アルピーヌA110S × 池沢早人師 Part.3

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【第3回:ツーリング&ユーティリティ編】

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【第3回:ツーリング&ユーティリティ編】
池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【第3回:ツーリング&ユーティリティ編】
池沢先生が「21世紀の狼」とイチオシするアルピーヌ A110S。今回はそのユーティリティとツーリング性能についてレポートしていただく。

希代のライトウェイトスポーツはロングツーリングも快適

時代を越え、クルマ好きのバイブルとして愛読され続ける『サーキットの狼』。その作者である池沢早人師先生のルーツは元祖ライトウェイトスポーツのとして名を馳せるロータス ヨーロッパであり、同作品の主人公である“風吹裕矢”の姿は当時の池沢先生そのもといっても過言ではない。

軽量さを武器に大排気量・大パワーを誇るスーパーカーたちとの戦いは今もなお語り継がれ、ライトウェイトスポーツの魅力を世に知らしめた。そこで、今回も「ロータス・ヨーロッパの再来」との呼び声の高いアルピーヌ A110Sを連れ出し、池沢先生に快適性とロングツーリングの実力を語ってもらう。

20年の時を経て復活を遂げたアルピーヌの実力

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【第3回:ツーリング&ユーティリティ編】
ロングドライブの合間に枝道に入ってひと時の休息を得る池沢先生とアルピーヌ A110S。小回りが利くコンパクトなA110Sは行きたい場所への制限が少ないのも魅力だ。

1973年にルノー傘下となったアルピーヌはフランス生まれのチューニングブランドであり、元祖A110がWRCでマニュファクチャラーチャンピオンを獲得したことで世界を震撼させた。しかし、1995年に生産を中止したアルピーヌ A610を最後に表舞台から名前が消えてしまった。そして2017年。新型A110と共にアルピーヌの名前が復活し、往年のファンだけでなく新たなスポーツカーファンの注目を集めることとなる。

2019年、東京モーターショーに出展されたアルピーヌ A110を目の前にし、その個性的なスタイルと軽量な小排気量ミッドシップというパッケージングに足を止めた。元祖A110を近代的にオーマージュしたスタイルはシンプルで美しく「面白そうなクルマだなぁ」と直感し、久しぶりにワクワクしたことを覚えている。

そんな新型A110のパワーアップ版であるA110Sに試乗する機会が与えられたボクは、ライトウェイトスポーツの元祖というべきロータス ヨーロッパとの思い出深い箱根を走りまわったのは、前回のレポートでお届けした通り。回頭性に優れアクセルに対して敏感に反応してくれるピュアスポーツとの時間はとても楽しいものであったが、実は新型A110Sの楽しさはロングドライブにも隠されていた。

まずはA110Sの快適性を再検証してみよう!

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【第3回:ツーリング&ユーティリティ編】
試乗車はオプションのカーボンルーフを装着。シンプルかつストイックな雰囲気をもったエクステリアに、スポーティなアクセントがマッチしている。

往年の名車と呼ばれるA110をイメージしたスタイルは、一見して「アルピーヌ」というオーラを身に纏う。クーペスタイルのボディは最近では希少な存在になりつつあるが、スポーツカーの魅力はクーペに尽きる。キャラクターラインが強めにプレスされたボディが美しいA110Sだが、個人的な感想としてはフロントスポイラーのクリアランスが高すぎる気がしてならない。リップスポイラーを追加できれば、スタイルがより戦闘的になると思う。これも実用性を考えてのデザインなのだろうが、やはり車高を低く見せることもスポーツカーにとっては重要なファクターになるはずだ。

そして、前回、前々回のレポートでもお伝えしたが、A110Sの魅力は派手なエアロパーツを排除し、ボディ自体で整流効果を実現していることだ。特にリヤエンドの下部に設えたディフューザーが大きなアクセントになっている。ロータス ヨーロッパではスタビライザーがフロントビューに個性を出しているように、A110Sではディフューザーがリヤビューに華を添えていることは間違いない。これだけ思いっきり大きく超長いディフューザーを備えたクルマを市販車で見たことがない。憎いぐらい嬉しいポイントである。女性に例えるなら着飾ることなくプロポーションの良さで勝負しながらも、ワンポイントで上質なアサクセサリーを身に着けているようなイメージだ。

A110Sはパコダ風のスリットが刻まれたルーフがカーボン製に変更されているのも見逃せないポイントだ。スタイルを引き締める効果だけでなく軽量化に貢献することで、ライトウェイトスポーツとしての走りを支えるひとつになっている。クルマの天井を軽くすることはロールセンターを下げることになり、ピュアな走りを実現する秘策なのかもしれない。

ストイックな雰囲気はスポーツカーファンにはたまらない

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【第3回:ツーリング&ユーティリティ編】
視認性が高いコクピットとハイバックのバケットシートがドライバーをやる気にさせる。シートベルトキャッチがシートとの僅かな隙間に備わり、装着しにくかったのは数少ないA110Sのマイナスポイントか。

室内の雰囲気は悪くない。最近の流行である近未来的な演出はないが、レザーとバックスキンのコンビネーションを持つステアリングはドライバーをその気にさせ、ドアポケットを持たないストイックな雰囲気はスポーツカーファンには堪らない味付けだ。

肉薄な座面を持つサベルト製バケットシートに滑り込むため、太めのサイドシルを越えるのもA110Sに対する儀式になる。この骨太なイメージが安心感を与えるものの、ミニスカートを履いた女性をナビシートに迎えることは難しいことを覚えておくべし。

リヤの視認性は一般的な実用車からすれば決して良好ではないものの、フェラーリやランボルギーニと比べれば必要にして十分なレベル。オプションではあるがバックモニターを装備することができるので、後方視界を重視したいオーナーは選択することをおすすめする。

「強いクセ」がロータス ヨーロッパのイメージと重なる

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【第3回:ツーリング&ユーティリティ編】
2シーターミッドシップでは荷物の積載を諦めるケースが多いが、リヤとフロントに備わるスペースは存外に広く、2泊3日分の旅行程度なら余裕でカバーできそうだ。エンジンはカバーされて見えないが、ガラスハッチなどで“魅せる”演出があっても良いと思う。

ミッドシップエンジンで後輪を駆動するA110Sは、一般的な乗用車とは異なりラゲッジルームが狭いものの、フロントとリヤにスペースが設けられ、荷物を分散することで2泊3日程度の旅支度なら積むことができそうだ。また、エンジンの整備性の悪さもミッドシップならではのもの。リヤトランク内部に隠された3本のネジを緩めてガラスを開け、エンジンカバーを外すことでエンジンに対面できる。しかし、残念なことにエンジン自体はエキサイティングなデザインではない。カバーを外してガラス越しに見えるエンジンにワクワクさせる演出があれば「スポーツカー」を愛でる楽しさが倍増するはず。今後の課題としてボクの意見が開発陣に伝われば嬉しいのだが・・・。

アルピーヌ A110Sというクルマはピュアスポーツであり実用車ではない。そのため、豪華さや快適さを求めるのはナンセンスなことであり求めるべきものでもない。今風にいえば「クセが強い」というクルマなのだが、その個性が弱体化してしまった名ばかりのスポーツカーとは一線を画する大きな魅力になっていると思う。近代的に進化しているとはいえ、そんな「強いクセ」がロータス ヨーロッパのイメージと重なり、ブランドが違うにも関わらず「ロータス ヨーロッパの再来」と呼ばれる所以なのかもしれない。

A110Sの実力は高速道路でも十分に堪能できる!

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【第3回:ツーリング&ユーティリティ編】
フルフラットボトムとリヤディフューザーが275kgものダウンフォースを生むため、ハイウェイクルージングも安定してこなぜる。クイックなステアリングは素早いレーンチェンジを促し、ワインディングだけでなく高速走行でも大きな武器となる。

ホールド製に優れたサベルト製バケットシートの背後にミッドシップされた1.8リッターのターボエンジンと7AT(DCT)の組み合わせは快適で、高速道路での追い越しやレーンチェンジでも威力を発揮してくれた。ステアリングはクイックでシャープな印象だが、直進安定性に優れ気難しさは一切ない。法定速度でクルージングしているとピュアスポーツのイメージは影を潜め、上質なGTカーのような快適さが全身を包んでくれるのだ。

ところが、アクセルに少しだけ荷重を掛けると1110kgという軽量な車体は、鞭を入れたサラブレッドのように力強い加速でスポーツカーとしての実力を見せつける。フェラーリやポルシェのようにトルク感でボディを押し進めるのではなく、風のように軽い印象で加速していく感覚はライトウェイトスポーツならではの爽快感。

この安定感はアンダーボディに施された整流効果が大きく貢献していることが分かる。リヤスポイラーを使って路面に押し付けるのではなく、ボディエンドに設えたディフューザーとフルフラットフロアにより、250km/hでの走行時には合計で275kgものダウンフォースを発生。路面に吸いつくような安定感は見た目のギミックではなく、本当の意味での性能を追求したリアルなピュアスポーツならではの実力なのだ。

ロングドライブでも「走る楽しさ」を与えてくれた

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【第3回:ツーリング&ユーティリティ編】
池沢先生にとって「自宅から自走でサーキットに行き、レースを楽しんで自走で帰る」というのは理想のスポーツカーたる第一条件。これまではポルシェがその理想にもっとも合致していたが、アルピーヌ A110Sも負けていない。是非一度、サーキットも走ってみたいと語る。

車内の静粛性は昨今の高級スポーツカーに比べれば見劣りするが、不快さは全く感じられなかった。逆にエンジンの鼓動を程よく感じることでドライブに対する緊張感が保たれ、走る喜びとしての巧みな演出になっている。ワインディングでは締め上げられたサスペンションが絶妙なロードホールディングを見せつけたが、高速道路を使ったロングドライブでは「硬い」という印象は無く、路面の継ぎ目を絶妙にいなしてくれる快適さを持ち合わせているようだ。また、半径の小さなコーナーをハイスピードで進入しても気持ちの良いロール感と共にサスペンションがGを受け止めている安心感を与えてくれる。

軽量さを味方に付け、292psというパワーを存分に楽しめるA110S。ワインディングはもちろんのこと、ロングドライブでも「走る楽しさ」を与えてくれた。広大なヨーロッパ大陸でのトランスポートを考えた味付けなのだろうが、その実力は日本という国境を持たない島国でも十分に楽しむことができ、アルピーヌA110Sというクルマが決して「峠専用」、「サーキット専用」ではないことに気づくはずだ。

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)
PHOTO/森山良雄(Yoshio MORIYAMA)

【SPECIFACATIONS】
アルピーヌ A110S
ボディサイズ:全長4205×全幅1800×全高1250㎜
ホイールベース:2420㎜
車両重量:1110㎏(※グリトーネルマットのみ1120kg)
エンジン:直列4気筒DOHC 16バルブ+ターボチャージャー
総排気量:1798cc
最高出力:215kW(292ps)/6420rpm
最大トルク:320Nm/2000‐6420rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動動方式:MR
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前後320mm
タイヤサイズ:前215/40R18 後245/40R18
最高速度:260km/h
0-100km/h加速:4.4秒
WLTCモード燃費:12.8㎞/L
車両本体価格(税込):889万円

【問い合わせ】
アルピーヌ コール
TEL 0800-1238-110

【関連リンク】
・アルピーヌ・ジャポン公式サイト
https://www.alpinecars.jp

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