「フェラーリ SF90 XX スパイダー」で屋根を開けてフランスツーリング

“1000馬力”“4WD”のスーパースポーツ「フェラーリ SF90 XX スパイダー」の屋根を開けてフランスをツーリング

SF90スパイダーをベースに、レース志向に仕立てられたスペチアーレが「SF90XXスパイダー」だ。
SF90スパイダーをベースに、レース志向に仕立てられたスペチアーレが「SF90XXスパイダー」だ。
SF90スパイダーをさらに過激に仕立てたスペチアーレ、SF90 XX スパイダーに試乗した。4.0リッターV8ツインターボに3モーターを組み合わせてシステム最高出力1030PSを誇る、最速のオープントップフェラーリは一般道でも最強なのか? フランスのオートルートと郊外で検証した。(GENROQ 2024年11月号より転載・再構成)

Ferrari SF90 XX Spider

単なる記念碑的ユニコーンではなく

SF90スパイダーをさらに過激に仕立てたスペチアーレ、SF90 XX スパイダーに試乗した。4.0リッターV8ツインターボに3モーターを組み合わせてシステム最高出力1030PSを誇る、最速のオープントップフェラーリは一般道でも最強なのか? フランスのオートルートと郊外で検証した。
最速のオープントップフェラーリ「SF90 XX スパイダー」に試乗した。

レーシングカー並み、否それを超える性能を有していながら、サーキットまで快適に移動してスポーツ走行を楽しみ、悠々帰る。それを実現できるのがSF90XXだ。フェラーリ初の量産プラグインハイブリッド(PHV)として登場したSF90をベースに、レース志向に仕立てられたスペチアーレである。

クーペボディのSF90XXストラダーレが799台、オープンエアドライブが楽しめるSF90XXスパイダーはさらに少ない599台のみ生産された。いずれも昨年の発表時点ですでに完売したというが、より貴重なスパイダーモデルにフランス郊外で試乗した。

実のところSF90XXストラダーレには、フィオラノで行われた試乗会でマネッティーノをCTオフまで試して、走行性能の高さと運転の楽しさに圧倒された経験がある。4桁出力や頑強で正確なハンドリングは、単なる記念碑的ユニコーンではなく、恐ろしく従順な競走馬として、目下お気に入りのモデルである。

ミッドに搭載される4.0リッターV8ツインターボエンジンは、SF90のF154FA型から、吸排気マニフォールドやピストン改良などで17‌PSアップの797PSを実現したF154FB型に変更されている。前車軸には左右独立して搭載される2基と、ミッドのエンジンと8速DCTの間に配置された1基と合わせたモーター3基も13‌PSアップとなる合計最高出力233PSを発揮。結果、システム最高出力は1000PSから30‌PSアップの1030PSというAWDスーパースポーツカーとなった。レギュレーションで出力が制限されるモータースポーツでは、プロダクションカーベースのGT3カテゴリーなどでも最高出力は大きく削減されるので1000PSは文字通り桁違いである。そういった意味でSF90XXは重量調整のための鞍を載せない自由な競走馬と言える。

最速で最強で最高に爽快

試乗ルートはフランス西部郊外で高速道路を含む約100km、1時間ほどの一般道だった。しかしスパイダーモデルなら、前述した性能にリトラクタブルハードトップを開け放った、爽快なオープンエアドライブが加わると容易に想像できるというものだ。SF90XXはレース志向のスペチアーレらしく、各部に軽量化を施しており、乾燥重量はベースとなるSF90と較べて10kg軽量化されている。大型リヤウイングなど走行性能向上のための装備を考えればその軽量化は涙ぐましい努力があったと容易に想像できる。ただしクーペとスパイダーを比べると乾燥車重はスパイダーが100kg重い1660kgとなる。これは電動で開閉可能なルーフを備えるためだ。

軽く開くドアを開け、薄いシートに腰を下ろし、さっそくリトラクタブルルーフを下ろして、オープンエアドライブを堪能する。なお、ルーフはノーマル同様に45km/h以下なら約14秒で開閉可能。一般的にこういったスーパースポーツカーは、スパイダーモデルが人気だが、改めてその魅力を理解できる。サイドウインドウを開けるだけでは得られない、頭上から降り注ぐエンジンサウンドはまさに醍醐味である。特にSF90XXの場合、改良された吸気プレナムのチューブがサウンドをより刺激的にしているのでなおさらだ。フェラーリはターボエンジンになって、エキゾーストサウンドの魅力が薄らいだというベテランフェラリスタもいるが、この4.0リッターV8ツインターボユニットのサウンドは回転の高まりとともに十分な刺激を与えてくれる。

電動化を最大限楽しむ

1030PSをフル稼働することは一般道ではあり得ない。だから、エンジンとモーターをそれぞれ程よいバランスでスムーズに稼働させ、この凄まじい性能を持った猛獣を粛々と走らせるのが至上の喜びとなる。

電動化フェラーリを最大限楽しむなら、eマネッティーノを積極的に操作した方がいい。従来のマネッティーノはダンパーやエンジン、変速機などが調整されるが、eマネッティーノはハイブリッドパワートレインの制御が変化する。PHVスーパースポーツカーを一般道で気持ちよく走らせるコツはシンプルで、市街地など低速域では電動走行をフル活用し、高速道路や郊外のBロードではエンジンをフル活用してサウンドを楽しみつつ充電すること。SF90同様の7.9kWhリチウムイオンバッテリーで25kmのEV走行が可能なので、渋滞や住宅街に入った瞬間に積極的にEVモードを選択する。なおEV走行時の最高速度135km/hもSF90と同じだ。

一般道でもやはり気持ちいい走りを楽しめるが、サーキット走行時に感じた逞しいAWD感は一般道ではなりをひそめている。その一方で秀逸なハンドリングの裏では、フロントアクスルの2基のモーターが左右の駆動力を制御して回頭性を違和感なく高めてくれていると想像する。だがもっとも驚いたのは乗り心地だ。ノーマルのSF90に日本で試乗したことがあるものの、それはアセットフィオラノ仕様で、比較対象にならない。だが標準仕様の296GTBと比べても遜色ないどころかむしろ快適だと感じてしまったほどだ。

この乗り心地の良さが、100kgヘビーなスパイダーボディの賜物なのか検証することは、その試乗機会の少なさから難しい。あるいは、試乗地の平均速度の高さも影響しているかもしれない。そう思った理由は、ボンネット上に開けられた2つのエアベントの下のSダクトや公道仕様としては1995年のF50以来となる大型の固定式リヤスポイラーを装着するなどして高められたダウンフォースの好影響を考えたからだ。

恐ろしく従順な競走馬だ──。

ともあれ、最新PHVとして296が登場した際、SF90より洗練されていると業界のベテランが論評した時も、生来天邪鬼故にどこか深みある乗り味の1000PS+AWDの進化版が持つ凄まじい万能感は心に深く刻まれた。

いつでもファンが望む性能を超えたプロダクトを用意してくれるフェラーリだが、もしも叶うならこういった電動スーパースポーツカーをマニュアルトランスミッションで試してみたい。現在様々なスーパースポーツカーのMT回帰が始まっている。当然純粋な速さではDCTには及ばないが、うまく走れた時の達成感はMTが圧倒する。レーシングカーのようにタイムを競わないロードモデルだからこそ、MTがあってもいいのではないだろうか。

REPORT/吉岡卓朗(Takuro YOSHIOKA)
PHOTO/Ferrari S.p.A.
MAGAZINE/GENROQ 2024年 11月号

SPECIFICATIONS

フェラーリSF90 XX スパイダー

ボディサイズ:全長4850 全幅2014 全高1225mm
ホイールベース:2650mm
乾燥重量:1660kg
エンジン:V型8気筒DOHCターボ
圧縮比:9.54:1
総排気量:3990cc
最高出力:586kW(797PS)/7900rpm
最大トルク:804Nm(82.0kgm)/6250rpm
モーター最高出力:171kW(233PS)
バッテリー容量:7.9kWh
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前255/35ZR20 後315/30ZR20
最高速度:320km/h
0-100km/h加速:2.3秒

【オフィシャルサイト】
フェラーリ・ジャパン
https://www.ferrari.com/ja-JP

1030PSのAWDミッドシップ「フェラーリ SF90 XX」に見る先進のテクノロジーを解説

1030PSを発揮するスーパースポーツ・プラグインハイブリッド「フェラーリ SF90 XX ストラダーレ」。わずか限定799台の生産だが、そこに盛り込まれたのは、これからの新機軸となる最先端の技術ばかりであった。(GENROQ 2024年1月号より転載・再構成)

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著者プロフィール

吉岡卓朗 近影

吉岡卓朗

Takuro Yoshioka。大学卒業後、損害保険会社に就職するも学生時代から好きだったクルマのメディアに関わり…