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Maserati 3200GT
不思議と縁に恵まれないモデル
不思議なもので、欲しくてたまらないのに、そしてさほど高くないのに何故か縁に恵まれないモデルがある。これまで80台以上の車をプライベートで乗ってきたにも関わらず、だ。たとえば「ランチア テーマ 8.32」。ご存じフェラーリのミド用V8エンジン(308時代)をフロントにぶち込んだ、普通(はFFセダン用のパワートレインを転用してお気軽ミドシップを作る)とは逆の発想のキテレツセダンだ。
このギョーカイに来て間も無く欲しくなり(つまり30年以上も前)、実際に中古車屋に見に行ったことも(取材を含めて)何度もあった。にも関わらず、買えなかった。決して高いクルマではない。友人から譲ると言われたこともあった。けれども叶わなかった。縁がないとしか言いようがない。
否、一度だけ近づいたことがある。緑×黒の珍しい個体を取材で見つけ、欲しいけれども買える状況になく、友人に買ってもらったことがあった。後々譲ってもらえるよう個人的な“買取保証”を付けて。
ところが、そのクルマが燃えてしまった!万事休す。少なからず責任を感じたので、当時気に入って乗っていた「アルファロメオ 166」を代わりに譲った(あ、アルファ166も取り上げたいねぇ)。
極端に減った流通量
「マセラティ 3200GT」、そしてマイナーチェンジ版のクーペ&スパイダーもまた、ずっと欲しいと思っているモデルだ。実をいうと新車時の取材ではあまりいい思い出がない。3200GTの6速MTはペダル踏力がまちまちで扱いづらかったし、オートマはオートマで荒々しいエンジンを御しきれていなかった。フェラーリ傘下となって、よくなったところと旧式なところがまだ混じりあっていた。
けれどもスタイリングは抜群だ。基本のデザインはジウジアーロ時代のイタルデザイン。紆余曲折あって生まれた4シータースタイルは将来きっと、21世紀初頭を代表するクーペデザインとして評価されるに違いない。
特に筆者のお気に入りはリヤの特徴的なブーメラン型のLEDランプ(世界初)。ツーフェイスの泣き顔のようで、印象的という意味ではトップランクだろう。もっともそれが原因でアメリカ市場では販売できなかったけれど。
後期型、つまりフェラーリ製のV8エンジンを積むスパイダーとクーペが相次いでデビューすると、リヤランプはフツーの蒲鉾スタイルになってしまった。クルマとしての完成度では断然上で、特にモデル末期になればなるほどフェラーリ カリフォルニアの先祖ではないかと思えるほど良くなっていく。スパイダーなどはホイールベースも短く、降り注ぐサウンドはまさに跳ね馬。カーセンサーで金色を見つけるたび、何度も買いそうになった。買っとけばよかった。
選ぶなら新しくて綺麗な個体
そう、3200GTもクーペ&スパイダーも流通量が極端に減ってきた。理由は様々だろう。決して高くないのだ。と言うことは、海外へ流出したか、それとも高くないから売りたくても売れないオーナーが多数いるか、さらには車両価格が上がってこないので直すに直せず放置車両が多いか、マーケットで見かけない理由はおそらくそんなところだろう。いずれにしても20年前に発表されたモデルだから仕方ない。
先にも書いたけれど、中古車相場はさほど高くない。3200GTで200万〜300万円、クーペ&スパイダーだと300万円以上で、完成度の高い最後期モデルでも600万〜700万円といったところ。心配なのは後々のメンテナンス費用だろう。エンジン、ミッション、燃料まわり、ブレーキといったメカニカルパートはもちろん、インテリアの見栄えもかなり悪い個体が多い。特に前期モデル。レザーは薄く、こだわりデザインが多いので、どうしても耐久性に欠けている。ベトベトも気になるところ。
もうひとつ、ボディの劣化も気をつけたい。美しく見えるということは、それだけ補修も困難だったということ。ボディの継ぎ目ひとつとっても少ないクルマなのだ。だから注意して見ると補修跡などが浮き彫りになっている個体も少なくない。
多少高くても、そしてブーメランテールでなくても、できるだけ新しくて綺麗な個体を選びたくなってしまう。いや、でもやっぱりブーメランも捨てがたい。歴史的なのだ。それもできれば赤や緑、ベージュといった変わりカラーで。もうすでにネオクラシック。レストア的な覚悟を決めて臨むほかないし、その価値はあると思う。