往年のBMW M3(E30)の歴史と魅力を解説

「あの頃のM3に注目が集まるのはなぜ?」E30型BMW M3の魅力を解説「今ネオクラシックが熱い」

1982年登場のE30型3シリーズをベースに開発されたM3。ライバルに比べ小型の車体やジオメトリー変化が大きいリヤのセミトレーリングアーム・サスペンションなどを補うために前後トレッドを大幅に拡大した。
1982年登場のE30型3シリーズをベースに開発されたM3。ライバルに比べ小型の車体やジオメトリー変化が大きいリヤのセミトレーリングアーム・サスペンションなどを補うために前後トレッドを大幅に拡大した。
最近クルマ好きの熱い注目を集めているのが「ネオクラシック」だ。粛々と進む電動化の波に抗うように、内燃機関、自然吸気、MTで、ABSなし。もちろんACCなどもってのほかで、極度にシンプルなクルマ達である。そんな今注目のネオクラの中から、今回はBMWの現在のブランド価値を作ったと言ってもいい初代「M3」を紹介する。

BMW M3 (E30)

ネオクラシックとは

迫力のブリスターフェンダー、フロント&リヤスポイラーがM3の特徴だ。
迫力のブリスターフェンダー、フロント&リヤスポイラーがM3の特徴だ。

今世界的な人気を博している、いわゆる「ネオクラシック」「ヤングタイマー」と呼ばれる1980年代以降のクルマたち。その中にあってフェラーリF40やポルシェ959といったスーパースポーツ系以外でアイドル的な人気を集めているのが、BMW M3、ランチア・デルタ・インテグラーレ、日産スカイラインGT-Rといったモデルたちだが、この3車にはひとつの共通項がある。それがグループAだ。

グループAは1981年に再編されたモータースポーツ・カテゴリーにおいて、連続する12か月間に2500台以上生産された4座席以上のツーリングカーを対象としたものである。

この新規定にいち早く反応したのがメルセデス・ベンツで、1982年に発表されたW201型メルセデス・ベンツ190Eをベースに、イギリス・コスワースが手がけた2.3リッター直4DOHC16バルブを搭載したエヴォリューションモデル、190E 2.3-16を1983年に発表。1984年のニュルブルクリンク新コース開場式では20人のプロレーサー招いてワンメイク・レースを開催し若きアイルトン・セナが優勝を果たしたほか、ドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)にも出場するなど大きな話題を呼んだ。

E30型M3の誕生

その状況をバイエルンの雄が黙って見ているわけがなかった。BMWはモータースポーツ部門のBMW M GmbHと共に、1982年登場のE30型3シリーズをベースに開発を開始。ライバルに比べ小型の車体やジオメトリー変化が大きいリヤのセミトレーリングアーム・サスペンションなどを補うために前後トレッドを大幅に拡大。

それに伴いブリスターフェンダー、フロント&リヤスポイラーを追加したほか、Cピラーとリヤウインドウの角度を寝かせ、トランクリッドの高さを上げるなど、ボンネットやルーフなど一部を除きボディのほぼ全てを専用部品とするほどの徹底的な改良が加えられた。

エンジンはM1などに用いられていた直6DOHC4バルブを4気筒化した2.3リッター直4DOHC4バルブS14型ユニットで、195PSを発生。それに伴いフロントブレーキキャリパーとホイールベアリングをE28型5シリーズから流用。5速MTもZF製のほかレーシングパターンを持つクロスレシオのゲトラク製も用意されている。

DTM、スパ24時間そしてWRCでも

ロベルト・ラヴァーリアの駆るM3。1989年DTMでの様子。
ロベルト・ラヴァーリアの駆るM3。1989年DTMでの様子。

こうして1985年9月に発表されたBMW M3は翌年から市販を開始。続く1987年に満を辞して登場したレース・バージョンは、フォード・シエラを破っていきなりDTMのタイトルを獲得する。その後1989年にもDTMのタイトルを獲得したほか、スパ24時間など世界の様々なレースで格上のマシンを破って優勝。日本のグループAでも多くのドライバーに愛されたほか、1987年のWRCトゥール・ド・コルスでは総合優勝を果たすなどラリーでも侮れない速さをみせた。

一方、市販モデルにおいてはレザーシートなど装備を豪華にしたカブリオレをはじめ、エンジンを210PSにチューンしスポイラーを大型化したM3エボリューション(1987年)、さらに220PSまでチューンしたM3エボリューションⅡ(1988年)。その後、DTMのレギュレーション変更に伴い新設計のブロックを採用し排気量を2.5リッターに拡大し、238PSを発生するS14B25ユニットを搭載するM3スポーツ・エボリューション(1990年)といった派生モデルも輩出。1991年までに1万7000台以上が生産されている。

最高のFRツーリング・スポーツ

238PSを発生する2.5リッターユニットを搭載するM3スポーツ・エボリューション。
238PSを発生する2.5リッターユニットを搭載するM3スポーツ・エボリューション。

残念ながらエヴォ系のモデルの経験はないものの、何台かのM3には試乗したことがある。まず驚くのが、ホモロゲモデルとは思えない素直さ、扱いやすさで、何の衒いもなく都内の雑踏を流すことができる。

しかし、一度ムチを入れるとその振る舞いは豹変。BMW M社謹製の2.3リッター直4エンジンは自然吸気らしい鋭いレスポンスで、220PSとは思えないほど踏めば踏むほどパワーが溢れ出てくる。また、そのハンドリングはリヤ・トレーリングアームとは思えないほど素直かつ懐の深いもので、ステアリングの入力にすぐに反応してすぐに鼻先を曲げながらも、グッと粘り腰をみせ、安定したフォームでコーナーを駆け抜ける。軽く、パワフルで、素直で、俊敏。まさにアナログ時代最後で最高のFRツーリング・スポーツというべきものに仕上がっているのだ。

この味わいと、ボクシーながらシンプルなスタイルはE30 M3ならでは。近年、その市場価格が鰻登りに上がっているのが玉に瑕だが、デルタ・インテグラーレ、R32 GT-Rと並び、クルマ好きなら一生に一度は体験しておいて損はない「グループA御三家」の最右翼である。

SPECIFICATIONS

BMW M3 (E30型)

ボディサイズ:全長4345×全幅1680×全高1370mm
ホイールベース:2565mm
車両重量:1240kg
エンジン:直列4気筒DOHC
総排気量:2302cc
最高出力:200PS(147kW)/6750rpm
最大トルク:240Nm/4750rpm
トランスミッション:5速MT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:Fマクファーソン式ストラット Rセミトレーリング
ブレーキ:F&Rディスク
タイヤサイズ:F&R205/55R15
最高速度:235km/h
0-100km/h加速:6.7秒

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藤原よしお 近影

藤原よしお

クルマに関しては、ヒストリックカー、海外プレミアム・ブランド、そしてモータースポーツ(特に戦後から1…