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Volkswagen Arteon Shooting Brake
“映える”ステーションワゴン
フォルクスワーゲン アルテオン シューティングブレークが2021年7月13日に日本発売開始。フォルクスワーゲンブランドの頂点に位置づけられるモデルで、けっこうスタイリッシュ。スポーツカー好きにも、けっこう響くデザインだと思う。
アルテオン シューティングブレークの最大の特徴は、フォルクスワーゲンのフラッグシップでありながら、車型がステーションワゴンであること。そこがユニークだ。といっても、同じフォルクスワーゲンブランドのパサートのように機能一辺倒ではない。ポルシェ パナメーラ スポーツツーリスモを連想させる個性的なデザインなのだ。
ほどよくデジタル化されたダッシュパネル
今回は同時に、従来からのアルテオン(ファストバック)もマイナーチェンジ。エクステリアデザインでは、フロントとリヤの一部を変更。フロントグリルとヘッドランプをはじめ、エアダムや、リヤのマフラーカッターの形状、さらに“VW”の新ロゴの採用などがあたらしい。
ダッシュパネル全体のデザインも変わった。通信モジュール内蔵の純正インフォテインメントシステムとデジタルメータークラスター「Digital Cockpit Pro」が標準装備。30色から選べるアンビエントライトも備わる。エアコンのコントロールも、バーをスライドするタイプになるなど、適度に(ここがフォルクスワーゲンらしい)デジタル化を採り入れたデザインとなったのだ。
セダンもワゴンもひと味違うアルテオン
あらたに導入されたシューティングブレークは、「理想的な機能性と多用途性だけでなく、個性的なスタイルと革新的なテクノロジーを求める」ドライバ−に向けたモデル、とフォルクスワーゲンの日本法人では謳う。
ステーションワゴンとかヴァリアント(ステーションワゴンを意味するフォルクスワーゲン独特の呼び方)とか呼ばず、あえてシューティングブレーク。思えば、2017年に発表され、同年日本に導入されているアルテオンも、セダンでなくてファストバックだ。どのモデルも“ひねり”が効かせてある。
そもそもシューティングブレークとは
シューティングブレークなる呼び名は英国から広まった。当初は20世紀初頭に、狩りのために使う馬車をそう呼んだ。のちに1960年代になると、スポーツクーペをシューティングブレークに改造するのが、富裕層のあいだで流行するように。
たとえば、アストンマーティンのDBシリーズや、ジャガー XJ-Sといった大排気量のクーペを購入して、コーチビルダー(語源は馬車の車体製造業)に持ちこみ、好みの仕様に仕上げてもらう“お遊び”である。
現在のシューティングブレークは、読者のかたは先刻ご承知のように、メルセデス・ベンツが2010年に第2世代のCLSを発表した際に採用したデザインのひとつ、それがシューティングブレークだった。
このときメルセデス・ベンツは、シューティングブレークをかつての2ドアワゴンというスタイルから切り離し、クーペ的な要素を取り込んだ新しいコンセプトとして確立。このあと、CLA シューティングブレークが発表され、そして今回、フォルクスワーゲンも同じ軌跡をたどることとなった。
アシやエンジンは全体的にマイルドな風味
日本に導入されたアルテオン シューティングブレークのなかで、今回試乗したのは「TSI 4MOTION R-Line Advance」というモデルだ。読者のかたは先刻ご承知とは思いつつ解題すると、「TSI」は過給+燃料直接噴射式ガソリンエンジン、「4MOTION」はフルタイム4WD、「R-Line Advance」はシートなど一部専用装備をもった少しスポーティな雰囲気のモデルとなる。
乗っての特徴は、ひとことで言ってソフト。脚まわりの動きといい、アクセルペダルを踏んだときのエンジントルクの“つき”かたといい、全体にマイルドに仕上げられているのが、印象的だ。
200kW(272ps)の最高出力と350Nmと太い最大トルクをもつ1984ccエンジンも、やたらよく回るとか、踏み込んですぐ大パワーを発揮するというより、ゆるやかにパワーが上がっていく。
最大トルクの発生回転数は2000rpmから5400rpmと幅広く設定されていることもあって、急激な加速をするのでないかぎり、ゆたかなトルクが途切れる感じがない。7速DSGという湿式のツインクラッチ変速機が最適なギヤを選んでくれるのだろう。
電制ダンパーの仕事ぶりもお見事
前輪100%から前後50対50までトルクを瞬時に振り分けるフルタイム4WDシステム「4MOTION」も、高速での安定性に寄与しているはずだ。クルージング性能に長けたクルマなのだ。
電子制御ダンパーを組み込んで減衰力を自動調整するDCC(アダプティブシャシーコントロール)は、このところ日本で矢継ぎ早に発売された、新しいティグアンや新型ゴルフ(8代目)でも実力を証明済みで、すばらしい“仕事”をしてくれる。
クルマの姿勢はつねにフラットで、路面の凹凸などの外乱の影響を受けることはない。同時にカーブなどでの身のこなしは、最初すこし内側のノーズが沈み、そのあとは車体の傾きを抑えて、安定した姿勢が保たれる。
「うまい」シャシーセッティング
ハンドル切り始めの車体の反応を早くするため、プログレッシブステアリングという可変ジオメトリーのステアリングシステムが標準で備わっている。これも上手な設定で、上記のコーナリング性能に大きく寄与していると感じられるのだ。
全長4870mmと比較的余裕あるサイズであるうえに、先述したとおりことさらスポーティな仕上げではない。それでいてカーブが連続する道を走るのもまったく苦手ではない。トヨタ自動車の開発者が、フォルクスワーゲンの足まわりの設定を“うまい”と話していた。それが、よくわかる気がする。
高速でのツーリングも得意科目だ。今回はさほど長い距離を走ったわけではないものの、ロングツーリングでもドライバーの疲労感は少なそうだ。
フォルクスワーゲンならではの“クルマづくり”
ステアリングホイールのスポーク上に、ボタンひと押しで、アダプティブクルーズコントロールとレーンキープシステムが働く同一車線内全車速運転支援システム「トラベルアシスト」も設けられている。正確な速度を守ってくれるシステムで、長い距離の移動には役立ちそうだ。
スタイリッシュなボディデザインながら後席の空間的余裕がかなりのもので、大人ふたりが座って気持ちがいい。ゴルフ8も後席が広いし、フォルクスワーゲンのパッケージングは上手だとつくづく思わせられる。荷室容量もたっぷりしていて(ファストバックより2リットル多い565リットル)、ライフスタイルカーを標榜しているものの、フォルクスワーゲンのクルマづくりの基本がすべて守られているのだと感心。
このクルマの想定ユーザー層のひとつは、カンヌとかニースに住んでいる、ちょっと歳のいった懐のあたたかいひとたちだろうか。ふだんはコルニッシュと呼ばれる海岸線を流していて、たまに背後の山道を飛ばしたりもする。日本でも同様の使いかたにぴったりなように思う。ゴルフが趣味のひとにとってもいいパートナーになるはずだ。
クルマ好きのツボをくすぐるワケ
ステーションワゴンのよさは、多様性にある。たとえば、荷室容量などはSUVと同等。さらに車高を無理してあげていないのでサスペンションのストロークがたっぷりとれるため乗り心地がよい。かつ、スポーツカーやセダンなど、従来からの車型のもつエレガントさを備える。
加えて、今回のアルテオン シューティングブレークのように新しい解釈を入れることで、SUVでは得られないスポーティさを実現することもできる。背が高いクルマもいいけれど、全高1445mmに抑えたアルテオンのスタイリッシュさは、クルマ好きに大いにアピールするのだ。 価格は「Arteon TSI 4MOTION R-Line 」(587万9000円)にはじまり、試乗した「Arteon TSI 4MOTION R-Line Advance 」(644万6000円)、そしてエンジンパワーや足まわりの設定は同一ながらエレガンスを強調した内装などが特徴的な「Arteon TSI 4MOTION Elegance 」(644万6000円)と、3モデルで構成される。
REPORT/小川フミオ(Fumio OGAWA)
PHOTO/峯 竜也(Tatsuya MINE)
【SPECIFICATIONS】
フォルクスワーゲン アルテオン シューティングブレーク TSI 4MOTION R-line Advance
ボディサイズ:全長4870×全幅1875×全高1445mm
ホイールベース:2835mm
車両重量:1750kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1984cc
最高出力:200kW(272ps)/5500-6500rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/2000-5400rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後245/35R20
車両本体価格(税込):644万6000円(テスト車:685万3000円)
【問い合わせ】
フォルクスワーゲン カスタマーセンター
TEL 0120-993-199
【関連リンク】
・フォルクスワーゲン 公式サイト
https://www.volkswagen.co.jp