F1やWECの技術を積極導入したスペチアーレ「フェラーリ F80」が限定799台で登場

“最高出力1200PS”フェラーリ製ロードカー史上最強ハイブリッド搭載スペチアーレ「F80」がワールドプレミア

ハイブリッド搭載スペチアーレ「フェラーリ F80」のエクステリア。
フェラーリは、F40やラ・フェラーリの系譜に加わる、最新スペチアーレ「F80」を公開した。
2024年10月17日、フェラーリは最新スペチアーレ「F80」をワールドプレミアした。799台が限定製造されるF80は最新テクノロジーが惜しげもなく投入され、1984年にデビューしたGTO以降、F40、F50、ラ・フェラーリと続いてきた、公道走行可能なスペシャルモデルの系譜を継ぐ存在となる。

Ferrari F80

究極の走行性能と快適性を高次元で両立

ハイブリッド搭載スペチアーレ「フェラーリ F80」のエクステリア。
最新スペチアーレ、フェラーリ F80の開発において求められたのは、公道において世界最高レベルの走行性能を発揮しながら、同時に快適なドライブが楽しめるスーパースポーツだった。

「フェラーリ F80」の開発において掲げられたターゲットは、究極の内燃エンジンに、新世代ハイブリッドパワートレインテクノロジーを組み合わせ、圧倒的なパワーとトルクを実現すること。公道走行可能なモデルとしてライバルを圧倒するパフォーマンスは、カーボンファイバー製シャシー、究極のエアロダイナミクス、サーキットにおける極限のアタックに最適化された新開発のアクティブサスペンションによって実現した。

また、F80は地球上に存在するあらゆるスーパースポーツを圧倒するパフォーマンスだけでなく、公道で軽々とドライブできる使いやすさを両立することも求められたという。目指したのは、サーキット志向のスーパースポーツでありながら、プロダクションモデルと変わらない運転しやすさを両立する、一見不可能にも思える目標の達成だ。

ドライバー中心のタイトなキャビンながらも、パッセンジャーのスペースと快適性を確保。定員は2名だが、コクピットにはフォーミュラカーような雰囲気が漂い、「1+」とフェラーリが銘打ったパッケージが誕生した。車幅を最低限に抑えたことでドラッグの低減と軽量化を実現。これはフェラーリによるモータースポーツ活動の経験が活かされたと言えるだろう。

パワートレインは、現在F1と世界耐久選手権(WEC)でも導入されているV型6気筒ガソリンエンジンと、800Vハイブリッドシステムの組み合わせ。フェラーリは特にル・マン24時間レースを制したプロトタイプレーシングカー「499P」と同じアーキテクチャーをF80に選んでいる。またフェラーリ史上初めて電動ターボ技術「eターボ」を採用。ターボチャージャーのタービンとコンプレッサー間に電気モーターを組み込むことで、強大な出力と低回転域からの良好なレスポンスを可能にした。

エアロダイナミクスは、アクティブリヤウイング、リヤディフューザー、フラットアンダーボディ、トライプレーン型フロントウイング、Sダクトといった空力ソリューションがシステマチックに連携。これにより250km/hにおいて、1050kgものダウンフォースを発生する。ここにアクティブサスペンションによる繊細な調整が加えられた。

F80は歴代スペチアーレと同様、フェラーリのデザインを新たな時代へと導く存在となる。張りのあるアグレシッブなエクステリアは、F80がモータースポーツから生まれたスーパースポーツカーであることを明確に主張している。また、航空宇宙分野から導入されたコンポーネントや、先代モデルへのオマージュも多数盛り込まれている。

499Pの技術が導入された3.0リッターV型6気筒ツインターボ

ハイブリッド搭載スペチアーレ「フェラーリ F80」のエクステリア。
リヤミッドに搭載される3.0リッターV型8記気筒「F163CF」 ガソリンエンジンは、WECに参戦するフェラーリ 499Pの技術が積極的に導入された。ここにF1やWECで磨かれたハイブリッド技術が組み合わせられた。

F80に搭載されるのは、バンク角120°の3.0リッターV型6記気筒「F163CF」ツインターボガソリンエンジン。フェラーリが製造してきた6気筒エンジンの究極形として開発され、エンジン単体の最高出力は900PS、排気量比の出力はフェラーリ製エンジン史上最高となる300PS/Lを発揮する。これに電動フロントアクスル「e-4WD」と、F1由来のリヤモーター「MGU-K」によるハイブリッドシステムが300PSのパワーを上乗せする。

モータースポーツ、特に耐久レースとのつながりが非常に強く、エンジンコンポーネントの多くは、WECに参戦するプロトタイプレーシングカー「499P」パワーユニットと密接な関係を持つ。499Pとの共通点として、アーキテクチャー、クランクケース、タイミングシステムのレイアウト、駆動チェーン、オイルポンプの回収回路、ベアリング、インジェクター、GDIポンプなどが挙げられる。

インコネル製エキゾーストマニホールドは、圧力損失を最小化する設計を導入。フェラーリV6独自のサウンドを奏でるよう専用チューンが施された。車両の重心を下げるため、エンジンは可能な限りフラットアンダートレイに近い位置に搭載。また、エンジンを軽量化するため、シリンダーブロック、クランクケース、タイミングカバーなどのコンポーネントを見直し、チタン製ネジも導入されている。これにより296 GTBのV6エンジンよりも重量を増加させることなく、出力を237PSも引き上げることに成功したという。

F80に搭載される電気モーターは、フェラーリが開発・テスト・製造のすべてをマラネッロで実施した最初の電動ユニットとなった。モーターはフロントアクスルに2基、リヤに1基を搭載し、その設計にはF1やWECなどフェラーリのモータースポーツにおける蓄積が活かされている。

エネルギー貯蔵システムの中核となる高電圧バッテリーは、高い電力密度となるように考案。F1から引き継いだリチウムバッテリー技術、カーボンファイバーを多用したモノコック型ケーシング、ユニットの重量と容量を最小化した「セル・トゥ・パック」技法などが導入された。

バッテリーパックはエンジンベイの低い位置に搭載されており、車両全体の重心を下げ、挙動のさらなる向上にも貢献。バッテリーパックを構成する204個のセルは直列につながれ、3個のモジュールとして均等に分割されている。バッテリーの合計容量は2.3kWh、最高出力は242kWを発揮する。

ロードカーの常識を覆す高度なエアロダイナミクス

ハイブリッド搭載スペチアーレ「フェラーリ F80」のエクステリア。
F80は、公道走行可能な市販モデルとしては、あり得ないレベルのエアロダイナミクスを導入。空力コンセプトは、F1やWECを走るレーシングマシンからノウハウが積極的に採り入れられた。

フラヴィオ・マンゾーニ率いるフェラーリ・スタイリング・センターは、F80のエクステリアを決定する際、フェラーリのビジュアル要素をラディカルに変更。過去と未来を結びつけるデザイン要素を模索することになった。まず、F1マシンが持つ美しさに目を向け、これまでのフェラーリ製ロードカーの常識を覆すレベルの高度なエアロダイナミクスを導入。そのダウンフォースは250km/hで1050kgにも達する。

フロントセクションは、総ダウンフォースのうちの460kgを250km/hで発生。F1とWECで採用されている空力コンセプトをベースに、F80専用のアレンジが加えられた。レーシングカーのように大きく後傾したドライビングポジションによって、シャシーのセンターキールを高く設定。また、冷却システムのレイアウトを最適化し、車両センター部を完全に開放することで、ほかの機能に使えるスペースがも確保されている。

ボディカラーをあしらったノーズ中央部は、広大な面積を持つフロントウイングのメインプレーンとして機能。Sダクト内部には2枚のフラップが存在し、メインプレーンと共にトライプレーン型ウイングを形成する。湾曲やブロワースロットなどは499Pの技術が採用された。

これらの空力デバイスが連携することで、アンダーボディとバンパーからのエアフローは縦方向に勢いよく拡大され、ダクトによって再びフロントボンネットへと導かれる。上向きの強力な流れが発生することで、アンダーボディ下部にはパワフルな低圧力ゾーンが発生。これにより150kgのダウンフォースが発生するが、非常に繊細な挙動となるため、アクティブサスペンションで空力バランスが確保された。アクティブサスペンションは、車両の挙動をリアルタイムで制御し、走行する状況に応じてアンダーボディと路面との間隔を調整する。

リヤセクションは、リヤウイングとディフューザーシステムの相互作用により、590kgのダウンフォースを発生する。F80では、ディフューザーのパフォーマンスを極限まで引き上げるため、ディフューザー自体の膨張スペースを最大限に確保。ディフューザーが上向きに湾曲し始めるポイントを前方へと寄せたことで、ディフューザー長は1800mmにも達した。

F80の挙動を制御するアクティブウイング

ハイブリッド搭載スペチアーレ「フェラーリ F80」のエクステリア。
コーナリング時などのハイダウンフォース重視、ストレートにおける最高速重視など、走行環境に合わせてダウンフォースとドラッグを調整する「アクティブリヤウイング」が搭載された。

「アクティブリヤウイング」は、F80のビジュアルで最も特徴的な空力コンポーネントだと言えるだろう。ダウンフォースとドラッグを精密にコントロールするため、リヤウイングに組み込まれたアクチュエーターが、高さだけでなく仰角も、絶え間なく調整する。

「ハイダウンフォース(HD)」は、ブレーキング、ターンイン、コーナリング時に選択され、ウイングが気流の角度に対して11°に傾くことで、250km/hで180kgを超えるダウンフォースを発生。一方、最高速重視の「ロードラッグ(LD)」は、先端が上方向へと傾き、ドラッグが大幅に低減する。

アクティブリヤウイングは、様々な車両制御システムにより、リアルタイムでドライブ状況を監視・評価する。加速、速度、操舵角といったドライバーからの要求に応じて、ダウンフォース/空力バランス/ドラッグの最適なブレンドをシステムが決定。アクティブサスペンションとアクティブエアロシステムに指示を送り、それに即した理想的な挙動が実現される。

アクティブ・リバース・ガーニーは2種類のフラップ位置が用意されており、これによりフロントのダウンフォースとドラッグの制御が可能になった。フラップが閉じたポジションでは、最大のダウンフォースを発生する一方、開いたポジションではフラップが気流に対して適切な角度を取ることで、F1の「DRSシステム」と同様の仕組みでアンダーボディをストール。ドラッグを低減し、トップスピードが引き上げられる。

クローズドコクピットのF1マシン

ハイブリッド搭載スペチアーレ「フェラーリ F80」のコクピット。
まるで、F1マシンのコクピットのように、タイトでドライバーオリエンテッドなF80の室内。開発陣がイメージしたのは、クローズドコクピットを持つF1マシンだという。新開発のステアリングホイールには物理スイッチが復活した。

コンパクトなキャビンは、シングルシーターのF1マシンをインスピレーションとし、クローズドコクピットのF1マシンをイメージして開発された。デザイナー、エンジニア、人間工学のスペシャリスト、カラーとトリムのエキスパートが、長期にわたる開発を重ねた結果、ドライバーを主役にしつつ「1+」モデルへと変貌させることに成功している。

コクピットはドライバーを中心に据え、完全に包み込む形状を採用。操作用インストゥルメントパネルに向けて収束するフォルムが採り入れられた。操作パネルも人間工学に基づいてドライバー側に向いており、まるで繭の中にいるような印象を作り出している。

快適な座り心地のパッセンジャーシートは、キャビンのトリムと完全に融合。ドライバーズシートとパッセンジャーシートを前後にオフセットし、パッセンジャーシートをドライバーズシートよりも後方に配置したことで、車内空間の幅を狭めながら、快適性が確保された。これによりキャビンを縮小し、前面投影面積を最小化することも可能になった。

F80のために専用開発されたステアリングホイールは、従来よりわずかに小型化され、上下のリムをフラット形状に変更。ステアリングボスも縮小されたことで視界が向上し、ドライブ中はスポーティな感覚が強調される。リムの両サイドはドライビンググローブの有無にかかわらず、しっかりしたグリップとなるよう形状を最適化。左右スポークには物理ボタンが配置され、近年のフェラーリに導入されていたフルデジタルのレイアウトから、触れただけですぐに分かる使いやすいボタンへと変更されている。

SPECIFICATIONS

フェラーリ F80

内燃エンジン
タイプ:120°V型6気筒 ドライサンプ式
総排気量:2992cc
ボア・ストローク:88mmx82mm
最高出力:900PS/8750rpm
最大トルク:850Nm/5550rpm
最高許容回転数:9000rpm
圧縮比:9.5:1
比出力:300PS/L

リヤ電気モーター(MGU-K)
作動電圧:650–860V
回生ブレーキ:70kW(95PS)
ICEアシスト:60kW(81PS)
最大トルク:45Nm
最高回転数:30000rpm
重量:8.8kg

フロントアクスル電気モーター
作動電圧:650–860 V
最高出力:各105kW(142PS)
最大トルク:121Nm
最高回転数:30000rpm
重量:12.9 kg

高電圧バッテリー
最大電圧:860V
最高出力(充電・放電):242kW
容量:2.28kWh
最大電流:350A
出力密度:6.16kW/kg
重量:39.3 kg

サイズ&重量
全長:4840mm
全幅:2060mm
全高:1138mm
ホイールベース:2665mm
フロントトレッド:1701mm
リヤトレッド:1660mm
乾燥重量:1525kg
乾燥パワーウェイトレシオ:1.27kg/PS
重量配分:42.2対57.8
燃料タンク容量:63.5L
トランク容量:35L
タイヤ:前285/30 R20 後345/30 R21
フロントブレーキ:408x220x38mm(6ピストン・キャリパー)
リヤブレーキ:390x263x32mm(4ピストン・キャリパー)
トランスミッション:8速デュアルクラッチF1 DCT

パフォーマンス
最高速度:350km/h
0–100km/h:2.15秒
0–200km/h:5.75 秒秒
100-0km/h:28m
200-0km/h:98m

SF90スパイダーをベースに、レース志向に仕立てられたスペチアーレが「SF90XXスパイダー」だ。

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SF90スパイダーをさらに過激に仕立てたスペチアーレ、SF90 XX スパイダーに試乗した。4.0リッターV8ツインターボに3モーターを組み合わせてシステム最高出力1030PSを誇る、最速のオープントップフェラーリは一般道でも最強なのか? フランスのオートルートと郊外で検証した。(GENROQ 2024年11月号より転載・再構成)

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ゲンロクWeb編集部 近影

ゲンロクWeb編集部

スーパーカー&ラグジュアリーマガジン『GENROQ』のウェブ版ということで、本誌の流れを汲みつつも、若干…