2022年に乗った中で地味だけど見逃せなかったクルマ「BMW 318i」

2022年注目されなかった隠れた名車「BMW 318i」はマイナーチェンジで別物になっていた

軽やかな乗り心地は「タイヤの周囲にソフトな真綿を何重にも巻き付けたのではないかと思えるほど、路面からのショックを優しく受け止めてくれる」と表現したい。
軽やかな乗り心地は「タイヤの周囲にソフトな真綿を何重にも巻き付けたのではないかと思えるほど、路面からのショックを優しく受け止めてくれる」と表現したい。
2022年も多くの新型車を試したプロのモータージャーナリストだが、その試乗車の中には地味ながら心を揺り動かされた名車がある。今回モータージャーナリスト大谷達也が挙げた2022年の「隠れた名車」は意外なエントリーグレードであった。

BMW 318i

2.0リッター直4エンジンが白眉

マイナーチェンジを受けた「BMW 318i」。世の中の注目をほとんど集めなかったのに、これくらいデキのいいクルマは滅多にないだろう。

最新の318iに積まれているエンジンは、B48B20Aと呼ばれる排気量2.0リッターの4気筒ターボ。先代のように3気筒1.5リッターターボエンジンを積んでいるわけではない。ちなみにB48B20Aは最新の320iにも搭載されている。ただし、最高出力と最大トルクは318iが156PS&250Nmで、320iが184PS&300Nmと少し差がある。つまり、320iのデチューン版が318iなのだ。

じゃあ、156PS&250Nmで不十分かといえば、そんなことは決してない。市街地を普通に走っていても、常用域の1500〜2500rpmでぐっと力強さが高まってくれるので、本線への合流とか追い越しなどでの加速は軽快そのもの。おまけに、アイドリング回転数からレッドゾーンが始まる6500rpmまでエンジンノイズはごく小さく、バイブレーションはほとんど感じられない。つまり、速さの点でも静粛性の点でも、まったく不満を覚えないのが、この4気筒エンジンの特色なのである。

ランフラットらしくない乗り心地

おまけに乗り心地がバツグンによかった。そう言うと、「おいおいおい、デビューしたての頃、G20系の乗り心地があれだけよくないって騒いでいたのが、あなたたち自動車評論家でしょ?」なんていう反論にあいそうだが、本当のことだから仕方がない。言い換えれば、2019年にG20を発売して以降、BMWは懸命にその乗り心地の改善に取り組んできた。その成果が318iでは如何なく発揮されていたというべきだろう。

私がステアリングを握った試乗車は、これまでと同じようにランフラットタイヤ(サイズは225/50R17)を履いていたが、これがもう、ランフラットとは思えないほど軽やかな乗り心地だったのだ。その、なんともいえないソフトな感触について、私はあるインプレッションで「タイヤの周囲にソフトな真綿を何重にも巻き付けたのではないかと思えるほど、路面からのショックを優しく受け止めてくれる」と表現したことがあるが、この思いはいまもまったく変わっていない。

しかも、バネ下が重いランフラットにありがちな、速い周期でタイヤが上下するシーンでもバタついた印象をあたえないほか、高速道路のジョイント部分を乗り越えても瞬間的にグリップが抜ける傾向も払拭されていた。つまり、「ランフラットらしさ」がまるで認められない乗り心地だったのだ。

ライバルと比較して価格も魅力

318iはハンドリングも優れていた。加減速をしたりコーナリングをしたりすれば、318iは当然のようにピッチングやローリングを起こすけれど、ボディの動きは決して過大とはいえないうえ、ボディにかかる前後、左右のGと挙動の関係が常に一定に保たれるので安心感が強い。電子デバイスでアジリティを過剰に演出したり、様々な仕掛けで足まわりの動きを不自然に制御するクルマに比べると、はるかに清々しく、そして信頼に足るハンドリングだと思う。

また、軽合金を多用した軽量ボディのなかには、足まわりから衝撃が加わったときに「カーン」と響くような振動を伝えたり、ブッシュ類がブルブルと震えるダンピングの悪さを露呈するモデルもあるけれど、318iのボディは剛性が高いだけでなく振動を減衰させる特性も優秀で、乗る者に優れた質感を味わわせてくれるのである。

しかもBMW3シリーズにはハンズオフが可能なアクティブレーンキーピングが装備されているうえ、ナビの目的地を音声入力で検索することも可能。つまり、この領域はメルセデスCクラスに優るとも劣らないレベルなのだ。

それでいて価格は549万円からで、Cクラスの最廉価版よりさらに50万円も安い。これを「隠れた名車」と呼ばずして、なんと呼べばいいのか。ドイツ製Dセグメント・セダンを検討されている方には、是非一度、試乗することをお勧めしたいモデルである。

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…