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今年で51回を数える耐久レース
第二次世界大戦後の高度経済成長期を経て、世界屈指の豊かな国へと復興を遂げたドイツ。ニュルブルクリンク24時間耐久レースは庶民にも自動車が少しずつ浸透し始めてきた1970年に誕生した。日本人には「ニュル24時間」の愛称で有名なこのレースは、今年で第51回目を迎える。
オイルショックが理由で1974年と1975年の2大会を中止せざるを得なかったが、このレースはドイツの自動車史と共に歩み続けていると言っていいだろう。毎年20万人以上の観客を誇り、いまや世界各国からこのレースのだけのために数多くのファンがこの小さなアイフェル地方へと押し寄せるのだ。
今年5月18~21日にかけて開催される第51回大会には、各自動車メーカーのご自慢のGT3マシンが集うSP9クラスから、下は手弁当で頑張るアマチュアチームまで、計136台がエントリーを連ねる。最高位のSP9クラス(GT3)は最も多い33台のエントリーを誇り、世界で活躍するファクトリードライバーらが参加することもあって、ブランドの意地を掛けて超激戦区の熱い戦いとなる。
GT3マシンによる熱い戦い
注目はポルシェ 911 GT3 Rとフェラーリ 296 GT3は完全な今季デビューの新型マシンだ。そしてアウディのハイパフォーマンスチューナーとして有名なABTが投入するランボルギーニ ウラカン GT3は今季パフォーマンスが向上したEvoIIに進化している。これらに対してデビュー2年目でマシンが熟成したBMW M4 GT3や、現在世界最強のGTマシンと言っても過言ではないメルセデスAMG GT3がどう迎え撃つのか、見どころのひとつでもあるのだ。
また、アウディスポーツGmbHが今年は40周年を迎え、記念に#40を掲げたアウディR8 LMS GT3 EvoIIを、かつてアウディのワークスドライバーの3名が担当する。アウディのファクトリードライバーとして華々しい活躍を遂げたティモ・シャイダー、マイク・ロッケンフェラー、マルティン・トムチックらが、再びこの記念の年にアウディへ舞い戻り、R8のステアリングを握るのだ。
GT3マシンの戦い、そして勝利がなぜそんなにも自動車メーカーにとってそんなにも重要なのか。GT3マシンは各社を象徴するスポーツカーの量販車をベースとしてつくられており、数ある自動車メーカーの中でも特にドイツメーカーはIP(インダストリープール)で毎日のように開発評価テストをこのノルドシュライフェで行い、日々より安全でよいクルマづくりのために企業努力を重ねている事もあり、ここで勝つ事はすなわちこの世界で最も過酷なサーキット「グリーンヘル(緑の地獄)」で性能を立証する事でもあるのだ。
スバルやマンタにも注目
一方で、SP4Tクラスに日本からSTI(スバルテクニカインターナショナル)が参戦、新型WRXを投入し、井口卓人、山内英輝、カルロ・ファン・ダム、ティム・シュリックの4名体制で7勝目を目指す。トーヨータイヤのニュルブルクリンクの開発プログラムの一環としてSP10(GT4クラス)にGRスープラGT4で参戦するのは、ベテランの木下隆之。トーヨータイヤのアンバサダーとして、またモータージャーナリストとしての顔を持つ63歳の木下は、このニュル24時間レースに日本人最多出場を誇り、年齢にとらわれる事なくその挑戦が留まる事はない。
ニュル24時間レースで最も多くのファンを持つといえる、ニュルの歴史を象徴するオペル マンタも無事に再びニュルへとカムバック。昨年、整備中にバッテリーから発火。オーナーが大切にしていたマシンの大部分が焼けてしまい、もはや絶望かと思われていたのだが、数多くのファンとオーナーの切なる思いでこの24時間レースまでに修復を終えて、ピットへと持ち込まれたのだった。トレードマークの狐のしっぽのファーは、レース中に飛んで行ってもよいようにスペアは十分に用意しているとの事。ファンの心を鷲掴みにするプロドライバーの駆る猛スピードのGT3マシンの横を、懸命に走るマンタの姿を世界中のファンと共に応援したい。
レースを盛り上げるキャンプ
ニュル24時間レースといえば、伝統となっているのがキャンプだろう。それも誰もが想像するキャンプではない。最近こそ富士スピードウェイで開催されている24時間レースでも少しずつキャンプ観戦が広がっているものの、このニュルのキャンプのクレージーさに勝るものは世界のどこに行ってもない。
各キャンパーが工夫を凝らしたきらびやかな電飾や焚火に夜空が照らされる中、ビール片手に楽しむBBQの煙は、レース中のマシンの車内まで入り込み、ソーセージやお肉の焼ける香ばしい匂いはヘルメットを被るドライバーにも届いているようだ。その匂いを嗅いで、このニュルという特別な場所である事、そしてファンの盛り上がりや応援、楽しんでレースを観戦してくれている事を強く感じるのだとか。
コロナ禍ではキャンプも禁止されていたとあり、コースサイドに誰もいない暗闇をひとりで走る寂しさやファンの大切さを痛感したとドライバーの多くが声を上げているだけに、このニュルの伝統は決して絶やしてはいけないもののひとつに違いない。
レースは5月18日から21日まで
かつては世界最大の草レースといわれたニュル24時間レース。いまもその古きよき伝統の手弁当でがんばるアマチュアチームから、世界的に有名なトッププロドライバーまでが一堂にグリッドへ並び、20万人以上の観客の大歓声を受けてスタートの火蓋を切る。
あの鳥肌の立つ独特のスタートの瞬間、手に汗握る激しいバトル、そして24時間を戦った後の安堵や歓び、そして無念や失望──煤やオイルにまみれ、真っ黒になった手でチェッカーフラッグを受けてライバルと固い握手やハグを交わし、一筋の涙が頬を伝いながらも互いを称賛する姿が美しく、それを物語るように、24時間レースの中にはさまざまなドラマが隠されている。そんなヒトとヒトとの人間臭さがあるからこそ、誰もがまた訪れたくなる場所、それがニュルなのだ。
1周全長25.378㎞ものニュルブルクリンクで、今年は一体どんなドラマが待ち構えているのだろうか。ニュルブルクリンク24時間レースはオフィシャルサイトやYoutubeチャンネルでもライブ配信され、J SPORTSでも生中継で放送される予定だ。