「ランドローバー レンジローバー」対「BMW X7」英独ラグジュアリーSUV対決

同じV8エンジン搭載のラグジュアリーSUV「ランドローバー レンジローバー」と「BMW X7」を徹底比較試乗

同じBMW製の4.4リッターV8ツインターボを搭載し、全長やホイールベースとも近い数値に収まる2台のラグジュアリーSUV。3列目シートを備えているという点も同じだ。
同じBMW製の4.4リッターV8ツインターボを搭載し、全長やホイールベースとも近い数値に収まる2台のラグジュアリーSUV。3列目シートを備えているという点も同じだ。
ビッグマイナーチェンジを受け、最新のBMWの意匠に則ったデザインとなった新型X7。対するは同じBMW製4.4リッターV8エンジンを積んだSUVの王者レンジローバーだ。それぞれのメーカーの旗艦7人乗りSUVのプライドをかけた戦いに注目!

Land Rover Range Rover Autobiography P530 LWB
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BMW X7 M60i xDrive

ともにBMW製4.4リッターV8ツインターボ搭載

今回のレンジローバーは慣れ親しんだディーゼル直6MHEV(D300)ではなく、完売御礼ということであまりお目に掛かれないV8である。

勝負というほどの話ではないのでは? というのが第一印象。何しろ現行のレンジローバーは個人的にはここ最近のベストSUVであり、一方マイチェン前のBMW X7の印象はまったく芳しくなかったからである。

だが両者を俎上に上げたくなる理由もいくつかある。同じく530PSを発生するBMW製の4.4リッターV8ツインターボを搭載し、全長やホイールベースとも近い数値に収まる。3列目シートを備えているという点でも肩を並べる存在といえる。ともにシリーズの頂点に君臨する両者だが、価格にはそれなりの違いがある。レンジローバーのオートバイオグラフィーP530LWBが2261万円するのに対し、BMW X7 M60i xドライブは1698万円とリーズナブルだ(笑)。

幸いなことに5代目となる新型レンジローバーのステアリングは度々握らせてもらっている。それでも毎回、ちゃんと感動させてもらえるのがこのクルマの美点である。今回は慣れ親しんだディーゼル直6MHEV(D300)ではなく、完売御礼ということであまりお目に掛かれないV8という点が興味深い。

同じ530PSとはとても思えない

走りはじめるとすぐにBMW製のV8が僕を虜にした。今まではD300で十分と感じていたのだが、V8に乗るとマッチングの良さはこちらの方が上だとすぐに分かった。今まですばらしいと思っていたレンジローバーの評価がさらに上がったことは言うまでもない。野球で言えば1回の表にいきなり2ケタの点数が入ってしまったようなそんな展開。勝負あったか?

昨年末にマイナーチェンジされた新型BMW X7の最大の特徴は言わずもがなの「顔」だろう。上下2分割のヘッドランプ(ツイン・サーキュラー&ダブル・ライトと言うらしい)と、巨大なキドニーグリルの組み合わせである。昨今のBMWの顔は問答無用でこのイメージに変わってきているが、好き嫌いは当然あるだろう。X7の場合、前期型は実に正統派かつイケメンだったなぁと思わずにはいられない。

さあ1回の裏、BMWの攻撃がはじまった。運転席に座って観察すると、室内も色々と変わっていた。最も大きな違いはメーターパネルとセンターのモニターがつながった横長のディスプレイ。こちらも顔と同じく違和感があり、「前の方が良かった」、ということで1アウト。ところが意外なことに、そこから新型X7の猛攻がはじまった。走りはじめると、すこぶるイイのだ。何がイイのか? エンジンがシャキッとして、シャシーがキュッと引き締まって実に具合がイイのである。

同じエンジンで、同じ530PSとはとても思えない。そこでレンジローバーに乗り換えてみるとやっぱりまるで違う。X7のそれは低回転からパワーがもりもりと湧き上がり、ターボラグの逡巡が微塵も感じられない。まるでモータースポーツの世界でいうところのワークスエンジンとカスタマーエンジンの差の如し。両者のエンジンを見比べようと思いボンネットを開け、エンジンの上に乗っているカバーを外してみてびっくり。吸気の取り回しやインタークーラーの形状だけじゃなく、ターボのカタチがはっきりと違うこともわかった。これは別物だ!

衝撃のパフォーマンスで挽回

後で調べてみると、新型X7に搭載されているV8の型式はナント、S68B44A。BMW Mにしか搭載されないマニア垂涎のアルファベットSからはじまる高性能ユニットだったのだ。M60iの車名はダテではなかった。対するレンジローバーのそれはN63B44T。これは以前のX7のものと同じだが、Sと比べればごく普通のエンジンである。しかも新型X7に搭載されているS68ユニットはMHEVでもあるのだ。低回転からパワーがあり、ターボラグが感じられなくなった理由もそこにあるのだろう。

だが新型X7が優れているのはエンジンだけではなかった。まるでバネ下重量が激減したように走りがスポーティになり、おかげでボディが2まわりくらい小さく感じられる。実にBMWらしいのだ。前期型のX7のドライブフィールにはまとまり感がなく、巨体を持て余している感じがしていた。つまり新型とはまるで違う。1回裏のBMWは予想外の猛攻を見せ、ゲームを振り出しに戻してみせたのだ。

だが新型X7が一気に逆転、とはならなかった理由は、レンジローバーにも何ら欠点がなかったからだ。このプレミアムSUVの始祖を造るうえで欠かせないのは、キレ味鋭いパワーユニットではないのである。

スポーティと実用性には優れるが

X7の特徴は上下2分割のヘッドランプ(ツイン・サーキュラー&ダブル・ライトと言うらしい)と、巨大なキドニーグリルの組み合わせ。昨今のBMWの顔は問答無用でこのイメージに変わってきている。

この2台を本気で迷う人がいるのかわからないが、個人的には簡単に決めてしまうことができない好勝負だった。とはいえ、よくよく考えれば例えX7が飛び切りスポーティだったとして、実際にオーナーとして相対した時、そのハンドリングが重要とは思えないような気がしてきた。やはりレンジローバー有利か? しかしBMWのACCには飛び切り優秀なハンズフリー機能がついている。スポーティなだけでなく、実用面でもレンジローバーを凌ぐ部分はあるのだ。そんなメリットをひとつひとつ拾っていたら、新しい顔のデザインがMHEVに相応しく思えてきたりもしたのである。

それでもオーナーとして長く所有した場合にはレンジローバーの方が古く感じられないという確信もある。延長に次ぐ延長となったが、今回ばかりは本当に互角。そしてなにより、起死回生のブラッシュアップを見せたX7を祝福したい。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2023年6月号

SPECIFICATIONS

BMW X7 M60i xドライブ

ボディサイズ:全長5170 全幅2000 全高1835mm
ホイールベース:3105mm
車両重量:2610kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4394cc
最高出力:390kW(530PS)/5500rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/1850-4600rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
車両本体価格:1698万円

ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィーP530(LWB)

ボディサイズ:全長5265 全幅2005 全高1870mm
ホイールベース:3195mm
車両重量:2710kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4394cc
最高出力:390kW(530PS)/5500-6000rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/1850-4600rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
車両本体価格:2261万円

【問い合わせ】

BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/

ランドローバーコール
TEL 0120-18-5568
https://www.landrover.co.jp/

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著者プロフィール

吉田拓生 近影

吉田拓生

1972年生まれ。趣味系自動車雑誌の編集部に12年在籍し、モータリングライターとして独立。戦前のヴィンテ…