであったことを、タウンスピードで早速理解することができた。

マラネッロの試乗会で走り慣れたオープンロードでスロットルを開けてみる。身がギュッと引き締まったかと思うと、V12エンジンの咆哮が後頭部あたりを直撃した。同時に振動が腰を、機会的なノイズが脳みそを大いに刺激する。スロットルの開放に対する車体の反応はダイレクトこの上なく、加速はスペック以上に圧倒的だ。

ときおりパンダや小型トラック、トラクターなどとすれ違う狭めのワインディングをペースをほとんど緩めることなく攻め続ける。車幅感覚が掴みやすいうえ、タイヤの位置もわかりやすい。タイトなコーナーではフロントアクスルが上半身と一体に動くという感覚があった。フロントの二輪を両腕で抱え込んで動かしている、とでも言おうか。それゆえ、狙ったラインに前輪を置くことがいとも容易い。タイトヴェントだけじゃない。ある程度、速いコーナーでもその感覚は変わらない。

ギヤチェンジは至ってスムーズだ。クラッチペダルの重さはリーズナブルにとどめられ、左足を疲れさせる風ではない。スロットルは適度に重く、コントロールしやすい。

スパルタンでありつつ、とびきりラグジュアリー

最高だったのは減速フィールだ。身体がスーッと沈む。前輪の状態が両腕に、後輪が腰に、それぞれよく伝わってくる。自信を持って走り続けることができるのだ。

そんなわけだから多少後輪が滑ったとしても焦ることはまったくない。乗る前の緊張はどこへやら、あっという間に身体がクルマに馴染んでいた。

約束のテスト時間を終えてクルマを停めた。ディヘドラルドアを上げて地面へと降り立てば、背中がぐっしょりと濡れている。空調は万全だった。それは興奮と感動の汗だ。最新のスーパーカーでは、たとえ12気筒モデルであっても、なかなかに得難い経験であろう。パガーニはこのうえなくエモーショナルなのだ。

ウトピアの開発コンセプトは、その豪華絢爛な見栄えとは裏腹に、シンプルで軽くドライビングファンに満ちていること、と、スポーツカーにとってはこれ以上なく明快でシンプルなものだ。それだけ聞けばマツダ・ロードスターと同じ世界観である。

そもそもパガーニ製ハイパーカーのコンセプトがそうなのだ。ゾンダも、そしてウアイラも、レーシングカーと同様に高価で軽量な素材を惜しみなく活用したスパルタンなマシンでありつつも、見栄え質感にディテールまでこだわることでとびきりラグジュアリーに仕立てあげられた、まさに“走る宝石”だった。ウトピアはその“進化版”である。

パワーウエイトレシオは脅威の1.5kg/PS

私が到着したとき、テスト車両は今やマラネッロやサンターガタと並ぶ人気の観光スポットとなったミュージアムの裏側にあった。シャンパンゴールドの車体にグッドウッド用のマットグリーンフィルムを貼ったままだ。足元にはスポーツパッケージの象徴であるカーボンリムとパガーニ専用開発のPゼロ・トロフェオRSが奢られている。この仕様で公道を走る世界最初のジャーナリストだと言われ、さらに緊張感が増したものだった。

車内を覗けばメタリックに輝くスティックシフトが一際の存在感を伴って屹立している。3ペダルマニュアルトランスミッションを復活させたのは、スペックやラップタイムを競うよりも、マシンとのより多くの対話を望む大勢のカスタマーの要望を聞き入れた結果である。

キャビンの背後にはメルセデスAMGがパガーニ用に再設計し、今なお生産する6.0リッターV12ツインターボが収まっている。最高出力864PS、最大トルク1100Nmという数値そのものを見ただけでは、2000PSさえ登場する昨今のハイパーカー界においてはいささか物足りなく思えるかもしれない。けれども思い出してほしい。2022年に登場したウトピアのドライ車重は、99年のゾンダと全く同じわずか1280kgなのだ。装備がこれだけ充実したというのに! パワーウエイトレシオは脅威の1.5kg/PSである。

12気筒エンジンこそパガーニの命

今、最も美しいスーパースポーツカーといえば、パガーニの名を挙げる人は多いだろう。創業者、オラチオ・パガーニの美学が生み出す作品はもはやクルマと言うよりもアートと呼ぶ方がふさわしい。彼らのこだわりを知るために、イタリア・モデナにあるファクトリーを訪ねた。最新作であるウトピアの初試乗やファクトリーを見ることで、走る芸術作品に込められたこだわりの一端を理解することができるかもしれない。
今、最も美しいスーパースポーツカー「パガーニ」。

オラチオ・パガーニは以前よりスペックだけを追求することはなかった。軽量であることを何よりも優先し、総合性能を重視してきた。今回、久しぶりに話を聞くこともできたが、嬉しいことに「12気筒エンジンこそパガーニの命だ。諦めるつもりはまったくない」と彼は断言したのだった。

REPORT/西川 淳(Jun NISHIKAWA)
PHOTO/牧田良輔(Ryosuke MAKITA)
SPECIAL THANKS/Luca BONACINA(MOTO Milano)
MAGAZINE/GENROQ 2024年11月号

SPECIFICATIONS

パガーニ・ウトピア

ボディサイズ:全長─ 全幅─ 全高─mm
ホイールベース:─mm
車両重量:1280kg
エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5980cc
最高出力:635kW(864PS)/6000rpm
最大トルク:1100Nm(102kgm)/2800-5900rpm
トランスミッション:7速MT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ:前265/35R21 後325/30R21

【問い合わせ】
SKY GROUP
https://www.sky-g.org/pagani/

オラチオ・パガーニによって設立された、金属加工技術のスペシャリスト「モデナ・デザイン」。パガーニ ウトピアには、モデナ・デザインによって製造された700以上のパーツが導入されている。

走る芸術「パガーニ ウトピア」に最高レベルの金属パーツを700以上供給する「モデナ・デザイン」とは?【動画】

パガーニ・アウトモビリを率いるオラチオ・パガーニが、1991年に複合素材分野の技術開発のために設立した「モデナ・デザイン(Modena Design)」。現在、モデナ・デザインは、自動車、航空宇宙、生物医学産業向け、金属加工のトップ企業へと成長を果たした。パガーニにとっての、モデナ・デザインの重要性は計り知れない。

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著者プロフィール

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西川 淳