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Mercedes-Benz C-Class All-Terrain
オールテレインなら「悪いはずがない」
現行のメルセデス・ベンツ Eクラス、W213のデビューが2016年だったから、かれこれ5年以上が経過したことになる。そろそろ次期型の噂も聞こえてくるようになったけれど、モデルレンジとしてはいわゆる“熟成期”に入っており、性能も品質もようやく安定した。そんなW213の中で、いつの間にかカタログから姿を消してしまったモデルがある。E 220 d 4MATIC オールテレインがそれで、個人的にはW213の中でもっとも完成度の高かったのはではないかと思っている。
日本で2017年9月に発表されたE 220 d 4MATIC オールテレインは、メルセデス初となるいわゆるクロスオーバータイプのワゴンだった。特筆すべきは標準装備されていたAIR BODY CONTROLと呼ばれるエアサスペンションで、電子制御式ダンパーと協調制御して車速や走行状態に応じて車高/減衰力/ばねレートを自動的に最適化する機能を有していた。これがまあとにかくオンロードでは極上の乗り心地をもたらし、「オールテレインモード」を選べば雪道などで安定的な走破性を提供していた。その当時「Eクラスの中でこれが1番いいじゃん」とメルセデスのスタッフに言ったらその場がちょっと気まずい雰囲気になったことをいまでも覚えている。
だからメルセデスの“オールテレイン”という記号にはポジティブな印象しかなく、W206となった現行Cクラスにオールテレインが加わったと聞いて「これは悪いはずがない」と思った。ところが試乗前のブリーフィングで「当然エアサスですよね?」と念のため聞いてみたところ「いいえ違います。現行Cクラスではエアサスは使わない方針なので」と言われちょっと暗雲が立ちこめた。
車高をノーマル比で40mmアップ
オールテレインを名乗るメルセデスはこれまで前述のEクラスしかなかったので、CクラスのオールテレインはEクラス以外では初めて、もちろんCクラスとしても初めてである。ベースとなっているのはCクラスワゴン。全長で4mm、全幅で21mmそれぞれ大きくなっているのは、前後のバンパー形状の変更やホイールアーチ部分への加飾に因る。そして金属ばねとダンパーを組み合わせたコンベンショナルなタイプのサスペンションは、ノーマルのワゴンより最低地上高を40mm高くしたそうだ。現時点ではC 200とC 220 dの2タイプが用意されていて、いずれもISG仕様となる。
実物のCクラス オールテレインは、オールテレインとしてのお化粧が思ったよりも地味で、遠くからみたらワゴンと見間違えるかもしれない。エクステリアはワゴンのアヴァンギャルドをベースに、前後バンパー下にはアンダーガード風のクロムめっき処理が施されて、ホイールアーチにはマットブラックの樹脂カバーが装着されている。ちなみに“All-Terrain”というバッジはどこにもなく、ワゴン同様にハッチゲートには(今回の場合は)“C 220 d”と“4MATIC”だけ記されている。インテリアもシートやトリムは基本的にアヴァンギャルド仕様だが、カラーはいくつかの専用色があるようだ。なお、Cクラス オールテレインでは1800kgまでの牽引が可能で、オプションには牽引用のESPプログラムが用意されている。
エアサスや電制ダンパーは非搭載、しかし・・・
エアサスでないと判明した時点で、今度は乗り心地がどうなっているのかが猛烈に気になり始めた。ここではこれまで、スイスで試乗したC 300 eと日本国内で試乗したC 200の試乗記を公開しているけれど、C 300 eと比較するとC 200の乗り心地がなんとも芳しくなかったからだ。要するにどっちが新型Cクラス本来の乗り心地なのかが分からずずっと悶々としていたのである。
オールテレインは車高が高いのでちょっとイレギュラーなモデルとはいえ、C 300 eとC 200のどっちに近いかくらいは分かるだろうと期待した。ちなみにC 300 eとC 200はいずれも電子制御式ダンパーを装着し、C 200はAMGラインのスポーツサスペンション仕様だったが、オールテレインは電子制御式ダンパーではない。どれもサスペンション形式はフロントが4リンク、リヤが5リンク、タイヤサイズは18インチである。
結論から言えば、C 220 d 4MATIC オールテレインの乗り心地はC 300 eに近いものであった。具体的には、四輪の路面の追従性がよく、アンジュレーションがあってもタイヤの接地面変化が少なくて、減衰もそんなに速くないからばね上の動きはどちらかといえばゆったり。つまり至極快適な乗り心地であった。もちろん、車高が異なるオールテレインには専用のサスペンションセッティングがされているはずだが、「Cクラスのとしての共通した乗り味」という観点では限りなくC 300 eに似ていた。
アウトバーンからオフロードまで
試乗ルートにはアウトバーンの速度無制限区間も含まれていたのだけれど、車高が上がっているにもかかわらず高速時の直進安定性の高さに驚かされた。空力の良さの影響もあるとは思うが、オフロードでのある程度の走破性とこうした日常のオンロード性能を両立させようとした結果、最低地上高40mmアップという落とし所に辿り着いたのではないだろうか。これより高いとオフロードでは優位だが高速巡航などでは安定性の確保が難しくなるし、これより低いとオフロードで心許なくなる。きっと何度も最低地上高を変えては走り、ちょうどいい値を探り当てたに違いない。ステアリングを何度も左右に切るような場面でも、ロールの量と速度はきちんとチェックされていて、ハンドリングはセダン/ワゴンと大差ないレベルだった。
だからアウトバーンでの巡航は快適である。ステアリングに両手をそっと添えて置くだけで、修正舵を当てる必要もなくただひたすらに突き進む。風切り音もそれほど気にならなかったので、やっぱり空力も相当やったのだろうと推測できる。OM654M型の直列4気筒ディーゼルターボは1993ccで、最高出力200ps/4200rpm、最大トルク440Nm/1800-2800rpmを発生するが、ISG仕様ではモーターが駆動力をアシストするため、出力で20ps、トルクで200Nmが状況によって瞬間的に上乗せされる。
このエンジンの場合では、主にアイドリングから最大トルクが発生する1800rpmに達するまでの間でISGが働いてくれるから、例えば発進時に一瞬もたつくようなことはなく、1.9トン近いボディをいとも軽々と動かすのである。高速道路7割、残りは一般道の今回のオンボード燃費はリッターあたり約18kmくらいであった。
エンジニア氏のひと言にぐうの音もなし
メルセデスはドイツ南部にあるインメンディンゲンという小さな町に大きなテストコースを建設、2018年9月から運用を開始している。この「テスト・アンド・テクノロジー・センター・インメンディンゲン」にあるオフロードコースでも試乗することができた。さすがにGクラスがガンガン行けるほどの険しいコースではなかったけれど、むしろ我々の日常でも遭遇するかもしれないくらいの現実的なオフロードだった。
途中、急勾配の坂道の手前で、「登り始めたら途中で1度止まってください」と言われ、その通りにすると案の定、クルマはズルズルと下り始めた。ここでトランミッションを「R」に入れると、ESPを使って4輪個別にブレーキをかけながら安全に下まで降りていったのである。要するに、急勾配の下りで使うヒルディセント・コントロールの逆バージョンである。オールテレインはダイナミックセレクトの通常モードの他に「OFFROAD」と「OFFROAD+」が追加されていて、この時はOFFROAD+を選択していた(もちろんヒルディセント機能も備わる)。例えば雪道で、これくらいなら多分行けるだろうと思って登り始めたものの、途中で滑ってどうにもならなくなった時などにはとても有効だと思った。
そうはいってもエアサスじゃないし車高調整もできないし、ちょっと物足りないと感じる人もいるのではないか。なんてことをオフロード走行後、その場にいた屈強で気難しい感じのエンジニアに問うてみた。すると彼はほくそ笑みながら「自分はGクラスのチームで、オールテレインのOFFROADモードの監修は我々がやりました。Gクラスもエアサスじゃないし車高調整もできませんよ(笑)」と言った。メチャクチャ説得力ある答えだった。
REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
【SPECIFICATIONS】
メルセデス・ベンツ C 220 d 4マティック オールテレイン(欧州仕様)
ボディサイズ:全長4755 全幅1820 全高1494mm
ホイールベース:2865mm
車両重量:1875kg
エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:1993cc
ボア×ストローク:82.0×94.3mm
最高出力:147kW(200hp)/3600rpm
最大トルク:440Nm/1800-2800rpm
モーター出力/トルク:15kW/200Nm
トランスミッション:9速AT
サスペンション:前4リンク 後マルチリンク
駆動方式:AWD