【マクラーレン クロニクル】3シーターモデル「スピードテール」はなぜ誕生したか?

あのマクラーレン F1を彷彿させる3シーターモデル「スピードテール」【マクラーレン クロニクル】

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フロントから特徴的なロングテールに至るまで、流麗なボディをまとって、極限までドラッグを低減した「スピードテール」。究極のアルティメットシリーズとしてマクラーレンのデザイン哲学を極めつつも、最高出力1050PS、最高速403km/h、0-300km/h加速12.8秒を誇るハイブリッド・スーパースポーツはいかにして生まれたか?

McLaren Speedtail

「F1」ロードカーと同様に3シーターの設計

それは2013年のジュネーブ・ショーでのこと。このショーでマクラーレンは、アルティメットシリーズの第1弾モデルとなる「P1」をワールドプレミアするという大きなニュースを世界に向けて発信した。すでにその前年のパリ・サロンでプロトタイプこそ発表されていたものの、やはりプロトタイプとプロダクションモデルの発表とでは、ニュースの重要性には大きな差がある。マクラーレンはこの年のジュネーブで確かに主役のひとつとなった。

初日のプレスデイが終了すると、マクラーレンは限られた世界のメディアを集めたディナーを開催した。その中では当時「Track25」と呼ばれていた新型車の中期計画の進捗状況が説明され、特にデビューが近々に迫るモデルに関しての説明は、かなり細かいものだった。

特に注目されたのは「BP23」の開発コードを与えられた1台のモデル。それはその日に発表されたP1と同じ、限定生産を前提としたアルティメットシリーズに位置づけられるモデルであり、マクラーレンとしては初ともいえる、究極のパフォーマンスと究極のラグジュアリーを両立させたモデル。キャビンはアルティメットシリーズの始祖ともいえる、あの「F1」ロードカーと同様に3シーターの設計で、それだけでもBP23の誕生に対する期待感は大いに高まった。

リヤウイングの代わりにエルロンを装備

それから4年半ほどの時間が経過し、2018年10月26日に、BP23は新たなアルティメットシリーズのプロダクションモデルとして正式に発表されることになる。そのネーミングは「スピードテール」。デザインは一切の無駄が排除された実にエレガントな流線形で、見るからにエアロダイナミクスの優秀さを物語る。

すべての曲線は走行中に負担となるドラッグを低減し、フロントから特徴的なロングテールに至るまで、シームレスにエアを誘導。ただ美しいだけではなく、そのすべてに機能があるというマクラーレンのデザイン哲学は、このスピードテールにおいて、ひとつの頂点を極めたといった印象が強い。

テールエンドにはリヤウイングの代わりに航空機と同様のエルロンを装備。これはテールのボディワークからそのまま形成されるもので、左右一対のそれは速度によってそのまま変形。理想的なダウンフォースを生み出すのはもちろん、エアブレーキとしての機能も果たすと説明されている。通常のサイドミラーに代わって、コンパクトなHDカメラによって、クリアなリヤサイドの映像を得るシステムを持つのもボディワークの特徴だ。

単なるGTではない

キャビンのセンターにレイアウトされるドライバーズシートからの視界はとても良好だ。コントロールスイッチなどはすべて頭上に集約されており、その操作感も抜群。使用される素材はどれも最高水準のもので、次世代のカーボンファイバー素材を始め、ここでもマクラーレンの先進性を強く感じることができる。

フロントウインドウからルーフウインドウへとつながり、さらには左右ドアの上部、後部はリヤアクスルの手前まで広がるガラスエリアの効果は、キャビンを開放的な雰囲気に演出するには最高のアイデアだ。ちなみにこのガラスはエレクトロミックガラスと呼ばれるもので、スイッチ操作によって透過光量を変化させることができる。したがってサンバイザーなどは、このスピードテールには装備されていない。

ミッドに搭載されるパワーユニットは「M840T」型、すなわち720S用のそれを改良し、さらにハイブリッドシステムを組み合わせたもの。最高出力は1050PSをシステム全体として発揮する。最高速は403km/h、0-300km/hのタイムは12.8秒というから、やはりスピードテールが単なるGTではないことは確かだ。

スピードテールの販売は、F1の総生産台数と同じ106台の限定で行われ、発表時の価格は175万ポンドに設定されていた。デリバリーは2020年2月からスタートしたが、すでにこの時点ですべてのスピードテールにオーナーが決定していたことは言うまでもないところである。

720Sをベースとするセナのモノコックとエンジン。最高出力800PS、最大トルク800Nmを発揮する「M840TR」4.0リッターV型8気筒ツインターボを搭載する。

伝説のF1ドライバーの名前を冠した「セナ」のあまりにもストイックな中身【マクラーレン クロニクル】

「P1」に続くアルティメットシリーズ「セナ」。言わずもがなの伝説のF1ドライバーの名前がそのまま与えられた、サーキット志向のマシンを解説する。エアロダイナミクス、軽量化、高出力化を妥協なく突き詰めた結果がそこにある。

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著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…