3年ぶりのF1鈴鹿GP! アストンマーティンF1チーム探訪記

【F1日本GPパドック探訪記】アストンマーティンF1は2022年鈴鹿をどう戦う? ベッテル鈴鹿ラストランにエール

刻々と変わるコンディションの中、タイヤやマシンのマイレージを意識してじっくりレースセットアップを煮詰めていた。
刻々と変わるコンディションの中、タイヤやマシンのマイレージを意識してじっくりレースセットアップを煮詰めていた。
個人的に初めてナマでF1を見たのは、1988年の日本GP。そう、アイルトン・セナがマクラーレンMP4/4ホンダで初のワールドチャンピオンを獲得した、あのレースだ。その後、何度か観戦しているものの、この仕事に就くようになってからは逆に足が遠のいてしまっていた。そんな時、アストンマーティン・ジャパンからアストンマーティン・コグニザント・フォーミュラワンチームの応援に行きませんか? と夢のようなお誘いをいただき、金曜のみながら個人的にも久々に鈴鹿へF1を見に行くことができたのだ!

Aston Martin Aramco Cognizant F1 Team

鈴鹿に3年ぶりにF1が帰ってきた!

昨年のレッドブル・ホンダ&マックス・フェルスタッペンのチャンピオン獲得、そして久々の日本人ドライバー角田裕毅の参戦によって、再び日本でも盛り上がりを見せていることもあってか、今年の鈴鹿のチケットは完売だという。おかげで生憎の雨に見舞われた金曜フリー走行にもかかわらず、朝からサーキット周辺道路は混雑し、会場内も人が溢れる賑わいぶりを見せていた。

うやうやしい箱に入ったパドッククラブのクレデンシャルカードを受け取って、パドックの中へ。そこでいきなりアストンマーティン・コグニザント・フォーミュラワンチームのパドックスイートでチーム代表のマイク・クラックにインタビューするチャンスを得た。

「雨だとチャンスがあるね。特に前回のシンガポールのようなミックス・コンディションのポテンシャルがあると思ってる。見るお客さんには辛いけどね(笑)。今日はエンジンやパーツのマイレージ、タイヤをセーブしながら、マシン、ドライバーのセットを詰めていく予定だよ。これまで何回か大きな改良を加えたほか、小さなアップデートもいっぱい加えて、調子も上がってる。シンガポールではトリッキーなコンディションだったけど、戦略が功を奏してミスなく2台入賞できたしね」と語る通り、前回のシンガポールではダブル入賞を果たしチームは上り調子にある。

チーム代表へのインタビュー中にまさかの遭遇

もちろんこれまでの結果を見ると、表彰台獲得もなく苦しい状態が続いているが、彼らは5年計画でプログラムを進めており、未来に対して明るい希望を持っているという。

「アストンマーティンの前は小さなチームだったけど、今は違う。新しいファクトリーも建設中で、2024年には新しい風洞も稼働し、すべての機能が1ヵ所に纏まることになる。もちろん我々の活動と市販車の開発も様々な分野で良いシナジーを産んでいくはずだ」

そしてもうひとつの希望が、フェルナンド・アロンソの加入だ。「アロンソの加入はビッグチェンジだ。たくさんの経験があるし、とても速く強いドライバーだからね。とてもハングリーだし。彼は40歳で私は50歳だけど、お互い気持ちは30歳と40歳って感じだね。きっとチームをプッシュしてくれるはずだよ!」

一方で、今季のチームを語る上で欠かせないのが、偉大なチャンピオンであり、チームのエースであるセバスチャン・ベッテルの引退である。実はクラックはザウバー時代にベッテルのF1デビューを見届けており、特別な想いがあると話す。

「とても不思議な感じがするね。彼とはデビューの時のザウバーと、最後のチームで一緒なんだから。昨日も一緒にコースを歩いて思い出話をしながら笑い合ったよ。日本に限らずセバスチャンにとっては全てがラストレースだけど。リタイアして後悔しないように集中したいね」

……と話していたら、ベッテルとランス・ストロールが朝食を食べるために現れたりするのが、パドックスイートのすごいところ。コロナ感染対策もあり、直接インタビューすることができないのは残念だったけれど、「グッドラック」とエールを送ってピットへ移動する。

プラクティスにむけて徐々に盛り上がる空気

以前、WECでアストンマーティン・チームのピットを訪問したことはあるけれど、F1はまた別の世界だった。ちなみに今年だけで22レースもあるので、ピットの設備を6セット用意し、振り分けて使っているのだという。それだけでもF1の規模の凄さに圧倒される。

すでにピットでは最初のプラクティスに向け、スタッフが忙しなく動いていたのだが、ヘルスケアの担当者が緑色のゴム紐っぽいものを各自に配っていく。実はこれ、ストレッチ用の道具で、本格的な作業に入る前に準備運動をするのが日課なのだという。合図と共に全員が律儀に体操をする様子はなんだか微笑ましい。

それが終わるとストロールのマシンにタイヤを取り付け、ピットレーンでタイヤ交換の練習が始まった。時折雨が激しくなる状況ではあったものの、何回も練習してフォーメーションを確認するのだが、まさに神業。あっという間に4本を交換する様子はテレビで見るのとは全く違う迫力がある!

いよいよプラクティス開始。雨は相変わらず激しく降っておりマシンには深溝のレインタイヤが装着される。そこでよく見ると、コクピット脇のスリットが先までは開いていたのに、完全にカバーされたカーボンパネルに変わっていた。そういうディテールに気づくのもまた楽しい。

現場でしかわからないディテールに感動

するとピットの奥からヘルメットを被ったベッテルが現れた。その瞬間、ピットの中はピリッと緊張した空気になり、それまで笑顔だったメカニックたちもキビキビと真剣な表情で準備を進める。

昔のNA多気筒時代と違って1.6リッターV6ハイブリッドエンジンの音は比較的大人しく、マシンの後ろにいても耳栓がいらないほど。では迫力不足か?というと、ホームストレートを各車が全開で駆け抜けていくだけで、体の奥から思わずゾクゾク、ブルブルとしてくる。やはり実体験に勝るものはないと改めて感じる。

他に驚いたのは、普段見慣れている鈴鹿のコースに対してマシンが大きいことと、S字からダンロップに向けての挙動がナチュラルではなく、カキッ、カキッと信じられない速さとクイックな動きで曲がっていくことだ。特にコーナー時のマシンの速さと安定ぶりは尋常でなく、大雨なのに縁石にタイヤが乗ってもスライドもせず曲がっていく様子はグラウンドエフェクトカーの凄さをまざまざと見せつけられた気がした。

日曜に向けて高まる期待

さて、気になるアストンマーティン・コグニザント・フォーミュラワンチームの初日の結果はというと、フリー走行1回目でストロールが14位、ベッテルが20位。午後の2回目でベッテルが15位、ストロールが18位というもの。どちらも刻々と変わるコンディションの中、クラックが話していたように、タイヤやマシンのマイレージを意識してじっくりレースセットアップを煮詰めているという走り方だったので、日曜の決勝に向けて着実にステップを上がっている……という感じに見えた。

ということで、土曜、日曜はぜひアストンマーティン・コグニザント・フォーミュラワンチームの好結果に期待して、ベッテルの鈴鹿ラストランを見届けたいと思う。

REPORT/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
PHOTO/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)、Aston Martin

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藤原よしお

クルマに関しては、ヒストリックカー、海外プレミアム・ブランド、そしてモータースポーツ(特に戦後から1…