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BMW XM
最上級クーペSUVとして誕生したM専用モデル
XMは伝説のスーパーカーM1の生産終了から約40年ぶりとなる史上2番目のM専用のBMWだ。そんなクルマがSUVであることに、昭和世代はなんともいえない気持ちになってしまうが、考えてみれば、ポルシェもランボもアストンも、稼ぎ頭は今やSUV。しかも、フェラーリですらSUVメーカーである。これも時代というほかない。
伝えられるところでは、このクルマの発端はX7ベースの最上級クーペSUVという企画だったとか。そんなハイエンドSUVクーペとなれば、競合車はカイエン系トップモデル、ウルスにDBX、そしてプロサングエといった錚々たる顔ぶれとなる。それこそM専用モデルにするくらいの覚悟でないと、太刀打ちできないという判断だったのだろう。
真正Mであると同時に、BMWの新たなフラッグシップSUVでもあるXMは、技術的にはBMWの集大成にして、デザインではBMWの近未来像を示唆する。3105mmという長大なホイールベースはX7と同寸だが、全長はX5/X6とX7と中間。全高は1755mmと意外に大きいが、長い全長と水平基調ルーフラインのおかげで、全体には低く構えたクーペルックに見える。
好事家心を絶妙にくすぐるM1オマージュのロゴ
大型キドニーグリルとダブルバブルボンネットの組み合わせは、M3や(M4を含む)4シリーズ、そしてiXに続くBMW最新スポーツのアイコンである。一方でサイドウインドウからウエストラインを一体で囲むモールは、これ全体でホフマイスターキンクを表現する斬新な処理だ。このモールを含む要所のメッキ表現がゴールドなのが賛否両論だが、XMの主戦場が北米を筆頭に、中国や中東と聞けば納得してしまう。
背後の縦4本出しエキゾーストは、電動化時代にあえてエンジンの存在を主張するMならではの主張だろうか。さらにロゴバッジが省略されたリヤゲートも近未来のBMWか……と思ったら、リヤウインドウの上端左右にロゴがある。実はこれ、リヤエンドに2つのロゴバッジを配したM1へのオマージュらしい。
ホイールベースからも想像できるように、XMはX7と下まわりを共有する。インテリアも表面上は専用デザインだが、根幹のレイアウトはX7、あるいはX5やX6と共通なので、全体的な雰囲気は良くも悪くも古典的。いまだに残されたシフトレバー、そしてカーボン製シフトパドルや赤い「M」ボタンを配したステアリングも、Mファンには見慣れたお約束のディテールだ。
しかしながら、ダッシュボードにあしらわれた使いこまれた風のチョコレートブラウンのレザー(ビンテージレザー)はなんとも好事家心をくすぐる。後席はホイールアーチからドアトリムまでレザークッションが貼り込まれた、いわゆるラウンジシートになっている。X7と共通のホイールベースで5人乗りのXMの後席はBMWでも1、2を争う広大さで、少なくとも停車している限りは、BMWで最も癒される快適空間といえるだろう。
歴代M最強を誇るパワートレイン
ここで「少なくとも停車している限り」とわざわざ書いたのは、この真正MのSUVは、いったん走り出せば、まさに背高スポーツカーと化すからだ。その乗り心地は正直“歯ごたえある系”というほかない。
XMの心臓部は現行BMWで頂点エンジンとなる4.4リッターV8ツインターボを核としたプラグインハイブリッド(PHV)だ。構造はシンプルで、8速ATのトルクコンバーター付近にモーター1基を内蔵して、そこに29.5kWhのリチウムイオン電池が繋がれており、満充電なら高速道路も含めて最大90kmの電気自動車(EV)走行が可能だ。
しかし、アクセルを深く踏み込むか、あるいはドライブモードをスポーツモードもしくはスポーツプラスモードにすると、エンジンとモーターがフル稼働して、トータルのシステム最高出力653PS、同最大トルク800Nmを発揮する。これはすでに歴代M最強といえる数字なのだが、XMにはそれを748PS、1000Nmまで高めた「レーベルレッド」も控えているとか……。
ちなみに今回のXMのエンジン単体性能は489PS、650Nmで、強力なモーター(197PS、280Nm)との組み合わせを前提に同ユニットとしては控えめなチューンとなっている。実際、XMでは6000rpm以上のトップエンドで突き抜ける感覚は薄い。ただ、このパワートレインの真骨頂は、全域で凄まじいフラットトルクとレスポンスにある。そこが、いかにも電動化時代らしい仕上がりともいえる。
面食らうほどの加速
いかに優秀なターボエンジンといえども絶対に不可避だった過給ラグ的なものが、XMではほぼ皆無。箱根のような険しい上り勾配で、高いギヤのままアクセルをガバッと踏み込んでも、まるで躊躇することなく強力に蹴り出す。そして、その猛烈なキック力がリミットの7000rpm近くまでずっと続くのだ。
最もハイレスポンスなスポーツプラスモードでアクセルを不用意に踏み込もうものなら、XMは“ズドンッ!”という、ちょっと面食らうほどの衝撃を伝えてくる。ただ、モーター効果もあるのか変速そのものはけっこう滑らかだから、この衝撃は800Nmという絶対的なトルクが、この骨格やマウントの許容範囲ギリギリであることを意味している。
今どきの電動パワートレインなら、それを制御でうまく丸めることもできそうだ。しかし、これはEVのノウハウも豊富なBMW。ということは、今回は電動化時代のMとして、エンジン+モーターの速さ方面の可能性をあえて前面に押し出した意図的な調律なのかもしれない。
一方で、連続可変ダンパーとアクティブスタビライザー、電子制御4WDにアクティブLSD、さらに真正Mで初となる四輪操舵まで備えるXMのシャシーは、まさにBMWダイナミクス技術の集大成だ。その乗り心地が歯ごたえ系なのは、バネだけは最新のエアサスではなく、伝統的なコイルを使っている影響もあるだろう。ただ、そのぶんダイレクト感と接地感は濃厚きわまりない。
ホットハッチの如く走る最速SUV
それにしても、この2.7t以上の巨体が、ほとんどロールしないまま小型ホットハッチのように軽快に走るのは驚異的だ。これまでのBMWのSUVには、どれもボディの大きさや重さ、背の高さを感じさせないホットハッチ感覚があった。しかし、XMのそれは、これまでより明らかにダイレクトで俊敏である。
ロール制御が緻密なのか、旋回速度が高まっても特定のタイヤだけに荷重が集中しないので、グリップ限界のぎりぎり手前までまったく安定したままだ。車重を感じさせないのは、エンジン回転を問わずにわずかなアクセル操作にも明確に反応する電動パワートレインの恩恵も間違いなくあるだろう。しかも、この強力トルクを存分に解き放ったところで、ライントレース性が乱れず、無粋なアンダーステアにも陥らないのは電子制御4WDとLSD効果か。繰り返しになるが、まさに集大成。
もし、闇夜に独特の八角形キドニーが光っているのが見えたら、それは世界最速SUVの1台が迫ってきている証拠だ。覚悟すべし。
REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2023年10月号
SPECIFICATIONS
BMW XM
ボディサイズ:全長5110 全幅2005 全高1755mm
ホイールベース:3105mm
車両重量:2710kg
エンジン:V型8気筒DOHCターボ
総排気量:4394cc
最高出力:360kW(489PS)/6000rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/1600-5000rpm
モーター:交流同期電動機
最高出力:145kW(197PS)/6000rpm
最大トルク:280Nm(28.6kgm)/1000-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35R23 後315/30R23
燃料消費率(WLTC):8.5km/L
車両本体価格:2130万円
【問い合わせ】
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/