最高出力1030PSの超過激フェラーリ「SF90 XXストラダーレ」をフィオラノで試乗

「やんちゃな頃のラリーカーのよう」最高出力1030PSの超過激フェラーリ「SF90 XXストラダーレ」に試乗

SF90の30PSアップとなる最高出力1030PSや、公道モデルとしてはF50以来の固定式大型リヤウイングといった斬新な空力ソリューションの採用などトピックが多いSF90 XX。
SF90の30PSアップとなる最高出力1030PSや、公道モデルとしてはF50以来の固定式大型リヤウイングといった斬新な空力ソリューションの採用などトピックが多いSF90 XX。
1000PSを発揮するSF90ストラダーレをベースに生まれたスペチアーレ中のスペチアーレ──、それがSF90 XX ストラダーレである。4.0リッターV8ツインターボにフロント2モーター、リヤ1モーターを組み合わせたPHVシステムはそのままにシステム最高出力を1030PSにまで向上させた超過激モデルをフィオラノで試した。

Ferrari SF90 XX Stradale

SF90の走行性能を極限まで高めたスペチアーレ

SF90 XXは正式なXXプログラムに参加はできない。正しくは488ピスタや812コンペティツィオーネといった、レーシング志向のスペチアーレである。
SF90 XXは正式なXXプログラムに参加はできない。正しくは488ピスタや812コンペティツィオーネといった、レーシング志向のスペチアーレである。

今回の試乗会はレース経験が試乗の条件とされ、私が参加することになった。もともとラリーが好きで始めたモータースポーツ活動は華麗なる戦歴もなく、本当に自分でいいのかと自問しつつ、イタリアはマラネッロに飛んだが、結果的には確かにモータースポーツ経験が必要な試乗会だと納得する内容であった。

SF90ストラダーレ(以下、SF90)の走行性能を極限まで高めたスペチアーレである「SF90 XXストラダーレ」(以下、SF90 XX)の試乗会が開催されるとは思っていなかった。なにしろクーペが799台、同スパイダーが599台のみで昨夏日本で盛大に発表会が行われた時点ですでに完売していたからだ。

4.0リッターV型8気筒ツインターボエンジンをベースとして、2基のモーターをフロントアクスルに左右独立して搭載し、1基のモーターをミッドのエンジンとギヤボックス間にレイアウトし、都合3基の電気モーターを組み合わせるプラグインハイブリッド(PHEV)スーパースポーツカーのSF90、それをさらに先鋭化したスペチアーレがSF90 XXだ。

公道モデルとしてはF50以来の固定式大型リヤウイング

車名のXXは約20年前、FXXで始まったサーキット専用モデルによるカスタマー向け走行プログラム、XXプログラムへのオマージュである。つまりSF90 XXは正式なXXモデルではない。正しくは488ピスタや812コンペティツィオーネといった、レーシング志向のスペチアーレである。

だが、その先鋭化はこれまでとは一線を画する刺激的な内容となっている。SF90の30PSアップとなる最高出力1030PSや、公道モデルとしてはF50以来の固定式大型リヤウイングといった斬新な空力ソリューションの採用など見るべき点は多い。試乗前夜の技術説明の場で改めてその異形を見ると、圧倒されつつも、だからこそ夕方から降り続く雨がなんとも恨めしい。

結局のところ当日は外気温9℃、しかも時折小雨がぱらつく曇天では試乗するフィオラノ・サーキットの路面が乾くはずもない。だからこそ低いグリップで挙動を試そうと気持ちを切り替え、軽量なドアを開けて試乗車に乗り込む。シートはフルバケットタイプだが、前後はもちろんリクライニングも可能だ。4点式シートベルトは肩ベルトも腰ベルトも調整しやすく、乗り込んで調整にイラつくことはないだろう。オドメーターは5770km。フィオラノだけで5000km走ったわけではなかろうが、いずれにせよ高負荷にさらされ続けたにも関わらずシャキッとしており、メンテナンスが行き届いているのを感じた。

SF90を17PS上回る最高出力797PSを発揮するF154FB型4.0リッターV8ツインターボエンジンに組み合わされる3基の電気モーターの最高出力は13PS増の233PSを誇る。これはステアリングホイール中央のホーンパッド左下に配置されるeマネッティーノで「eドライブ」「ハイブリッド」「パフォーマンス」「クオリファイング」の中からクオリファイングを選択すると得られるエクストラブースト時の数値である。

途切れることのない天井知らずの加速

先導するテストドライバー、ロベルトの無線指示でeマネッティーノはクオリファイング、ダイナミックマネッティーノ(従来のマネッティーノ)はスポーツを選択して走り出す。ところどころ濡れた路面は、グリップする箇所としない箇所の差が初見では読みづらく厄介な状況だ。

それでも先導するロベルトは容赦なくラップスピードを上げていく。体育会系試乗会によくある「ついていくだけで精一杯」というパターンか。eマネッティーノをクオリファイングにしているので、さすが1030PSと納得させる、どこまでも途切れない天井知らずの加速を見せる。モーターのアシストもあって、レスポンスとピックアップも素晴らしい。

デイトナSP3で初採用された変速ロジックの8速DCTは、変速をマニュアルで行うと、シフトアップの直後に一瞬加速するような錯覚を覚えるトルク変動もあって、シフト操作が楽しい。ステアリングリム頂点にレイアウトされるLEDバーが青になったらシフトアップのタイミングなのはSF90同様だ。フルブレーキではバイワイヤーとは思えぬダイレクト感に満ちたペダルフィールで安心感と信頼感がある。

まるでグループB時代のラリーカーだ

コーナーの立ち上がりでリヤを振り出しつつも、AWDならではの逞しい加速を見せてくれる。
コーナーの立ち上がりでリヤを振り出しつつも、AWDならではの逞しい加速を見せてくれる。

ダイナミックマネッティーノがスポーツでは、コーナーの立ち上がりでメーターパネル内のトラクションコントロールの作動ランプが点滅しっぱなしだがストレスは少ない。レースモードでもコーナー立ち上がりでは効率的な制御が入り、挙動を乱すことなくロスも少なそうだ。コーナーではトルクベクタリングも有効に作動し、フロントのモーターがノーズを引いて、AWDならではのスタビリティとトラクションを感じる。

ところが最後のセッションでロベルトが「ダイナミックマネッティーノをCTオフにしよう」と言う。電子制御が完全に解除されるわけではないが、ある程度ドライバーを試すような挙動をするのがCTオフだ。実際、スポーツ、レースモードまでのようなラフなアクセルワークを試すと、コーナーの立ち上がりでリヤを振り出しつつも、AWDならではの逞しい加速を見せてくれる。暴力的な加速の鋭さは、まるでラリーカーのようだ。それもモンスターと呼ばれたグループB時代のラリーの趣だ。

カウンターからカウンターへ左右切り返す場面では、ホイールスピンで加速しないとはいえ何物にも代え難い征服感をもたらした。ドライバー頭部付近に配置される吸気プレナムのチューブが再設計されたことで、フルスロットル時の刺激的な大音量も快感を増幅してくれた。

実用性と快適性を担保した上での圧倒的パフォーマンス

今年ル・マン24時間を制したハイパーカー499Pを彷彿させる全幅に及ぶバータイプのリヤランプも特徴的だ。
今年ル・マン24時間を制したハイパーカー499Pを彷彿させる全幅に及ぶバータイプのリヤランプも特徴的だ。

レギュレーションで規制され、性能が頭打ちになる現代モータースポーツにおいて、もはや最高速など性能面で市販スポーツカーがレーシングカーを上回るのは当然だ。一方でSF90同様にEV航続距離25km、フロントモーターのみで135km/hの最高速度を保証している。そういう実用性、快適性も担保した上での、サーキットにおける圧倒的なパフォーマンスは敬服するほかない。

これまでにもAWDスーパースポーツカーに試乗した経験はあるが、スタビリティにしても、トラクションにしても、ここまでAWDを明確に感じさせてくれるクルマはなかった。アマチュアドライバーでも安全に速く走る爽快感をもたらす、驚くべきスペチアーレの誕生だ。

REPORT/吉岡卓朗(YOSHIOKA Takuro)
PHOTO/Ferrari S.p.A.

SPECIFICATIONS

フェラーリSF90 XX ストラダーレ

ボディサイズ:全長4850 全幅2014 全高1225mm
ホイールベース:2650mm
乾燥重量:1560kg
エンジン:V型8気筒DOHCターボ
圧縮比:9.54:1
総排気量:3990cc
最高出力:586kW(797PS)/7900rpm
最大トルク:804Nm(82.0kgm)/6250rpm
モーター 最高出力:171kW(233PS)
バッテリー 容量:7.9kWh
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前255/35ZR20 後315/30ZR20
最高速度:320km/h
0→100km/h加速:2.3秒
車両本体価格:9800万円〜

フィオラノ・サーキットで、市販車最高記録となる1分17秒309をマークした「フェラーリ SF90 XX ストラダーレ」。

「フェラーリ SF90 XX ストラダーレ」がSF90ストラダーレの記録を1.4秒更新してフィオラノの市販車最速マシンに

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著者プロフィール

吉岡卓朗 近影

吉岡卓朗

大学卒業後、損害保険会社に就職するも学生時代から好きだったクルマのメディアに関わりたいと、1999年に…