【マクラーレン クロニクル】ロングテールという特別な称号を戴いた「600LT」を解説

ロングテールという特別な称号を戴いた超レーシーな「600LT」を解説する【マクラーレン クロニクル】

最高出力は570Sから30PSアップのエクストラを得て600PS。その車重は同様の比較でマイナス96kgとなる1247kg。軽量化できるところはすべて軽量化した。
最高出力は570Sから30PSアップのエクストラを得て600PS。その車重は同様の比較でマイナス96kgとなる1247kg。軽量化できるところはすべて軽量化した。
レースで勝つためにF1 GTRから前後大きく拡大されたオーバーハングを持つ「F1 GT」。その独特な造形からLT(ロングテール)のニックネームが与えられたが、その後LTはマクラーレンの高性能モデルとして使われるようになった。スポーツシリーズ初の「600LT」を紹介する。

McLaren 600LT

簡単なモディファイを施すことで十分な戦闘力のあった「F1」

固定式の大型リヤウイングやリヤバンパーのサイズが若干拡大されており、上方排気のレイアウトが採用されている「600LT」。
固定式の大型リヤウイングやリヤバンパーのサイズが若干拡大されており、上方排気のレイアウトが採用されている「600LT」。

1994年に「F1ロードカー」のデリバリーが開始されると、マクラーレンのもとには、そのパフォーマンスの優秀さを高く評価したカスタマーから、それをベースとしたモータースポーツ用の車両を製作するリクエストが数多く寄せられるようになる。

しかしマクラーレンは、F1の開発当初から、それをモータースポーツの世界に投じる計画は持ち合わせておらず、あくまでもオンロードにおいてその究極的なパフォーマンスをカスタマーに提供することを、基本的なコンセプトとしていた。

だがストックの状態でも、簡単なモディファイを施すことで十分な戦闘力を得ることが可能であることが確かなF1。それがプライベーターの手によって製作され、レースにエントリーされる前に、自らの手でコンペティションモデルの製作に着手する方がマクラーレン・ブランドの価値を落とすことはないだろう。そう決断されるまでに長い時間は必要ではなかった。

そして1995年、伝統のル・マン24時間レースに参戦したGT1クラスのマクラーレンF1 GTRは、雨の中さまざまなトラブルで脱落していくWSC(ワールド・スポーツカー・クラス)や、プロトタイプ・クラスのライバルを破り見事に優勝。翌1996年シーズンはより厳しくなった吸気制限によりパワーは前年の636PSから600PSにまで絞り込まれ、またポルシェが911 GT1をデビューさせるなど強力なライバルの登場で、苦戦を強いられることになる。

ロングテールという特別な称号

そこで1997年シーズンのためにマクラーレンが行ったのが、新たなホモロゲーションを取得することを目的に、ボディデザインを大幅に見直したモデルを製作すること。「F1 GT」と呼ばれたそれは、これまでのF1 GTRとも、そしてもちろんそもそものベースであるF1とも大きく異なるアピアランスを持つもの。圧巻なのはやはり前後ともに大きく拡大されたオーバーハングで、ホイールベースの2718㎜はベースのF1から変化はなかったが、全長はそれによって640㎜も延長されていたのである。そしてこのモデルには、その独特な造形からLT(ロングテール)のニックネームが与えられることになる。

いささか前置きが長くなってしまったが、ここまでのストーリーを理解することは、2018年に登場したここでの主題、「600LT」の成り立ちを知るうえでも大いに役立つ。すでに2021年に生産を終了したスポーツシリーズのファーストモデル、570Sをベースにさらに高性能な走りを追求したモデルが600LTである。

すでにマクラーレンは2015年にはスーパーシリーズで675LTを発表しており、LTの意味するところや、そのキャラクターはカスタマーには良く知られていたところだったが、じっさいにこの600LTが発表されたことで、LTはマクラーレンの高性能モデルとして今後もそれが使われるのだということを意識したカスタマーも多かったに違いない。じっさい2020年には最新のスーパーシリーズをベースに765LTが誕生している。LTはマクラーレンにとって特別な称号なのだ。

できるところはすべて軽量化

600LTのスタイルをもう一度確認してみると、さすがにF1GTのような過激なロングテールの造形は採用されておらず、変化としてまず分かるのは、固定式の大型リヤウイングやリヤバンパーのサイズが若干拡大されており、上方排気のレイアウトが採用されているといった程度。それでもエアロダイナミクスはさらに向上し、ミッドに搭載される3.8リッターV型8気筒ツインターボエンジンも、570Sから30PSのエクストラを得て、車名に示されるとおり600PSの最高出力を得た。参考までにその車重は同様の比較でマイナス96kgとなる1247kg。マクラーレンによれば、軽量化できるところはすべて軽量化したとのことで、じっさいにはフロントスプリッターや改良されたサイドシル、長さが追加されたサイドインテークなどが新たにカーボンファイバー化されている。前で触れた固定式のリヤウイングや長く伸びたリヤバンパー、ディフューザーも同じくカーボンファイバー製。結果的に570Sからは25%ものパーツが変更されている計算になるという。

さらなる軽量化を望むカスタマーのためには、P1で初めて採用され、その後675LTでもオプション設定されたレーシングシートなどの装備がMSOから用意されていた。その総重量はスタンダードなシートより21kgも軽量なもので、キャビン全体にわたるアルカンターラ仕上げのインテリアトリムや、フットウェルやカーペットの廃止、エアコンやオーディオのレスオプションなどの選択もあった。フロントガラスやリアバルクヘッドスクリーンの厚さをより薄くすることも可能だった。よりサーキットにフォーカスしたセッティング、そして走りを実現した600LT。その生産は2018年10月から1年間の期間限定で行われた。

最高出力は車名に示されるとおりの650PSを発揮する。

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著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…