ポルシェとコラボの異色作「メルセデス・ベンツ500E」を解説

「続々とドイツへ流出!?」メルセデス・ベンツ500E人気の背景を考察「今ネオクラシックが熱い」

1991年のパリ・ショーで公開されたメルセデス・ベンツ500E。大ヒット作のW124に、ボディに迫力あるブリスター・フェンダーを与えたセダンである。
1991年のパリ・ショーで公開されたメルセデス・ベンツ500E。大ヒット作のW124に、ボディに迫力あるブリスター・フェンダーを与えたセダンである。
最近クルマ好きの熱い注目を集めているのが「ネオクラシック」だ。粛々と進む電動化の波に抗うように、内燃機関、自然吸気、MTで、ABSなし。もちろんACCなどもってのほかで、極度にシンプルなクルマ達である。そんな今注目のネオクラの中から、今回は伝説的スーパーサルーンの「メルセデス・ベンツ500E」を紹介する。

MERCEDES-BENZ 500E

グループC由来のエンジンを積むスーパーサルーン

未だ衰えぬ堅牢なボディ剛性、高いスタビリティをもつ足まわり、そして扱いやすさと高い実用性は大いなる魅力である。
未だ衰えぬ堅牢なボディ剛性、高いスタビリティをもつ足まわり、そして扱いやすさと高い実用性は大いなる魅力である。

昨年取材でドイツを訪れた時のこと、彼の地のジャーナリストに話しかけられた。「日本にはあとどのくらい500Eが残ってると思う? 日本から来るクルマは素晴らしい。ローマイレッジだし、メンテナンスは行き届いているし、内外装のコンディションもいいし、融雪剤の上を走ったクルマが少ないからボディの状態がいい。ドイツではすごい人気で、どんどん日本から戻ってきてるんだ」

果たして、それほどまでに人気の高い「メルセデス・ベンツ500E」とはどんなクルマなのか? 今でもネオクラシックの筆頭に挙げられるメルセデス・ベンツW124型(1994年からEクラスと呼ばれる)は、W201型190Eをスケールアップしたミディアム・クラスのサルーン&ワゴンとして1985年に発売された。1995年までに270万台以上と、メルセデス史上最多販売台数を記録する大ヒットとなったW124だが、1991年のパリ・ショーで突如、そのボディに迫力あるブリスター・フェンダーを備えたセダンが公開された。それが500Eだ。

その名が示す通り、ノーズの中に収められているのはR129型500SL譲りのアルミヘッドをもつ4973ccV型8気筒DOHC32バルブ“M119”ユニット。実はこのエンジンは1989年のル・マン24時間を制したグループCマシン、ザウバー・メルセデスC9に搭載されていたM119Lの直系というべきものであった。その最高出力は実に330PS、最大トルクも490Nmと、ポルシェ911ターボ(964型)を上回るもの。『CG』誌によると0-100km/h加速6.6秒、最高速度254km/hと当時のサルーンとしては出色の出来を誇った。

ポルシェが開発・生産を行った

それに合わせ、フロントブレーキをSLから流用した直径300mmのブレンボ製ベンチレーテッドディスクと、190E 2.3-16譲りの4ポットアルミキャリパーに変更。リヤブレーキにも直径275mmのベンチレーテッドディスクと2ポッドスチールキャリパーを装着したのに加え、ABS、ASRも標準装備。タイヤサイズも前後225/55ZR16に変更された(その後1993年に排ガス規制の影響でエンジン出力が若干ドロップダウンしたり、ブレーキが変更になったりと小変更が加えられている)。

もうひとつ、この500Eの特徴といえるのは、その開発をポルシェのヴァイザッハ研究所が担当し、生産もポルシェのツッフェンハウゼン工場のラインで行われたことだ。当時ポルシェは深刻な経営危機に陥っており、同じシュトゥットガルトに本拠地を置くメルセデスが救済の手を差し伸べた……という背景があるのだが、1985〜86年にポルシェがパリ・ダカール・ラリーに出場した際に、ゲレンデヴァーゲンに928のV8エンジンを搭載したサポートカーを製作したり、インディ用V8をデチューンしたエンジンをC124クーペに積んでテストを行なったりと、表に出ないところで両社は交流を持っていたのである。

ちなみに1993年モデルから生産拠点がポルシェからメルセデスに移ったと言う話もあるが、実際は全モデルを通じてツッフェンハウゼンのポルシェ工場で組み上げられたボディを、ジンデルフィンゲンのメルセデス工場に送って品質チェックを受けた後、再びツッフェンハウゼンに送り戻して最終組み立てを行い、ジンデルフィンゲンで最終検査を経てデリバリーするという、複雑な生産工程を採っていたという。それゆえポルシェ・ミュージアムには「ポルシェが手がけたモデル」として、今も500Eが展示されている。

その多くが日本に導入された背景

そうした経緯で誕生したホット・サルーンの500Eだが、本国での新車価格は13万4520ドイツマルクという高価格だったこともあり、総生産台数は1万479台に留まっている。日本でも新車価格は1550万円と300Eの倍以上であったが、バブル景気の影響もあり、正規だけで1184台、並行も入れると2000台以上が輸入されたと言われている。

件のドイツ人ジャーナリストが「日本は500Eの宝庫」みたいな言い方をしていたのには、そうした理由があったのだ。しかし今や1000台近い500Eが里帰りしたとも言われ、その希少価値は日本においてもどんどん高くなっている。

実際、今の路上で500Eをドライブしても、未だ衰えぬ堅牢なボディ剛性、高いスタビリティをもつ足まわり、そして扱いやすさと高い実用性を誇りながらも、一度アクセルペダルに力を込めると、ホットロッドと呼びたくなるようなパワーと自然吸気大排気量エンジンの気持ちよさは格別だ。さすがはメルセデス・ベンツとポルシェという無双のコラボが手がけだだけはある。

SPECIFICATIONS

メルセデス・ベンツ500E

ボディサイズ:全長4755×全幅1795×全高1410mm
トレッド:F1538m R1529mm
ホイールベース:2800mm
車両重量:1730kg
エンジン:V型8気筒DOHC
ボア×ストローク:96.5×85.0mm
総排気量:4973cc
最高出力:326PS(240kW)/5600rpm
最大トルク:481Nm(49.0kgm)/3900rpm
トランスミッション:4速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:Fマクファーソン式ストラットRダブルウイッシュボーン
ブレーキ:F&Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:F&R225/55ZR16

1982年登場のE30型3シリーズをベースに開発されたM3。ライバルに比べ小型の車体やジオメトリー変化が大きいリヤのセミトレーリングアーム・サスペンションなどを補うために前後トレッドを大幅に拡大した。

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藤原よしお 近影

藤原よしお

クルマに関しては、ヒストリックカー、海外プレミアム・ブランド、そしてモータースポーツ(特に戦後から1…