最新12気筒FRスーパースポーツ「フェラーリ 12チリンドリ」に試乗

フェラーリ最新V型12気筒「12チリンドリ」に試乗して判明した「快適で優雅なスーパースポーツへの驚くべき進化」

快適性の向上が著しい12チリンドリ。長距離を乗っても疲れ知らずだ。
快適性の向上が著しい12チリンドリ。長距離を乗っても疲れ知らずだ。
「フェラーリ 812スーパーファスト」の後継モデルとなる「12チリンドリ」。12気筒をフロントミッドシップする2シーターはどのような進化を遂げているのか。ルクセンブルクの路上とクローズドコースで確かめた。

Ferrari 12Cilindri

「フェラーリ12気筒」という車名

ルーフの後ろ部分はV字型のラインを描く。テールライトはプロサングエや296GTBと同じ意匠だ。
ルーフの後ろ部分はV字型のラインを描く。テールライトはプロサングエや296GTBと同じ意匠だ。

「12Cilindri」。これがフェラーリの最新12気筒スーパースポーツの名前である。Cilindriとはイタリア語でシリンダーを意味する。つまり車名はズバリ「フェラーリ12気筒」というわけだ。12はイタリア語でドーディチと発音するので「フェラーリ・ドーディチ・チリンドリ」というのがこの車名の読み方となる。

あまりにもストレートなネーミングだが、気筒数や排気量に関連した数字を車名とするのはフェラーリの伝統芸。今回は数字だけでなく言葉まで組み込んでエンジンを前面に出してきた。それほどまでにエンジンの素晴らしさを主張したい、というのがフェラーリの狙いなのだろう。

近年のフェラーリ12気筒は、フロントにエンジンを搭載して後輪を駆動する、いわゆるFR方式を採用する。12チリンドリが搭載する65度V型12気筒は、あらゆる部分に大幅な改良が加えられた限定生産モデル「812コンペティツィオーネ」のものをベースとしている。812スーパーファストに搭載されたF140にチタン製コンロッドを採用し、アルミ製ピストン、リバランスを施したカムシャフト、またバルブトレイン系にはF1のテクノロジーを導入して更なる軽量化と摩擦の低減、効率の向上を実現した。その結果、エンジンの最高回転は9500rpmへとアップし、最高出力は830PSを実現している。

デザインは過去の名作をイメージ

エンジンは前輪軸よりも完全に内側のフロントミッドに搭載されており、8速のDCTはリヤアクスル上に搭載するトランスアクスル方式を引き続き採用。前後重量配分はフロント48.4対リヤ51.6という重量バランスはまさに理想的だと言えるだろう。そして、そのメカニズムを包むボディは、これまた12チリンドリの大きな特徴、魅力だ。

多気筒FRマシンらしいロングノーズはゆったりとしたフェンダーの膨らみを持ち、まるでクルーザーのような優雅さ。そのノーズ先端にはヘッドライトがアクリルのカバー内に収められ、左右のライトの間はブラックのパネルでつなげられている。その雰囲気は「365GTB/4」いわゆるデイトナを思わせるもので、実際、フェラーリもプレゼンテーションで365GTB/4デイトナの名前を挙げていた。過去の名作をイメージしたデザインは296GTB/GTSでも見られたが、近年のフェラーリ・スタイリング・センターのテーマとなっているのかもしれない。

一方、リヤ周りは新しい試みがなされている。ルーフからリヤフェンダーにかけてのラインはルーフを頂点とする三角形を描いており、リヤウインドウ下の両脇には小さな可動式リヤスポイラーが内蔵されている。このブラックのパネルと三角形のルーフラインが生み出すリヤのデザインはなかなかに斬新だ。フロントもリヤも、今までのF12や812スーパーファストのスポーツ性を強調するマッチョなデザインとは一線を画す、大人の雰囲気を纏うようになったという感じだろうか。

FRならではの挙動

ドアを開けて乗り込むと、そこは最近のフェラーリに共通する光景が広がる。センターコンソールに大きな10.25インチのディスプレイを備えるのが他モデルにはない特徴で、適当に操作してみたらシート調整の項目ではマッサージ機能まで備わっていることがわかった。

走り出してみると、まずはその快適性に驚く。足まわりは実にしなやかで、ゴツゴツとした突き上げや不快な振動などはまるで感じない。ギヤチェンジも実にスムーズで、普通に街中を流していると高級サルーンを運転しているのかと錯覚してしまうほどだ。目の前に伸びているフロントノーズの長さに当初は戸惑うが、意外なほど取り回しもやりやすく、タイトな曲がり角でもクルマは思うがままに向きを変えてくれる。ホイールベースが812スーパーファストより20mm短縮されていること、そして4WSの効果は相当に大きいはずだ。12気筒エンジンは拍子抜けするほど(?)に静かで、しかも低回転域での微妙なトルクの出し入れにも即座に応えてくれる扱いやすさで、これならコンビニへの足に使ってもまったくストレスはないだろう。

ワインディングに入ってペースを上げていくと、今までジェントルだった12気筒が段々とその本性を表す。鋭いピックアップと回転とリニアにリンクするパワー感、そして比較的大柄なボディでありながら巌のようなボディ剛性、さらに絶妙なスピードコントロールを可能とするブレーキによって、路面を掴み取るかのような走りを楽しめる。かといってSF90ストラダーレや296GTBのように限界まで攻めたくなるような気分の高揚感とはちょっと違う。それはFRならではの前輪との距離を感じる挙動によるものと、しっとりとした味わいを見せる足まわりのせいでもあるだろう。12チリンドリは従来の12気筒FRスーパースポーツよりもさらにGT的性格を強めたようだ。それは一般道を約130km一気に走ってもまるで疲労がなかったことからも感じられる。

12気筒はフェラーリの魂

しかし、12チリンドリがハードなスポーツ走行が不得意というわけではない。今回はクローズドコースでの試乗も用意されていたが、そこは「フェラーリ12気筒」の独擅場。タコメーターは9000rpmまで一気に吹け上がり、決して長くはないストレートエンドでも280km/hオーバーと、富士スピードウエイ並みの最高速度をマークした。タイトなコーナーでもノーズはグイグイとインに向かっていき、スロットルを開けてテールが流れてもクルマの動きが掴みやすく、コントロールも容易だ。それはもちろんサイドスリップコントロール(SSC)8.0をはじめとする優れた制御のおかげなのだが、その働きが実に自然なので素直にクルマを操ることに没頭できる。

GT性能の向上に軸足を置きながら、極限でのパフォーマンスもさらに高める。フェラーリは非の打ち所のない進化を最新FRマシンに与えた。9000rpmの12気筒NAサウンドに包まれながら、フェラーリがあえて「12気筒」を車名にした真意を考える。まさかこれで最後の記念としての意味……いやいや、12気筒はフェラーリの魂。そんなことはあるまい。だが、モーターなしの純エンジン車で12気筒を楽しめる時間は、もうあまりないのかもしれない。そういう意味での「ドーディチ・チリンドリ」なのだろうか。

SPECIFICATIONS

フェラーリ・ドーディチ・チリンドリ

ボディサイズ:全長4733×全幅2176×全高1292mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1560kg
エンジン:V型12気筒DOHC
総排気量:6496cc
最高出力:610.5kW(830PS)/9500rpm
最大トルク:678Nm(59.7kgm)/7250rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
ブレーキ:F&Rベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ:F275/35R21 R315/35R21
最高速度:340km/h
0→100km/h加速:2.9秒

6.5リッターV型12気筒自然吸気エンジンをフロントミッド搭載する「フェラーリ 12チリンドリ」のエクステリア。

フェラーリの最新フロントV12ベルリネッタ「12チリンドリ」がワールドプレミア【動画】

フェラーリは、F1マイアミGPのレースウイークに開催されたエクスクルーシブなイベントにおいて、V型12気筒エンジンをフロントミッドに搭載した2シーターベルリネッタ「12チリンドリ(12Cilindri:ドーディチ チリンドリ)」をワールドプレミアした。最新スペックの6.5リッターV型12気筒自然吸気ガソリンエンジンは、最高出力830PS発揮し、最高速度は340km/hを誇る。

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著者プロフィール

永田元輔 近影

永田元輔

『GENROQ』編集長。古典的ジャイアンツファン。卵焼きが好き。愛車は993型ポルシェ911。カメラはキヤノン。