【ランボルギーニ ヒストリー】ブランド最後の2ドア/フル4シータースポーツ

「マルツァルからエスパーダへ」斬新な4シーターモデルの登場(1967-1975)【ランボルギーニ ヒストリー】

【ランボルギーニ ヒストリー】マルツァルのフロントスタイル
現代の視点でも斬新さにあふれているランボルギーニ マルツァル。この魅力的なショーカーと、これをベースに生産されたエスパーダまでを解説する。
スーパースポーツブランドの一角として確固たる地位を築き始めたランボルギーニは、ライバルブランドが持たないフル4シーターのラグジュアリーなGTモデルを計画。ベルトーネのマルッチェロ・ガンディーニが手掛けたデザインを元に、プロトタイプのマルツァルと市販モデルのエスパーダが誕生する。

Lamborghini Marzal & Espada

ライバルには存在しないGTを求めて

350 GT、400 GTの直接の後継モデルたるイスレロの開発が進む中、フェルッチオはもうひとつのモデルの姿を、その胸中に描いていた。より豪華でラグジュアリーなフル4シーターのキャビンを持つGT……。それはライバルであるフェラーリにも存在しないプロダクトであったから、実際に生産が開始されれば、ランボルギーニにとって大きな成功を収めるだろうというのが、フェルッチオの考えだったのだ。

フェルッチオは、そのプロトタイプの製作をカロッツェリア・ベルトーネに依頼。マルッチェロ・ガンディーニによってデザインされ、1967年に完成されたそのプロトタイプこそが「マルツァル」にほかならなかった。

V12の片バンクのみを使用した、直6エンジンを搭載

マルツァルはデザイン・プロトタイプであるがゆえに、きわめて斬新なメカニズムを採用していた。ベースとされたシャシーはミウラのもので、そのリヤにはランボルギーニの4.0リッターV型12気筒エンジンを片バンクのみ使用した2.0リッター直列6気筒エンジンを横置き搭載。

それによってフル4シーターのレイアウトを可能にするキャビンを実現してみせたのだ。左右のドアは巨大なガルウイング方式で、メーターパネルやリヤウインドウのルーバーなどには六角形がモチーフとして採用されていた。

ガンディーニによる斬新なデザインはエスパーダに採用

マルツァルは1967年のジュネーブ・ショーに出品され、観衆の目を大いに刺激したが、フェルッチオにとってそれは、特に運動性能においては満足できるものではなかった。しかしながらその一方で、ガンディーニによるデザインが魅力的であったことは確かで、結果としてV型12気筒エンジンをフロントに搭載したフル4シーター車を、マルツァルをベースに開発することが指示された。マルツァルのデビューから1年後、1969年のジュネーブ・ショーで発表された「エスパーダ」がそれだ。

丸型4灯式のヘッドランプと大型のグリルを持つエスパーダのエクステリアデザインは、実に堂々とした、そしてGTとしての優雅で高性能な走りを予感させるものだった。

V12エンジンを搭載し堂々たる風格を表現

搭載されたエンジンは、320PSを発揮した4.0リッターV型12気筒エンジン。そのほか組み合わされる5速MTやデファレンシャル、コイルスプリングを用いる4輪ダブルウイッシュボーンサスペンション、4輪ディスクブレーキ等々のメカニズムは、基本的には2+2 GTのイスレロのものと共通だった。ただし、装備内容はランボルギーニの最上級GTであることを物語るかのように一気に豪華なものとなり、エアコンやパワーウインドウなどは標準。さらには多彩なオプションが用意されていた。

エスパーダが設計面で最も大きな特徴としているのは、セミモノコック構造を採用していることだろう。センターセクションの前後にはサブフレームが接続され、エンジンやサスペンションなどは、すべてここにマウントされる仕組みだ。当時ランボルギーニが発表したデータによれば、エスパーダの最高速度は245km/h。これは同時期のGTとしては世界の第一線に位置する運動性能といえる。

アメリカ市場へ進出したシリーズ2

1970年になると、ランボルギーニは早くもエスパーダにマイナーチェンジを実施する。一般的にはシリーズ2と呼ばれるこのモデルは(シリーズ2の誕生で、初期モデルは便宜的にシリーズ1とも呼ばれるようになった)、エクステリアではホイールやリヤパネルのデザインなどが変更されたにすぎないが、インテリアではインストゥルメントパネルのデザインが一新されるなど、視認性と機能性がさらに高められたことが大きな違いだ。

また搭載エンジンも、イスレロ Sと同様に10.7の高圧縮比を設定した350PS仕様となり、排出ガス規制でもアメリカのレギュレーションに適合したことから、ランボルギーニにとって最も魅力的な市場へと、ついにエスパーダは上陸を果たすことになった。

市場に適合するために進化を繰り返す

さらに1973年にはエスパーダには再度マイナーチェンジが施され、シリーズ3へと進化を果たす。この時の改良策で最も大きなものは、ステアリング(エスパーダのステアリングはイスレロのウォーム・アンド・ナット式ではなく、ラック・アンド・ピニオン式だった)にZF製のパワーアシスト・システムが組み込まれたこと。

そして3速のクライスラー製ATの選択が可能になったことだろう。これらはいずれもアメリカ市場からの強い要望によるもので、1975年にはアメリカの衝突安全基準に適合させるために5マイルバンパーを装着したエスパーダも生産されるようになり、これをシリーズ4と呼ぶこともある。

エスパーダは、最終的には1978年まで生産が継続され、トータルで1217台がカスタマーのもとへと出荷されたという。これはランボルギーニにとっては、成功作のひとつというべきものなのだろうが、その後継モデルが現在に至るまで誕生しなかったのは残念なところだ。

4シーターという意味ではSSUV(スーパースポーツ・ユーテリティー・ヴィークル)のウルスが現行ラインナップにはあるが、2ドア、あるいは4ドアの4シーターモデルの復活は噂こそあれ、なかなか実現しない。エスパーダの現代版、それに期待するのは私だけだろうか……。

SPECIFICATIONS

ランボルギーニ マルツァル

発表:1967年
エンジン:直列6気筒DOHC
総排気量:1965cc
圧縮比:9.2
最高出力:128kW(175ps)/6800rpm
トランスミッション:5速MT
駆動方式:RWD
車両重量:1200kg

ランボルギーニ エスパーダ

発表:1968年
エンジン:60度V型12気筒DOHC
総排気量:3939cc
圧縮比:9.5
最高出力:239kW(325ps)/6500rpm
トランスミッション:5速MT
駆動方式:RWD
車両重量:1480kg
最高速度:245km/h

ランボルギーニ エスパーダ シリーズ2

発表:1970年
エンジン:60度V型12気筒DOHC
総排気量:3939cc
圧縮比:10.7
最高出力:257kW(350ps)/7500rpm
トランスミッション:5速MT
駆動方式:RWD
車両重量:1635kg
最高速度:250km/h

解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

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著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…